流通ニュースは、流通全般の最新ニュースを発信しています。





セブン-イレブンの公正取引委員会立ち入り調査問題の本質

2009年03月04日 / 商人舎からのメッセージ

セブン-イレブンの公正取引委員会立ち入り調査問題の本質

結城 義晴氏(商人舎 代表取締役社長)


セブン-イレブン・ジャパンに公正取引委員会が調査に入ったニュース。2月20日に新聞が一斉に報じました。

消費期限の迫った弁当やおにぎり、生鮮食品などを値引きして売り切る。いわゆる「見切り販売」。小売業における売り切りと利益確保の技術として、「不可欠」と言い切る人もいるほどです。

フランチャイズチェーン本部はかねてから加盟店に、この「見切り」行為を制限していた。そこへ公正取引委員会が、独占禁止法違反の疑いがあるとして調査に入ったもの。独禁法の中の「優越的地位の乱用」に当たるという。

売れ残り品が廃棄された場合、加盟店が仕入れ原価を負担するため、加盟店に不利益が生じます。だから一部の加盟店は、消費期限が過ぎる前に「見切り」する。

この問題は、二つに分けて考える必要があります。

第1は、本部と店舗の役割分担に関するチェーンオペレーションの問題。とりわけフランチャイズチェーンの問題。第2が、「見切り」という営業行為の問題。  


第1のチェーンオペレーションという側面から考えると、レギュラーチェーンと呼ばれる直営のチェーンストアならば、全く問題はありません。会社の決定には、従わねばならないからです。

しかし、フランチャイズチェーンの加盟店は、独立した資本家です。そこで「優越的地位の乱用」という問題に至った。

加盟店の「見切り販売」を、セブンイレブン本部は当初、「契約違反」として制限していました。しかしこの本部の判断に対して、加盟店からの苦情があったといいます。

そこで公取委は2002年4月にガイドラインを改定しました。「本部が加盟者に正当な理由がないのに値引き販売を制限し、売れ残りとして廃棄を余儀なくさせること」を禁じたわけです。

従って今回、セブン-イレブン本部は、「厳粛に受け止め、調査に全面的に協力している」とコメントしています。

しかし私は、フランチャイズチェーンといえども、本質はチェーンストアであると思います。本部と店舗との関係が契約によってなされているとはいえ、チェーンストアの原理が貫かれていなければ、本部にも店にも、メリットは生じない。

従って一部の店舗の事情が、全体の顧客ロイヤルティを侵害すると考えられる場合、本部は当然ながら全体を優先します。

チェーンストア経営に「鎖のたとえ」があります。チェーンストアはかつて「連鎖店」と呼ばれました。鎖の輪がつながっているような経営体である、と。

この鎖の全体の強度を考えると、一番弱い輪の強度が、鎖全体の強度とイコールになります。鎖が切れて、鎖の機能を果たさなくなる瞬間は、一番弱い輪が切れるときだからです。

だからチェーンストア経営では、鎖全体の強度を確保するために「標準化」という概念を最重要視します。

フランチャイズチェーンにおいても、この本質は変わりません。

今回のセブン-イレブンの「見切り販売問題」に関しても、ほとんどの店で「見切り」をしない方がよいのであれば、それを標準とします。だからこの本部の判断に反対の加盟店は、冷たいようですが、独立資本家の意思をもって、他のチェーンに鞍替えしたらいいと、私は思います。

その自由は保障されている。

私は、レギュラーチェーンの本部と店舗においても、フランチャイズチェーンの本部と加盟店においても、両者は、「完全なる対等関係」をもたねばならないと考えています。完全なる対等関係が侵害されるとき、優越的地位の乱用が起こるのです。


しかし今回の問題は、結果として皮肉な現象を引き起こしてしまいました。チェーンストアの標準化と「個店経営」との関係性の問題に関するパラドックス。

「個店経営」は日頃、セブン&アイ・ホールディングスが標榜していることです。チェーンストアであっても、1店1店はみな違う。だから「基本は個店経営である」という主張。

しかし一方で、フランチャイズチェーンといえども、本部統制のもとに、チェーンオペレーションが展開されねばならない。ところが、フランチャイジーの加盟店の中から、本部の指示に従わない店が出た。従わない店に、監督者であるスーパーバイザーが指導します。

「本部の指示は、全体最適のためです。その方が最後には個店のメリットになるのです」加盟店は反論します。

「いや、自分の店があってこそ、全体だろう」。フランチャイズチェーンの加盟店は、もともと独立した資本家です。だから本来、個店経営ではあります。

しかし個店経営といっても、フランチャイズチェーンに加盟しているのであれば、チェーンオペレーションの統制の傘の下に入る。

1万2000店の枠組みの中で、チェーンオペレーション全体が大切なのか、はたまた個店経営が優先されるのか。「見切り」はその本として、チェーン全体の問題なのか、個店の課題なのか。「個店経営」を標榜していたセブン-イレブンだからこそ、極めて面白い事件となったのです。

ただし公正取引委員会で、「黒」と判定されたら、これは法律の問題となる。それは見守らねばなりません。


第2は、「見切り」という商行為の問題。なぜ、見切りするのか。 
 
それは、在庫を売り切って、現金化するためです。間違いなく経営行為の一つの手段。

その意味では、生鮮食品や弁当・惣菜だけでなく、衣料品でも雑貨でも、見切りはする。

生鮮食品や惣菜は、鮮度劣化したり、消費期限を超えたりすると、商品価値は著しく低下する。もしくは皆無になる。だから商品価値がゼロになる前に、安い値段をつけて、販売します。

顧客にも、それが店のルールとして、知れ渡っていれば、顧客との約束を破ることにはなりにくい。
しかし、なぜ見切りする商品が生まれるのか。 
 
それは、売れ数の予測が狂い、発注が過多になったからです。

小売業は、最終販売者です。そのあとの顧客は、商品を転売することはない。最終販売者ということは、誰かから買って、誰かに売る。

誰かから買うときに、ミスすると、在庫が残る。この残った在庫の責任は、誰が取るか。小売業者です。最終販売者の。

本来、仕入れた商品、発注した商品は、すべて売り切れることが理想です。その理想主義的な経営をセブン-イレブンは、一貫して追求しています。

だからセブン-イレブン本部が考えるように、見切りをしてもよいという前提があれば、発注の精度が落ちる。これは確実なことです。

従って、見切りを認めたからといって、廃棄の数量が減るかというと、それは違います。ここには、おそらく、「8-2の原則」が適用できると思われます。

8割の加盟店は、見切りをうまく活用する。2割の加盟店は、見切り制度があっても、廃棄数量は、変わらない、あるいは増える。

これも推測の域を出るわけではありませんが、現在、セブン-イレブンの加盟店の中で、発注精度が甘く、廃棄の量が多い店は、見切り制度が容認されたとしたら、発注はさらに甘くなり、発注量が以前よりも多くなり、見切りしても廃棄は出るという矛盾に陥る。いたちごっこになる可能性が強いのです。商売とはそういうものです。

「見切り」はあくまで行為であり、手段です。行為や手段の是非は、その行為や手段が上手に活用できるか否かによって、判断されるものです。

野球のバントが、いい作戦か悪い手段か。それ自体の問題は、大きな戦略判断ですが、その前に、バントが上手か下手かの方が問題となります。

ただし、多くの方から指摘があるように、生鮮品や惣菜の廃棄は、地球環境問題や食糧問題、人口問題に関連しています。これは、世界の共通認識です。

だからこの問題に反することは、許されない。損得より先に善悪を考えるべきです。

生鮮や弁当・惣菜は腐るし、消費期限があります。だから廃棄をゼロにすることは不可能です。

セブン-イレブンの惣菜・弁当の「見切りか廃棄か」の問題は、この観点から考えると、総量の問題となります。

それへの対応策として見切り制度を導入しても、先の発注の甘い店が、以前より多量の発注をしてしまったら、廃棄は出ます。そして、環境対応としては、マイナスになってしまう。

しかし、セブン-イレブンが、企業全体として、チェーン全体として、現在以上に積極的に、廃棄総量を激減させることを、第一目的化し、運動化するならば、話は別のことになります。


結論。  

第一は、セブン-イレブンが公正な取引に、抵触するのか否かの問題。

これは、法廷論争になるかもしれませんが、チェーンオペレーションの「鎖の経営」の理屈がガイドラインの「正当な理由」となるかどうか。「制限」をしたか否かの判定となれば、事実がそれを証明するとしか言いようがない。

第二は、チェーンオペレーションと個店経営の問題。
  
皮肉なプロセスにはありますが、チェーンオペレーションの視点から判断すると、セブン-イレブン本部に、論議の歩はあると思います。そもそもの、公正取引員会のガイドラインから再検証されねばおかしい。

第三は、コンビニチェーンが見切り制度を導入することの是非。
  
これは、企業独自の方針であり、重要な戦略問題です。まったくもって、セブン-イレブン本部にお任せすべき問題。

そして最後に第四に、環境問題と食糧危機問題。 
 
セブン-イレブンという日本最大規模の小売業には、積極的に、先導的に、この問題に取り組んでほしい。これは、私の要望。

商業現代化、商業基幹産業化という大目標のためにも。
見切り制度を導入すれば、おそらくセブン-イレブンは、最もバントが上手なチームになる可能性は高いのだから。



■結城義晴 プロフィル
——-

1952年福岡生まれ。早稲田大学卒。(株)商人舎代表取締役社長、コーネル大学リテール・マネジメント・プログラム・オブ・ジャパン副学長。商人の魂をもったジャーナリストを標榜し、主にイノベーションとホスピタリティの側面から論述を展開中。結城義晴のBlog[毎日更新宣言]はそのベースキャンプ。

http://www.shoninsha.co.jp/

関連記事

関連カテゴリー

最新ニュース

一覧