慶應義塾大学ビジネス・スクール 2014年度公開講座
小幡績准教授
「Perfume,AKB,そしてKPP~新しい時代のファイナンス理論:KPP理論」
慶應義塾大学ビジネス・スクールは6月20日、同大学三田キャンパスで、2014年度第2回公開講座を開催した。今回は小幡績准教授が、「Perfume,AKB,そしてKPP~新しい時代のファイナンス理論:KPP理論」をテーマに講演した。
小幡准教授は「講義で大切なのは、決められたレールに乗って、議論をすることではない。自ら軸を立てて、思考することだ」と述べ、日本のポップアイドルを題材にケーススタディを展開した。ポップアイドルの成功の本質は「愛」にあり、また、日本の大手家電企業の失敗の本質も「愛」にあると語る。以下、当日の講義の様子を紹介する。
■講師略歴
小幡績慶應義塾大学大学院ビジネス・スクール准教授
1992年:東京大学経済学部卒業
1992年:大蔵省(現財務省)入省
1999年:同省退職
2000年:IMF
2001年:一橋大学経済研究所専任講師(2003年まで)
2001年:Ph.D.(経済学)ハーバード大学取得
2003年:慶應義塾大学大学院ビジネス・スクール准教授
■主要著書
『GPIF 世界最大の機関投資家』(東洋経済新報社、2014)
『リフレはヤバい』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2013)
『成長戦略のまやかし』(PHP研究所、2013)
『ハイブリッド・バブル―日本経済を追い込む国債暴落シナリオ―』(ダイヤモンド社、2013)
『やわらかな雇用成長戦略』(角川書店、2013)
講義は、受講者と対話をしながら進められた。日本を代表するポップアイドルであるPerfume、AKB48、きゃりーぱみゅぱみゅ(以下:きゃりー)について、それぞれ、YouTubeの動画を適宜引用しながら、紹介した。
小幡准教授は、自ら各グループのファンクラブに入会し、ライブ会場へ足を運ぶフィールドワークに基づく研究成果を、受講者の声を交えながら解説した。
それぞれのアイドルについて、良さを考察。Perfumeの良さは、高感度、Perfumeが一番のPerfumeのファン、適正なファンの男女比、AKB48の良さは、女性グループであること、グループであることで繊細なキャラが成り立つ、かつてのおにゃんこクラブの仕組みをシステム化した点、きゃりーの良さは、コンテンツの良さ、本人の頭の良さ、ピンで成り立つキャラクター、強さなどと分析した。
全員テレビに出す、当たったら一気に行く
きゃりーの成功要因として、アイドル本人のパワーとアイドルを支えるスタッフの思いや熱意が整合的であった点を指摘した。
その上で、アイドルに詳しい業界人との対話を紹介。「どの子が当たるかは分からないので、可能性のある子は、全員、テレビに出す、当たったら一気に行く」というアイドルの成功するまでの過程を紹介した。
補足として、ももいろクローバZをどう分析するかを提案。小幡氏は「私自身、分からないです。ただ、ケーススタディで大切なことは、答えがあるものを探してはいけないことです。軸を考えることが重要です」と語った。
米国ではスター、日本はアイドル
他国との比較も行い、アメリカのマドンナやLady Gagaとの違いを考察した。「アメリカのアイドルは世界で通用するが、他国のアイドルが通用しないのはなぜか」と問題提起した。
アメリカと他国が決定的に違う点は、米国ではスターであり、カリスマであり、憧れの対象であるのに対して、日本ではアイドルであり、隣のクラスの女の子であり、愛する対象であると指摘した。
これを経営面で見ると、アメリカではトップダウン型のリーダーシップが求められるのに対して、日本では、兄貴分じゃないとリーダーになれない。好かれないとダメだという。
キーワードは「愛」、コンテンツの良さと成功要因は別だ
では、日本のポップアイドルはなぜ成功したのか?そのキーワードは「愛」にあるという。「Perfumeは愛を生み出し、AKB48は愛を刈り取り、きゃりーは愛を表現する。Perfume、AKB48は愛そのものをコンテンツとした」と語る。
アイドルのコンテンツについては、何もない空洞であり、空洞なものほど愛しやすいとの解釈を示した。「株でいえば、中身のない会社の株ほど、バブルになる。トヨタという中身のある会社では、中身がある故に株価が高いのか低いのかを比較できるが、中身のない会社は比較できない。5000円が適切なのか、1万円が高いのか評価できない」と語る。
「マーケティングで成功したものはない。狙ったものはすべて外れる。コンテンツの良さと成功要因は別だ」という。
Perfumeについては、窯変(ようへん)理論を展開。「あたかも、窯で焼きものを焼き、陶器の色を出すように、何が起こるか分からない状況の中で、生まれた偶然の産物がPerfumeの成功要因だ」と述べた。
「イノベーションはメインストリームからは生まれない。辺境からイノベーションは生まれる。ただ、どんな人がイノベーションを起こすかは分からない」という。
イノベーションは、戦略では生まれず、組織マネジメントでも創れない。マーケティングでは革命は起きず、生産管理ではない。イノベーションは、自然と偶然からしか生まれず、窯の焼き物と同じ窯変のように生まれる。
愛こそが本質であり、愛はサプライズから生まれ、経営で愛は生まれないのではないか問いかけた。
一方で、愛から生まれる経営があると指摘。愛を生み出すマーケティング、製品に対する愛、技術に対する愛、職人という美学など、愛から生まれるイノベーションの可能性を指摘した。
シャープ、パナソニック、ソニーは愛の罠に陥った
ここで、日本の大手家電メーカーのシャープ、パナソニック、ソニーはなぜ失敗したのかを考察した。
失敗の要因は、いずれも溢れすぎた愛にあると指摘。「シャープは液晶とようやく得た世界一のポジションや、やっとシャープ自身を愛せるようになった自己愛、パナソニックはプラズマディスプレイの失敗、生産拠点として日本と大阪を愛しすぎたのではないか」と述べた。
ソニーは、ソニーというブランドに対する自己愛のほか、ソニーらしい製品というソニーナルシズムがあったのではないかと指摘した。
また、側面的要因として、日経、東洋経済、ダイヤモンド、といった経済メディアや経営学者が2005年まで、シャープやパナソニックの経営を絶賛していた点をあげた。
失敗の本質は愛?
企業を生かすも殺すも愛で、愛がなければイノベーションが生まれない。但し、愛がありすぎると自滅する。
ソニーは当初、小さな会社で技術を生み出した。その技術への愛ゆえに成功するが、愛をコントロールできなくなった。井深氏が存命の時は、井深さんの言うことなら理屈がなんであろうが聞く仲間がいたが、社長が出井氏になると、「技術も分らんくせに」と、言うことを聞かなくなった。愛がコントロールできなくなった。
さらに、ソニーは映画投資、半導体投資をするなど、ビジネスと組織を拡大し、普通のマネジメントが必要になってしまった。マネジメントからは、イノベーションは生まれないと指摘した。
愛はカネでは得られない
続けて、愛はカネでは得られないとの論を展開。「愛を守るなら、カネはかけない、カネの投入が愛の終わり、カネの切れ目が愛の切れ目で、カネのある愛は成立しない、愛とカネを分離することが必要」と述べた。
シャープであれば、液晶を愛するなら、液晶生産ラインに金をかけてはいけないと指摘。研究開発投資は、愛を生み出すものだが、製品開発投資、生産ライン投資は、愛をカネで守る戦略。コストだけを無理やり下げるために規模を追う、愛する液晶の価格競争力を得るためにカネを投入した。その後、研究開発投資のカネもなくなり、愛を失い、新たに愛を生み出さなくなったと分析した。
パナソニックであれば、プラズマを愛するならば、コスト低下のためのギャンブル投資はしてはいけなかった。大阪と松下を愛せればこそ、その精神を尼崎ではなく、タイ、中国といった新興国へ広めるべきだった。
ソニーは、映画や半導体に投資さえしなければ、好きなように製品を作ることができた。また、顧客がソニーブランドが強い故に、ソニーと名が付けばなんとなく品質が良いというイメージで、ソニーを甘やかせたと指摘した。
大手家電メーカーは、良い製品であれば、グローバルマーケットで売れると思っているがそうではない。
ポップアイドルのコンテンツはオリエンタルコンテンツであって、コンテンツは市場を真似していない。マーケティングで市場にあわせたコンテンツを作れば、それは偽物になる。ただし、ビジネスモデルはネイティブにあわせている。
日本の悪いところは、コンテンツが良ければいいと思っている点にある。PerfumeもAKB48も海外ではいまいちで、きゃりーだけが海外で受けている。
BtoCのマーケットでは、グローバルでもくだらないものを売る時が一番、儲かると述べた。
アップルは第二のソニーになるのか?
ここで、日本の大手家電企業を打ち負かしたアップルとサムスンについて議論を移した。アップルは、スティーブ・ジョブスが亡くなり、第二のソニーになるかもしれない。ブランド力が上がりすぎた。一部の通の消費者がアップル好きで、大衆はマイクロソフトという構図では競争力があったが、大衆がアップル好きになってしまうと、シェアが取れるため、シェアで儲けようとする。すると、普通の会社になってしまう。
サムスンは、設備投資のギャンブルに優れている。サムスンの強さは勝てるものだけに、ギャンブルする点だ。ただし、シェア獲得にまい進しすぎている。血みどろの争いに勝ったからいいが、規模の戦いなら、世界で勝者は1人となる。テレビはコモディティ商品でもあり、次は負ける可能性があると指摘した。
しかし、小幡准教授は、「アップルは第二のソニーにはならない」と語る。アップルは利益率を最優先し、設備投資はしない持たざる経営で、カネはためるが使わない。サムスンも利益率がもともと高く、勝負しても余力があり、失敗してもクッションがあると分析した。
日本企業はNPO
日本企業の特徴は、利益を求めない点にある。「愛する製品を愛する顧客に使ってもらうことが目的で、儲けることが目的ではない。企業、ブランドの存続が最重要で、黒字なら問題がない。だから、マンションも製品も眼に見えないところで手抜きをせず、世界最高品質が可能になる」と述べた。
Perfume、AKB48、きゃりーから何を学ぶか
日本企業はたとえていえば、Perfumeに近い、自社を愛し、儲ける気がなく、素晴らしい。しかし、持続可能なのか、競争に巻き込まれた時はどうなるのか。AKB48は、愛を利益に変えた。当然のことを堂々とした。利益最優先で日本企業に一番、足りないものを持っている。きゃりーは、PerfumeとAKB48の融合系。日本企業でも実現可能性が高いモデルとなる。いい製品を作る点では、コンテンツがあり、コンテンツ、中身で勝負する。同時に移植可能性を考える。コンテンツ、中身をいかしつつ、売り方、魅せ方を考える点が学べるのではないか。
しかし、きゃりーは日本人好みではない可能性もある。知名度は高いが、Perfume、AKB48に比べ、熱狂的なファンは少ない。
最新ファイナンス理論:KPP理論
KPP理論はきゃりーをモデルとしたもの。誰がアイドルで売れるかは分からない。タレントも誰が売れるかは分からない。窯変理論のように予測がつかない。
企業においてはガバナンスは、愛、イノベーション、ファイナンスを殺す。ガバナンスは会社が無茶苦茶な時に機能するものであり、普段は使えない。
ファイナンスでは、できるだけ投資しないのが基本。大切なことは、ガバナンスしなきゃいけない状況に陥らないことにある。
大手プロダクションが強い理由は「ギャルの法則」にある。当たるか分からないが、面白そうな人は全部、打ち出す。そして、当たったら一気に行く。
だから、企業でも最初は物量を投入しない。勝ちが決まってから投入する必要があるという。
MBAで忘れられた経営科学として、ビジネスは確立分布であり、絶対はない。当たった後が勝負であるという点がある。儲かる。その儲けにどれだけレバレッジをかけれるのか。ソフトバンクの勝負の仕方は普通ではない。
ギャンブルすべきところでギャンブルするのが経営。リーダーシップは、どこでギャンブルするかの判断にある。勝負すべきギャンブルとすべきでないギャンブルを分け、勝つギャンブル、アップサイドの大きなギャンブルだけ勝負する。
組織は効率的な動員が必要で、マーケティングはどこまで売りまくれるか、ファイナンスは、勝負どころでの動員のタイミングが重要となる。
質疑応答
質疑では、講座の募集要項にあった不確実性について解説を加えてほしいとの質問が上がった。
小幡准教授は、不確実性の考え方として、「ナイトの不確実性」を紹介した。リスクも不確実性も日本では、同じリスクと翻訳されることが多いがこれを別に考える理論。リスク(Risk)は確立分布で想定できるもの。不確実性(Uncertainty)は、確立分布で分からないものとする。現代は、ほとんどが確立分布が分からない状況にある。新しいものは、ナイトの不確実性から生まれるもので、そこは誰もやらないので、儲かる。
しかし、リスクコントロールできないところにカネをかけてはいけない。そこに課題がある。たとえば、製薬会社のファイザーは、ベンチャーに種をまかせ、種を特許という形で刈り取る経営をしていると解説した。
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