アトレは、2024年4月から新中期経営計画「VISION2030」を開始し、2030年に企業としてありたい姿を策定、2027年度売上高3000億円(子会社委託物件含む)を目指している。「100の街があれば、100の顔のアトレ」をミッションに掲げ、地域ごとに特色ある商業施設として進化し続けている同社の高橋弘行社長(高は正式にははしご高)に今後の成長戦略を聞いた。
24年度の売上高目標2597億円、上期好調に推移
――今期始まった新中計について教えてください
高橋 アトレは、2030年で会社設立40周年を迎えます。今までも、ハード面を管理する「施設管理型」だけではなく、ソフト面からも「総合演出型の運営手法 “プロデュース型運営”」を行い、アトレらしさを目指してきました。これからの当社について、新規出店・改装の計画を定めたり、改めて「プロデュース型運営」とは何かをまとめたりしています。
計画初年度である2024年度の売上高目標が2597億円で、これは会社創立以来最大の金額です。上半期は計画を超えて進捗(しんちょく)していますので、なんとか達成したいと思っています。
――新規出店について教えてください
高橋 直近では、JR東日本が大井町駅で開発している「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」の商業施設部分への出店を計画しています。開放的なオープンモールで、約80店舗が登場します。2026年3月の開業を予定しています。
――この秋、亀戸、吉祥寺と既存店の改装も進んでいますね
高橋 亀戸は今秋、増床リニューアルしました。既存のアトレ亀戸に隣接していた、旧「LIV亀戸1」をJR東日本が取得・解体。新たに増築した建物を既存のアトレ亀戸につなげ、当社が運営しています。既存棟のテナントも一部入れ替え、両棟合わせて新たに20店舗を新規導入、29店舗をリニューアルオープンし、計121店舗となりました。
1階は全面を食のフロアとし、バスロータリー側にも入口を設け、駅をご利用になるお客様の動線をスムーズにしています。
アトレ吉祥寺は開業以来初のリニューアルで、グランドオープンは来年度ですが、規模の大きい第2期として、今回新規・改装計16店舗オープンしました。吉祥寺ロンロンを刷新してから15年たっているのですが、今回のリニューアルでは「私のいつもを満たす場所」という開業時からのコンセプトをもとに、アトレ初出店や武蔵野エリア初出店のテナントを集めました。
改装中はどうしても店内が殺風景になってしまいますから、工事中の壁に吉祥寺アトレの歴史を紹介して楽しんでいただくような仕掛けも実施しました。
駅の乗降客数よりアトレ入館客数が順調に回復
――改装などで客数は回復していますか
高橋 コロナ前とコロナ後の業種別の実績を比較していくと、やはりアパレル系テナントのお客様の戻りが悪いですね。一方、食料品であったり、食堂であったり、食にまつわるテナントの客数は、コロナ前に一気に戻ってきているというような感触はあります。
データマーケティングを実施していまして、駅の乗降客数とアトレの中の入館客数の相関関係をみているデータもあるのですが、コロナ前からのお客様の戻りを見ると、駅の戻りよりもアトレの戻りのほうが大きいです。駅をご利用になっているお客様以上に、アトレに来られている方がいるということですから、それはまさにアトレのさまざまな施策に呼応した中で来ていただいているお客様が増えているということが言えると思います。
お客様の買い物スタイルも変わってきています。コロナもあってか、お客様が安いものをとにかく買いたいというよりは、むしろ欲しいものを、定価でもいいから、お買い求めになるという傾向があります。バーゲンセールや各種キャンペーンと、お客様のほしい時にほしい商品をしっかり届けていくことの両方一緒に続けることが大事ですね。
――どのような販促を実施していますか
高橋 LINEのお友達登録などSNSを活用した販促を強化しています。アトレの各25店とのつながりを持っていただいている40万人ほどのLINEユーザーがいらっしゃいます。
JR東日本グループのJRE POINTと、ID連携をすることによって、購入ポイントを付与するなど、JR東日本グループの中でのポイント戦略も行っています。
――デジタル施策を強化していますね
高橋 データ連係をJR東日本グループ内で進めています。駅ビル部門と、JR東日本の鉄道、JRE POINT、Suicaといった、さまざまなデータのマージをしながら顧客分析をしていくというようなことも取り組んでいます。中期計画でITリテラシーを向上させるために、アトレの全社員のITパスポート取得を目標に掲げました。私もITパスポートの取得に向け勉強をしています。
――インバウンドの状況はいかがでしょうか
高橋 インバウンドの割合について2023年度の売り上げ全体の約1.0%、2024年度4月~8月でも売り上げ全体の約1.2%とそれほど大きくありません。
ただ、昨年、今年とご利用いただいているインバウンドの数は、全体的に増えてきています。特に上野、秋葉原、恵比寿、品川がインバウンドの方のご利用が多いですね。
飲食や日常に必要なものをドラッグストアなどで買う方が多いようです。秋葉原であれば、JR東日本系のメッツというホテルもありますし、大森もJR系のホテルもありますから、そういうようなところの朝食のベーカリー需要などがあります。「インバウンド=お土産爆買い」とは違った消費傾向が見られます。
PM事業、売り上げ管理の支援など新規事業にも挑戦
――VISION2030では、事業領域を拡大することを掲げていますが、具体的な取り組みについて教えてください
高橋 SC事業というのは、平たく言うと不動産賃貸業です。新規出店したり、既存店を増床したりすれば賃料収入は増えますが、事業規模の限界があると思っています。
ですから、不動産賃貸業以外のことで何か新しい事業ができないだろうか、と可能性を考えていきたいと思っています。「LIV亀戸2」のPM事業もその一環です。「LIV亀戸1」は改築し、アトレ亀戸増床部分になりました。
JR東日本のグループ内にもアトレ以外のショッピングセンター(以下:SC)はありますから、例えば売り上げ管理など後方業務を受託するということも検討しています。また、規模感が小さいSCで事務作業や研修などの負担が大きい部分は、アトレに外注してもらうことなどを考えています。
実際に、グループ会社の売り上げ管理について、子会社アトレスティルによる業務委託がスタートしていますので、それも一つの新規事業ですね。
売り上げ管理のほか、催事などの一部をアトレスティルが引き受けたり、JR東日本グループの他のSCから人事交流で、当社に学びに来たりしています。
――不確実性の高まる世の中、従来のSC運営から事業の幅を広げているのですね
高橋 「VISION2030」を作るとき、2030年で、会社ができて40年になりますし、新規出店もあれば、既存店の改装もある。さまざまな新しい店舗ができて、大きく会社の中が変わってきています。ですから、2030年、2040年に向けて、どういう会社でありたいかということを、やはり社員一人一人が考えてほしいと考えています。
そういう意味からすると、自分でいろいろなものを考えて行動できるような精神を社員にぜひ身に付けてほしいと思います。今そうしていないわけではありませんが、これからの不確実な時代に、もっともっと必要になってきます。
時代の先は読みづらく、揺れ動いている中でも突き進まなくてはいけないわけですが、社員には、負けずに突き進んでいくことを目指してほしいと思っています。そのためには、ただがんばるだけでなく、働いている社員が楽しまないと、やはりお客様も楽しんでいただけないとも思っています。
アトレが「楽しさ」を作るということは、すごく大切です。そのような雰囲気を作っていくのが、われわれ経営陣の仕事ですので、社員が生き生きと仕事しながら、いろいろな発想ができるようにサポートしたいですね。
そのためには、リフレッシュや社員間の交流も重要です。実は今年、社内の旅行会が2019年以来5年ぶりに復活しました。社員の8割以上が参加しました。社内で福利厚生のアンケートをとったところ、社員旅行の復活が一番要望で多かったのです。こういった社員間のリアルなコミュニケーションも仕事に良い影響を与えると考えています。
――「楽しさ」を提供したいと
高橋 「アトレに来るとワクワクするから、アトレに来たい」とお客様の来店動機になるような施策を重視しています。
特に今年の春のスプリングキャンペーンは「はじめまして、アトレです。」というネーミングで、有名声優による館内アナウンスを実施したのですが、それを聞きに来られる方もいましたし、ノベルティを集める方もいました。今までアトレに来ていただけてない方への来店のきっかけづくりにもなりました。
また夏は、バーバパパとコラボレーションしたキャンペーンを実施しました。フランスでできたアニメがベースになっているので、ちょうどパリ五輪もありましたからフランスつながりのキャラクターを採用しました。このようにシーズンや、お客様に刺さっていくような企画を推進しています。
そのほか、リニューアルオープンを記念して、アトレ吉祥寺では「大喜利 GRAND PRIX」を実施しました。「『あ、あの人絶対アトレ好きだな』なぜ分かった?」をお題に、大喜利を開催。最優秀賞は、「飼い犬の名前がアトレ(ちなみに先代犬はロンロン)」でした。楽しくアトレに関心を持っていただけるような取り組みをこれからも続けます。
社員もお客様もテナントの皆様もアトレの大切なステークホルダーです。お客様とテナントの皆様のLTV(ライフタイムバリュー)、一生の価値の中で、アトレとの関係性をもっともっと増やしたいと思っています。この関係を続けていけば、アトレがサステナブルな企業として成長していけると考えています。
■高橋弘行社長略歴(高は正式にははしご高)
1967年12月30日宮城県生まれ
早稲田大学第一文学部卒業後、1990年4月にJR東日本に入社。入社後、東京駅・千葉駅での駅業務、人事、総務、経営管理等に従事。異色の経歴として、4年間の労働組合専従も経験。その後、仙台支社を経て、日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ)に派遣され、第一次小泉内閣が打ち出したビジットジャパンキャンペーン等の実務を担う。2007年にJR東日本へ戻り、千葉支社販売課長・本社営業部課長を経て、2012年東京支社営業部長、2015年本社営業部次長、2017年びゅうトラベルサービス(現JR東日本びゅうツーリズム&セールス)社長に就任、旅行商品のウェブ化等推進。2019年執行役員鉄道事業本部営業部長、2021年常務執行役員として駅業務、サービス品質、観光、オリンピック・パラリンピックを担当。2023年6月アトレ代表取締役社長に就任。
取材・執筆 鹿野島智子
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