流通ニュースは、流通全般の最新ニュースを発信しています。





トップインタビュー/ニッケ・タウンパートナーズ 清水泉社長

2023年11月02日 10:30 / 流通最前線トップインタビュー

トップ画像

ニッケ・タウンパートナーズは地域社会の発展なくして、自社の成長はありえないという考えのもと、地域コミュニティー活性化に貢献する商業施設運営を行っている。モノがあふれる時代における等身大の消費への対応、子どもからシニアまで楽しめるイベント運営、既存SCの収益化・PM事業など地域共生型SC運営企業として挑戦し続ける同社の清水泉社長に、現在の取り組みについて聞いた。
取材日:10月3日 於:ニッケコルトンプラザ

商業施設運営・PM・リーシングを推進

――事業内容について教えてください

清水 当社は2015年、日本毛織(以下:ニッケ)から、グループの商業施設運営と、商業施設に特化したプロパティマネジメント(以下:PM)を行う会社として独立しました。自社工場跡地や敷地の一部を利用し開発した、自社SCを2施設運営しています。

1984年ニッケパークタウン(兵庫県加古川市)、1988年ニッケコルトンプラザ(千葉県市川市)をオープンしました。実はそれまでまったくSC運営の経験がなかったのですが、祖業の繊維から始まり、生活に必要な衣食住に関する事業として30年以上SC運営に取り組んできました。その経験を生かし、船橋フェイス(千葉県船橋市)、ミ・ナーラ(奈良県奈良市)をはじめ、4カ所のPM業務のほか、リーシング業務なども推進しています。

――SC運営において大事にしていることは何ですか

清水 地域との共生を重視しています。ニッケパークタウンはニッケの創業の地である、加古川工場の一部を再開発するにあたり、地域に貢献できる事業として、「地域コミュニティーの場」「地域の利便性の向上」を目的にスタートしました。親会社の祖業は繊維ですし、衣食住のテナントがそろい、地域の皆様にとって、まるで空気のように欠かせないSCを目指しています。

また、ニッケコルトンプラザは創業時に、市川市に「工芸学校のある街をつくります」と宣言しました。東京のベッドタウンではなく、ニュータウンとして、自分の生まれた街に住み、働き、文化を楽しむくらしをつくりたいという願いを込めて、誕生しました。

<「工芸学校のある街をつくります」と宣言>
工芸学校のある街をつくります

――ニッケパークタウンはどのようなSCですか

清水 三世代にわたる子育てファミリーを全面的に応援するモールです。加古川市は神戸・大阪方面のベッドタウンとして発展しています。兵庫県の人口平均に比べ、団塊ジュニア世代、団塊世代の比率が高く、30~60代ファミリーが中心顧客です。スーパーマーケット、衣料、雑貨に加え、2016年にはアネックス館を医療モールにリニューアルしており、地域の生活をサポートしています。

<ニッケパークタウン>
ニッケパークタウン

ブック&カフェのTSUTAYA BOOKSTORE、大型室内公園のピュアハートキッズランド、ボウリング場のニッケパークボウルといった時間消費型施設も充実しています。年間来場者数は約820万人、売上高は約170億円です。

<ニッケコルトンプラザ>
ニッケコルトンプラザ

コルトンプラザは改装で若年層の顧客が増加

――ニッケコルトンプラザについて教えてください

清水 コルトンプラザは敷地面積約14万2200m2にショッピングゾーン、スポーツ施設、映画館、住宅展示場、メディアパーク市川、千葉県県立現代産業科学館、鎮守の社などがあり、約160のテナントがそろいます。

年間来場者は約1200万人、売上高は約280億円です。市川市は、ニューファミリーの人口が多く、社宅も多いことから住民の入れ替えがあるなど、魅力的なエリアです。世帯当たりの所得額(2020年)が432万円と高くなっています。

JRや京成線の駅から少し離れているのですが、JR本八幡駅北口より無料バスを運行するなど、地元の皆様が普段使いしやすいSCを目指しています。

――昨年リニューアルしましたね

<ちょっと上質なものを買いたい需要に紀ノ国屋>
紀ノ国屋

清水 2022年10月に本館・ウエスト館を刷新しました。2009年以来の大型リニューアルで、顧客ニーズの変化に対応し新規・改装テナント20数店舗、買い回りしやすく、店舗の視認性を高める区画再編の改装を行いました。

テナントでは、インフォメーションに寄せられるお客様の「こんなお店はないの」「こんなお店が欲しい」といった声を反映させていただきました。ママさんモニターの方に聞くと、「ちょっと上質なものを買いたい」「1000円くらいの手土産を買いたい」需要があることがわかり、紀ノ国屋、ロフトを新規導入しました。

紀ノ国屋は高級スーパーでありながら、コルトンの顧客一人一人の声に耳を傾け、ニーズに応えていただいております。また、ロフトは高齢者、男性客、学生客が想定より多く見受けられます。

現在、両店では、食品、美容グッズなど1000円くらいで購入できるギフトなどが並んでおり、人気です。

また、有隣堂も新規出店しました。市川市の書店業態の中で最大の1159.02m2の売場に、総合書店として充実した本・雑貨をそろえています。

<市川ロフト開店当時の状況>
市川ロフト開店当時の状況

――本離れといわれる現在、あえて総合書店を誘致した理由を教えてください

清水 市川市は文化水準が高く、書籍の需要があり、本格的な書店を導入したいと考えました。教育熱心なご家庭が多いので、学習参考書が充実していることも重要でした。有隣堂を誘致する前、神奈川県にある店舗を見学に行ったのですが、スタッフの本に対する知識・こだわりが素晴らしく、「ぜひ来ていただきたい」と誘致しました。オープン時には、レジに行列ができるほど盛況で、我々もスタッフも感激しました。

また、店内でのイベントスペースも設置し、地域住民の交流の場となるよう、ワークショップなどあらゆる世代に向けたイベントを継続的に実施しています。どうやって、地域の皆様に有隣堂、コルトンプラザのファンになっていただけるか。月1回部長級も交えた定期面談を行い、常に新しい企画を考えています。ともに成長できるテナントに入っていただいたと思っています。

<地域密着型の書店を目指す有隣堂>
地域密着型の書店を目指す有隣堂

――施設面でのリニューアルポイントは何でしょうか

清水 お客様の移動のしやすさ、店舗の見つけやすさを意識しました。1つ1つの店舗の区画が小さかったため、区画を広げました。映画館と本館の動線を改善したり、ベビーカーが通りやすいよう通路を拡張したり、店舗を見渡しやすく、買い回りしやすい環境を意識しました。コロナ禍の前からトイレなども順次刷新していました。改装の効果は着実に上がっており、売り上げはコロナ前までと同水準まで回復しています。

――新しい客層の呼び込みにつながりましたか

清水 改装で、新たに若い子連れのママ、学生層の来店が増えています。以前からファミリー層はメイン顧客ですが、リニューアルは小さい子供のいる若いママ中心に好評です。手土産需要などは、当社では3000円くらいだと想定していたのですが、若いママにヒアリングすると「1000円台で、ちょっと上質なもの」という顧客ニーズがあるのがわかりました。平日、ベビーカーを押して買い物している若い女性が増えました。

さらに、タピオカミルクティーなどが楽しめる「ゴンチャ」が、学生に人気です。「ゴンチャ」は300円台の学割料金も設定していますし、映画を見て、ゴンチャでお茶をするお客様が増え、取りこぼしていた学生層をつかめたと感じています。

リニューアルでハード面の改革が進みましたので、今後は、既存のお客様満足度を上げるための施策、新規のお客様を取り込む販促などソフト面をより改善していきます。

盆踊りなど地域密着SCならではのイベントが人気

<夏は「盆踊り」が名物>
夏は「盆踊り」が名物

――販促戦略について教えてください

清水 既存顧客向け施策では、夏は地元自治会(コルトンプラザに隣接する3町会)との共催の「盆踊り」が名物です。この行事は実は工場時代から実施していて、地元で愛されてきました。コロナ禍も落ち着いたので、今年は4年ぶりに開催したのですが、大盛況でした。

ダンスや手芸など、市民の技や芸を披露する「コルフェス(旧称:市川コルトン文化祭)」は、コロナ前3000人を超える参加がありました。コロナ前は子ども向けキャラクターショーや赤ちゃんのハイハイレースなども人気でした。ファミリー向けイベントは今後も強化していきます。

――行政と連携したイベントも実施していますね

清水 「いちかわドイツデイ」は市川市とローゼンハイム市(ドイツ・バイエルン州)のパートナーシティ交流の一環となるイベントで、こちらも本年10月に4年ぶりのリアル開催でした。ドイツのグルメや雑貨を楽しめる催事で、市民に人気です。

少子高齢化社会ですので、フレイル(病気ではないけれど、年齢とともに、筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい、健康と要介護の間の虚弱な状態のこと)予防の会や、認知症サポーター(認知症の方との接し方講習会)など市川市と連携して開催しています。シニアに向けたイベントはほかにも、歌声喫茶的なイベントも好評でした。長年地域とともに歩んだSCだからこそできる施設運営、イベント企画は当社の強みです。

PMでも温かみのある施設運営を実現

<PM事業もニッケの強みと清水社長>
清水社長

――PM事業の強みについて教えてください

清水 地域密着型SCを365日自社スタッフで運営してきた知識・ノウハウを生かし、温かみのある施設運営を実現できることです。30年以上にわたる地域共生型SC運営の実績、現在契約中の250を超えるテナント、同じように地域に根付いた施設運営をしている他社SCとのネットワークを生かした、PMを行っています。

開業から年数の経過した商業施設を自社運営しているため、既存の商業施設のリニューアルも得意です。現状のテナント入居状況を踏まえた、現実的なテナントリーシング、テナントの変更、区画設定の修正、賃料など含めた施設全体の事業収支の算定、ビルメンテナンス、告知・イベントなどリニューアル開業業務など幅広く、施設の再生のお手伝いができます。

――自社SCを新設する予定はありますか

清水 時期ははっきり決まっていませんが、将来的には、第3の自社SCを持ちたいと思っています。大阪近辺・首都圏で、既存SCの購入も含めて検討中です。この場合も地域密着型、行政や住民の皆様と結びついたSCを目指したいですね。

――今後の課題は何でしょうか

清水 ITへの取り組みが課題です。コルトンプラザ、パークタウンには、ポイントカードがありません。顧客データの分析には、各テナントの売り上げなどは生かしていますが、販促、テナント誘致のエビデンスとなるデータが不足しているのが、悩みです。お客様一人ひとりのニーズに対応し、お客様をファン化するためにも、DX施策が課題です。

また、コルトンプラザは開業35年、パークタウンは39年になりますが、これから50周年を迎えるにあたり、どんな施設を目指せばよいのか。若いチームを作って、これからの当社の方向性を検討しています。

――人材教育について教えてください

清水 SC以外の部署から転勤してくる場合が多いので、月1~2回若手のため、商業施設運営の勉強会を開催しています。社外のセミナーもできるだけ参加させています。さらに、全国の独立系SCで構成しているISC(インディペンデント・ショッピングセンター)という団体がありまして、トップ同士の交流だけでなく、リーシングや販促など部署間の交流で、情報収集・切磋琢磨しています。

――地域、テナントの皆様へのメッセージをお願いします

清水 当社は「地域共生―街と人の絆づくり―」というビジョンを持ち、我々が創り、育てていくSCが街と人との懸け橋になりたいと思っています。衣食住、生活に欠かせないものがそろい、コミュニティーが出来、地域にとって「空気のようにあるのが当たり前」「でも、なければすごく困る」といったSCを目指しています。

また、テナントの皆様とは、そういう地域密着型SCを一緒に創り、育てていくパートナーとして、一緒に頑張っていただきたいと考えています。

<テナントの皆様と地域を盛り上げたいと清水社長>
テナントの皆様と地域を盛り上げたいと清水社長

取材・執筆 鹿野島智子

■清水 泉(シミズキヨシ)氏略歴
1987年:日本毛織入社
2001年:コルトンプラザ事業部配属
2011年:SC部 部長
2015年:ニッケ・タウンパートナーズ出向 取締役管理部長
2020年:ニッケ・タウンパートナーズ 代表取締役社長(現任)

■ニッケ・タウンパートナーズ
事業内容:ショッピングセンターの運営管理、運営委託
資本金:5000万円
決算期:11月30日
大株主および持ち株比率:日本毛織100%
所在地:千葉県市川市鬼高1-1-1(ニッケコルトンプラザ内)
運営施設:ニッケコルトンプラザ、ニッケパークタウンなど

関連記事

トップインタビュー 最新記事

一覧

最新ニュース

一覧