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トップインタビュー/東急モールズデベロップメント 佐々木桃子社長

2024年03月25日 10:00 / 流通最前線トップインタビュー

生活者の消費・ワーキングスタイルが変化する中、商業施設運営は物販にとどまらないサービス、地域コミュニティーとの連携など進化が求められている。東急グループの一員として、まちづくりのDNAを受け継ぎ、人とまちの生活を豊かにする商業施設を目指す東急モールズデベロップメントの佐々木桃子社長に今後の戦略を聞いた。

東急モールズデベロップメント

23年度、飲食・食物販が好調

――事業概要と現在の業績について教えてください

佐々木 当社は東急沿線を中心に31の商業施設(2024年2月現在)を運営し、入居テナントは1372店舗(2023年3月)となります。2023年3月期の売上高は約2241億円でした。

2024年3月期売上高は、前年同期を上回る水準で好調に推移。コロナ前の2020年3月期も上回る施設も増えています。特に、カフェ、飲食、食物販、子どもの室内遊び場といったサービスが好調です。ただ、客単価は上がっているのですが、2020年3月期に比べ、若干客数が戻っていません。ここにまだ伸びしろがあると考えています。

――客数減の要因は

佐々木 駅チカ・駅ナカ商業施設を運営していますので、電車の乗降客数の減少に連動しています。アパレルを中心にECに顧客が流れていることも原因の一つです。ワークスタイルの変化で在宅勤務をされる方もいますし、通勤回数が減り、電車の利用者が減少していると思われます。

ただ、施設の利用頻度はそこまで落ちておらず、施設特性にかかわらず、当社の施設に、週1回以上いらっしゃる方が6割ぐらい。全施設で、週平均1.9回です。平日は駅チカ施設、休日はグランベリーパークのような郊外型施設と使い分けされている印象です。

また、テレワークに自宅ではなく、コワーキングスペースを使いたいという需要もキャッチしています。当社の運営する「港北TOKYU S.C.」、「たまプラーザ テラス」、「グランベリーパーク」「青葉台東急スクエア」「香林坊東急スクエア」では施設内にグループで運営している法人向け会員制シェアオフィスや、どなたでも使用可能なコワーキングスペースを導入していますが、好評です。テレワークをしている両親と一緒に、お子さんが受験勉強しているという利用者もおり、生活者のワーキングスタイルの変化を感じます。このような変化に積極的に対応し、多くの方に来館いただきたいと考えています。

データマーケティングでグループ連携

――マーケティング施策について教えてください

佐々木 今、まさにグループのデータを活用したマーケティングを強化しているところです。グループの顧客基盤である東急ポイント会員数は、約266万人です。さらに、TOKYU ROYAL CLUBという商業施設にかぎらず、百貨店、ホテルなど東急グループのサービスをご愛顧いただいているお客様に向けたおもてなし制度もあります。こちらは現在約8万人の会員がいます。

このTOKYU ROYAL CLUB利用者を分析すると、この約8万人のうち56%がたまプラーザを利用していることがわかりました。このようなデータをもとに、ロイヤルカスタマーの動向の分析、潜在顧客の取り込みといった施策を考えていきます。

東急に、URBAN HACKSというデジタルマーケティングを取り組んでいる部門がありまして、ここと連携して「東急カードアプリ」を活用したデジタルクーポンなど新しい取り組みにも挑戦をしているところです。

――データ分析を既存店の改装にも生かしていますか

<たまプラーザ テラス>
たまプラーザ テラス

佐々木 現在、「たまプラーザ テラス」をモデル店舗に、東急線沿線のほかの施設にも、顧客データ分析で得られた知見を展開することを検討しています。

今春の改装に向けて、データを活用した市場調査に加え、顧客への対面調査も行いました。コロナ禍を経て、自宅で過ごすことが増え、高感度なスポーツ用品、ペット用品へのニーズがあることがわかりました。

そこで、リニューアルのテーマは「こころもからだも満たされる」としました。家族や友人とより多くの時間を過ごせるよう、社会情勢の変化に伴う顧客の生活様式やニーズの変容に合わせて、新規4店舗、改装3店舗が順次オープンします。

ヨガウェアからアウトドア用品まで幅広い商品ラインアップをそろえるスポーツショップ「オッシュマンズ」、最新のグッズやおもちゃ、ファッション、日常の食事や手入れ用品などがそろう高感度のペット用品店「P2 ドッグ&キャット」を新規導入します。

地域の魅力をみつけ、発信する「FIND LOCAL」推進

――コロナ禍を経て地域に密着した施設運営を強化していますね

佐々木 昨年7月、当社と、地域の皆様が一緒に地域の魅力をみつけ、集め、発信する「FIND LOCAL(ファインドローカル)」を発足しました。今までも、例えば武蔵小杉東急スクエアで、中原消防署や東急線武蔵小杉駅と連携し、消防署員、駅員になりきって写真撮影ができる「ちびっこ制服着用体験」を開催するなど、施設単体で地域連携のイベントを開催していました。昨年夏には、複数の施設で開催し、お子さまが職業体験するキッズスタッフイベントに拡大し、10施設で197枠、約550名の募集に対して、1万3969件の応募があるなど、地域の方に楽しんでいただける催しを展開しています。

青葉台東急スクエアでは、地域の名店を集めたマルシェイベント「青葉よりみち名店」などを行ってきましたが、今年度も、青葉台東急スクエアの地元中学校の吹奏楽部による演奏会「スクエアコンサート」、中央林間東急スクエアでの地元幼稚園の園児の皆さんが海をイメージして制作した飾りを使用し、館内装飾を実施した「中央林間幼稚園おさかないっぱい!作品展示」を行い、地域の皆様に施設に足を運んでいただいています。

<たまプラーザ テラスのFIND LOCAL FES 2023>
たまプラーザ テラスのFIND LOCAL FES 2023

「FIND LOCAL」では、公式ウェブサイトおよびSNSを開設し、地域共創の取り組みやイベント、地域情報の発信を強化しています。昨年10月には、「FIND LOCAL FES 2023」を「たまプラーザ テラス」「青葉台東急スクエア」で実施。社会福祉施設などとの合同マルシェ、地域団体のワークショップなどを開催しました。

<青葉台東急スクエアのFIND LOCAL FES 2023>
青葉台東急スクエアのFIND LOCAL FES 2023

今後、イベントで顧客の支持を得たポップアップショップの運営者に常設店を出店いただいたり、地域のイベントを切り口に、今まで当社の施設をご利用になっていなかった潜在顧客を掘り起こしたりと、既存の施設運営にもつなげたいと考えています。

――生活者だけでなく、企業との連携も深めていますね

<Canvas βaseベース>
Canvas βase

佐々木 事業者のチャレンジを支援するトライアルショップ 「Canvas βase(キャンバス ベース)」を東急電鉄 武蔵小杉駅定期券売り場跡地に3月29日に開業予定です。

武蔵小杉駅の改札横に位置する視認性の良い定期券売り場跡地に、商業区画としての魅力と可能性を見出し、事業者が短期間かつリスクの少ない歩合賃料制でトライアル出店ができる場として活用します。

この事業の開始にあたって、地域振興のための展示会に出展したのですが、地方自治体からの反応も良かったです。地方の企業が、いきなり首都圏で出店するのはハードルが高いですが、1週間程度から出店でき、まだリアル店舗をお持ちでない事業者の方でも、お客様の反応を見られるトライアルの場を提供します。

AIカメラを設置して入場者の反応を確認したり、前面通行量に対する入店率を分析したりといったデータのフィードバックも検討したいと考えています。

――テナント誘致のやり方も変わってきているのでしょうか

佐々木 2022年度に新設した営業本部では、組織を、従来型の運営施設のリーシングを行う「リーシング開発部」に加え、「営業企画部」を新設しました。こちらでは、「Canvas βase」を活用した新規取り組み、新規開発案件のMDコンセプトや運営計画の立案、MDゾーニング、商業観点の設計アドバイス業務、コンサルティング業務までかかわっています。

<営業企画部でリーシングを深化と佐々木社長>
コワーキングスペースの使い方も変化と佐々木社長

――業務の垣根を超えた取り組みが必要そうですね

佐々木 テナントの誘致と一口に言っても、さまざまな知識が求められる時代です。グループの人事交流を生かし、社員にはさまざまな経験を積んでもらっています。

東急の開発部門やアセットマネジメント(AM)部門に、当社の社員が出向しています。また、現在の渋谷ヒカリエの総支配人には当社の社員が出向していますし、渋谷スクランブルスクエアの商業施設や、展望施設「SHIBUYA SKY」の運営でも当社の人材が活躍しています。

いわゆるプロパティマネジメント(PM)だけでなく、商業施設に関するさまざまな立場を経験しながら、グループでうまくバリューチェーンをつないで取り組んでいます。

当社は地域密着型SCの運営を強みとしますが、出向先で多様な業務内容を経験できる強みに加え、都心部のお客様のニーズを知ることもできます。地域のことだけでなく、広域、インバウンドといった違うアプローチが必要なお客様についてもアンテナを張り、情報を収集しています。逆にわれわれのスタッフが出向することで、グループの開発部門の方に、当社が長年培った施設運営のノウハウ、テナント情報などを提供できるのが、グループの強みですね。

テナントのESも強化

――テナントとの関係強化について教えてください

<「おみせの休日」ポスター>
「おみせの休日」ポスター

佐々木 「たまプラーザ テラス」は、従業員満足(ES)向上を目的に、出店店舗が自由に休業日を設定することができるフレックス休暇制度「おみせの休日」を2024年1月から試験的に開始しました。

慢性的な人員不足と、それによる働く従業員一人一人の負担増加、人材確保難という小売業界を取り囲む課題に対応し、各出店店舗で、年間2日まで自由に休業日を設定できる制度を導入します。

まだ始まったばかりの制度ですが、テナント企業の反応などを見て、他施設への展開も検討します。

――ESでは「MOTTAINAIテラス」にも取り組んでいますね

ESかつフードロス削減にもなるMOTTAINAIテラス(モッタイナイテラス)」を「たまプラーザ テラス」で、2021年から実施しています。

<MOTTAINAIテラスでフードロス削減>
MOTTAINAIテラス

施設で働く約2000人の従業員に向けて、LINEのオープンチャットを活用し、賞味期限間近となった商品を告知し販売することで、飲食や食物販店舗のフードロスを削減する活動です。年間約510キロのフードロスなどの削減に寄与しています。「たまプラーザ テラス」での取り組みを受けて「グランベリーパーク」でも2023年2月から導入しました。

<LINEのオープンチャットを活用>
LINEのオープンチャットを活用

ちょっとお得に商品が購入でき、働きながらSDGsにも貢献できる活動として、スタッフに好評です。

また、サステナビリティ活動については、各施設の取り組みをより広く発信するため、公式ウェブサイトを公開しています。昨年5月には、フードロス削減に取り組む「Kuradashi」初の常設店舗を「たまプラーザ テラス」にオープンし、お買い物をしながらフードロス削減にも貢献できるため、お客様にも好評を得ています。

武蔵小杉東急スクエアでは、持続可能なまちづくりの実現に向け富士通社と共に、「むさしこすぎSDGsフェア」を共同開催しました。SDGsを楽しんで学べる体験を通じて、住民の皆様に地域のSDGsの取り組みをより身近に感じていただき、今後の積極的なサステナビリティ活動を促すきっかけを創出するものです。

その他の商業施設でも、地域のものづくり企業との共創イベントを実施するなど、皆様とのコミュニケーションや共創の機会を増やし、共に社会課題の解決に取り組み、地域の魅力向上とサステナブルな社会の実現に貢献してまいります。

<ESも強化と佐々木社長>
ESも強化と佐々木社長

――今後強化したい事業を教えてください

佐々木 当社の主要業務は商業施設の運営ですが、東急グループの一員として、沿線価値の向上、生活者の住みやすさの向上につながることにいろいろと取り組みたいですね。生活スタイル、ワーキングスタイルが変わっていく中で、商業施設の運営のかたちも変わり、開発との連携、イベントなどによる地域共生、「Canvas βase」のような従来のテナント誘致と違った企画というように、幅広いビジネスチャンスを探していきます。

施設運営を受託するまでは至らなくても、さまざまな施設で、一部の業務に関わる経験が、既存施設の運営にも活かされるのではないかと考えています。企画やリーシングを切り口にさまざまな事業にかかわり、われわれが培ってきたノウハウを生かし、特定の専門分野だけでも稼いでいけるようなビジネスモデルを構築したいと考えています。

今は、新規施設がどんどん開発されるという時代ではありません。その中で、施設運営を新規に受託するチャンスが巡ってくる確率は減るかもしれませんが、個別の業務であれば、商業施設だけでなく複合施設、駅の遊休エリア、今までチャレンジができていなかった都心のエリアなど、ビジネスチャンスがあるのではないでしょうか。

――テナントや地域の皆様へのメッセージをお願いします

佐々木 これからも、「FIND LOCAL」といったイベント開催、データ分析などで顧客接点を増やし、より生活者に便利で楽しんでいただける商業施設を運営していきます。地域の方や施設に訪れる皆様の笑顔があふれる、豊かな暮らしを提供し続けたいです。また、テナント、施設オーナー、生活者の皆様といったステークホルダーの満足、もちろん働く社員の満足度も大事にして、皆がwin-winで成長していけるような、そんな会社にしていきたいと考えています。

<皆がwin-winで成長する会社へと佐々木社長>
皆がwin-winで成長する会社へと佐々木社長

■佐々木桃子氏略歴
1992年4月:東京急行電鉄(現、東急) 入社
1996年10月:東急ワイ・エム・エムプロパティーズ
2001年7月:東急リアル・エステート・インベストメント・マネジメント 資産運用部 マネジャー
2014年4月:同 取締役執行役員 資産運用第二部長
2016年4月:東京急行電鉄(現、東急)都市創造本部 運営事業部 営業三部 部長
2020年4月:東急モールズデベロップメント 常務執行役員 未来創造本部長
2022年4月:同 代表取締役社長 就任 現在に至る

東急モールズデベロップメントの代表取締役社長を務める佐々木氏は、1992年4月に東京急行電鉄(現、東急/以下:東急)に入社。入社後、ビル事業部でオフィスビルの企画・開発、クイーンズスクエア横浜[アット!](現、みなとみらい東急スクエア)でテナントリーシング業務に携わる。2001年から東急リアル・エステート・インベストメント・マネジメントで、商業を中心に物件の運営に従事し、2014年に取締役執行役員に就任。2016年から東急にて商業物件の運営やオフィス営業の部門長を務める。2020年4月、東急モールズデベロップメントの未来創造本部長に着任し、新たな事業機会創出および経営基盤強化に向けて尽力。2022年4月1日付で、同社初の女性代表取締役社長に就任。

取材・執筆 鹿野島智子

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