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2006年12月、新宿サザンテラスに日本上陸1号店を出店し、行列の絶えないブームを巻き起こしたクリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン(KKDJ)。しかし、2006年から2017年8月まで、既存店売上高がプラスになったのは、わずかに1カ月だけという苦境に陥る。2015年からの大量閉店を開始、店舗数は64店から46店まで減少した。一方で、卸売事業、テイクアウト専門店、デリバリーといった新作にとりくみ、コロナ禍でも出店を重ね、業績は好調に推移している。今回、2012年からKKDJに参画し、ブームからブームの終焉、業績不振から復活までを経験した若月貴子社長に、KKDJ復活までの道のりを聞いた。
西友・経営共創基盤で経営企画や事業再生などを経験
――まず、KKDJ入社するまでのキャリアについて教えてください。
若月 よく女性経営者という観点から取り上げてもらうのですが、キャリア的には、女性らしい感性といったキーワードがないんです。簡単に振り返ると、大学卒業後、西友に入社、経営企画部門でグループ会社の資本再編等に関わった後、戦略系コンサルティング会社に転職しました。
――入社当時の西友はどんな会社でした?
若月 入社時にお会いしたOGの方に「西友は比較的男女が同等に扱われる会社だ」とお聞きしたのですが、実際入社してみると、当時では非常に珍しく社長はじめ役職者を「さん」付けで呼んでいました。女性の課長、部長、店長も当たり前にいらしたので、確かにフラットな社風だなと感じました。性別や年齢であまり区別されない。実際、自分自身も差別というか区別されずに仕事をさせてもらえました。
入社2日目で感じた違和感が改革のきっかけに
――KKDJへ入社したきっかけは。
若月 もともと私は事業会社でキャリアをスタートしたので、コンサルタントは5年以上やらないと最初から決めていました。転職先は、3つの条件「ユニットが小さい」「成長フェーズにある」「意思決定が早い」で探しました。当時のKKDJは、店舗数も増えていて成長フェーズであり、規模もさほど大きくなく、比較的若い会社だったので入社を決めました。
――これまでのキャリアはKKDJでどのように役立ちましたか。
若月 財務経理は、西友在籍時に子会社の経営管理を担当していたのでそのキャリアが役立っています。人事面では、コンサルタント時代の経験が生きています。
――入社時(2012年3月)のKKDJはどんな会社でしたか?
若月 2012年1月末に地上波ゴールデン時間帯のテレビ番組で大きく取り上げていただいた効果もあって、2012年3月期は過去最高売上高でした。既存店売上高は下落していましたが、新期出店で売上高が伸長していました。
――入社後、KKDJの異変をいつ頃感じたのですか。
若月 入社して2日目の店舗見学の時です。バックヤードをみたら、物は乱雑に置かれ、掲示物も乱雑に貼られていた。壁に貼られていた2011年度の目標には全社経営目標が書いてあった。その三つを見た瞬間、本社からの指示・命令系統に課題があると感じました。全社売上高の金額を提示されても、現場で働く人の行動には直結しない。
大学のサークルのような組織を「大人化」する
――会社を立て直すために、実施した施策を教えてください。
若月 まずは、組織・人事の立て直しに着手しました。当時の当社は大学のサークルのようで、組織として機能しておらず経営ができてない状況だった。当時よく、「組織の大人化」という言葉を使っていました。そのためにまず、やる気がある人、結果を出す人が評価される仕組みにするために人事制度を刷新し、若手の登用と育成に着手しました。
――数値の課題では、どんな項目に着目しましたか。
若月 コスト効率と出店戦略を再考しました。出店戦略でいうと、当社のビジネスモデルは、一般的な外食産業と異なり、いわばSPA業態。原材料を自社工場で加工し、自社の販売拠点に配送している。製造拠点と販売拠点を結ぶ効率的な配送ルートを構築できる出店戦略が重要だが、出店計画時にそれが重要視されていなかった。また、売上高が下がり続ける既存店の立て直しよりも、未進出エリアへの新規出店に意識が向いていた。
「いい警官」と「悪い警官」前社長と二人三脚で会社を改革
――前社長は、企業再建でどんな役割を果たしたんですか。
若月 「いい警察官と悪い警察官」でいうと、前社長がいい警官、私が悪い警官。社内に対して嫌なことを全部言うのが私の役割でした。
――言いづらいことを指摘するってなかなか大変ですよね。
若月 改革すると決めたら誰かが担わざるをえない役割。社長ではなく副社長である私の役割と割り切った。
――社長になって、やりやすくなったことはありますか。
若月 社員に対するコミュニケーションです。自分の言葉で社員に対し、今自分がどう考えているか、会社がどうしたいかを直接コミュニケーションできるようになった。
――まだ残っている課題はありますか。
若月 市場を広くみると、いわゆる“流行りものスイーツ”ブランドが長期にわたってブームを維持できた例は少なく、事業規模縮小から復活したブランドもそう多くはない。だからこそ、当社ブランドは稀有な存在であり、それを実現できたチームを誇りに思っている。しかしながらいまだに将来への不安はつきない。その不安を払拭するために、どれだけ事前に手が打てるかを常に考えている。
デリバリーなど店舗以外に「お客に近寄る」チャネル開拓
――コロナ禍でも業績を伸ばしていますが、その要因を教えてください。
若月 コロナ禍の前に始めた施策が偶然的にこの環境下でうまくはまったこともあると思います。Uber Eatsが2016年に日本でサービスをローンチした際、KKDJは最初の事業者の1社だった。その時に、これまでは店舗にお客さまが来ていただきサービスと商品を提供するのが当たり前だったが、今後はサービスと商品がお客さまのところに行く機会が増えるという印象を受けた。
そのような状況を想定した場合、当社としてできるチャレンジはなにか。デリバリー以外の非店舗チャネルで何がチャレンジできるのか。社内で検討した結果、デリバリー体制を強化していくのはもちろん、スーパーマーケットでのキャビネット(卸売)販売等、当社がお客さまに近付いていく販売方法の拡大を模索した。これが、コロナ禍をうまく乗り越えた要因の1つだと思う。
――今後の店舗の役割は。
若月 チャネルの多様化は進むと思う。単純にオンライン販売開始や強化だけではなく、リアル店舗とオンラインの融合、OMO(Online Merges with Offline)は進むだろうし、一方で、リアル店舗もまだまだ出店余地はある。店舗と非店舗をうまく組み合わせながら、地域特性や立地などを多面的に考慮して最適な販売拠点を創っていきたい。
■若月貴子(わかつきたかこ)氏の略歴
1969年生まれ
1992年:筑波大学卒
1992年:西友入社 経営管理本部企画室 海外グループマネジャー等
2007年:経営共創基盤入社
2012年3月:クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン(KKDJ)入社管理本部長
2014年4月:執行役員副社長を歴任
2017年4月:KKDJ社長就任
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