東京メトログループのメトロプロパティーズは地下鉄の駅ナカ商業施設など、日常の需要にあったショッピングセンター(以下:SC)を運営してきた。しかし、時代や生活者のニーズが目まぐるしく変わる現在、地域密着かつトレンドに対応した商品・サービスの提案を行うSC運営に変化している。黒須良行社長に同社の強み、テナントから見た魅力、駅ナカならではの運営ノウハウについて聞いた。
強みは乗降客の多さと便利な立地
――主な事業を教えてください
当社は、東京メトロ駅構内店舗および商業施設の企画・開発・運営管理、リテール事業を行っています。「東京にしかできない、東京ならではの、東京らしい」SCを1つのキーワードとして、時代の空気を察知しながら、お客様に喜ばれるようなSCをつくるのがわれわれの使命だと思っています。
SCは、駅ナカの表参道・池袋のEchika、東京・銀座・永田町・上野にEchika fit、主要ターミナル駅以外にはMetro pia、駅ナカ以外の駅ビル・商業ビルとして後楽園・高島平のメトロ・エム、Esola池袋などを運営しています。
商業施設部門の顔ともいえるEchika表参道は2005年開業ですので、今年20周年になります。この場所は、元は駅事務所だったのですが、駅施設の有効活用を前提とした大規模な駅の改装工事に合わせて生まれた 余剰スペースを再開発しました。
――24年度の業績はいかがですか
当社もコロナ禍では苦戦しました。現在も客数はやや減少していますが、2024年度は2019年度並みの業績に回復しています。
東京メトロの1日あたりの乗降客数をみても、2019年度は約775万人だったのが、2024年度は第3四半期で約686万人と88%程度まで戻ってきています。特に、通勤・通学以外で東京メトロを利用される観光客が増えています。
幅広い客層と店舗のサイズ感が魅力
――貴社の強みを教えてください
まず、テナントにとっては、地下鉄を利用する乗降客の多さと老若男女幅広い層が利用されている駅ナカ・駅チカという立地が、当社の魅力だと思います。
最近のテナントでは、幅広い層が利用している駅ナカの強みを生かし、ポップアップストアではなく常設店で、マーケティング拠点のように店舗を構える企業もあります。幅広い年代・属性の男女に商品をアピールできますし、アンケートをとらなくても、お客様の生の声を収集できるようですね。
――テナントから見て立地が魅力なのですね
一時期、小売業界では、生活者が店舗をショールーミングに使い、(店舗で)売れないなどと言われていました。しかし、ECで何でも購入できる時代ですが、生活者は手に取って実際の商品を見てみたい気持ちも持っています。それには、通勤・通学や買い物のついでに、駅ナカで商品を見られるというのは便利ですね。
あえて店頭売り上げにこだわらず、商品を多くの方に見てもらう店舗を必要としているテナントもあるのではないでしょうか。
当社がテナントに貸し出している区画は、平均約66m2~130m2(10~20坪)です。大型商業施設のように、レディース、メンズ、キッズのフルラインアップの商品をそろえたい企業には、当社のSCは狭いかもしれません。
しかし、大規模商業施設や百貨店にはない、小規模店舗を出したい企業にぴったりのサイズのようです。また、そのサイズ感ですと、銀座や池袋に出店したくても、ちょうどよい物件を探すのが難しいのではないでしょうか。
――最近ではどのようなテナントが出店していますか
2024年に出店したEchika fit銀座の「Wpc.」はファッション性の高い傘、男性でも抵抗なく差せる日傘が人気です。今の時代、男性が日傘をさすのは珍しくありませんが、百貨店や専門店まで行かなくても、駅ナカで購入できる利便性がうけているようです。
以前からカジュアルなマッサージのテナントはあったのですが、2022年10月に豊洲Metro piaに本格的な鍼灸や骨格矯正も手掛ける「iCure鍼灸接骨院」を誘致したところ、こちらも大変人気です。当社で想定していた以上に、オフィスワーカーに好評なようで、溜池山王駅、池袋駅と近年出店が続いています。
バイナリー北青山ビルに誘致した凝った刺しゅうが特長で、百貨店で人気のショッピングバッグブランド「Ball&Chain」や、書店軒数の減少という課題に対して生まれた溜池山王駅の完全無人書店「ほんたすためいけ」、リユースを身近に感じていただけるような日本橋駅構内の「KOMEHYO 買取センター」も新しい試みですね。
さまざまな年代の方が利用する駅という立地上、あまりリーシングがとがりすぎてもいけませんが、時代の変化に対応し、オーソドックスな日用品などの需要以外にも、半歩先をいく提案ができるテナントを常に探しています。
――流行を追えるとともに駅で生活必需品が買えるもの駅ナカのよさですね
リーシングの基本は、駅周辺300m内の需要への対応です。例えば、駅周辺にドラッグストアがなければ当社の施設に導入するなどですね。
さらに、当社が運営する各SCは、オープン時と現在では、顧客ニーズが変化しています。現在、各施設でリーシングを見直しているところです。
ニーズに応じてSCを刷新中
――2025年、SCの新規出店・既存店の改装計画はありますか
現在のところ、大型の新規出店やリニューアルの予定はありません。ただ、顧客ニーズの変化に対応し、テナントの入れ替えを進めています。
例えば、メトロ・エム後楽園は、従来東京ドームのイベントに参加するお客様を含む幅広いターゲットとしていたのですが、現在では周辺居住者に向けた生活拠点施設にコンセプトを刷新しています。
――どのようにリニューアルしたのですか
東京ドーム周辺の需要を調査すると、意外に生活密着型の店舗が少なく、日常生活に必要な商品・サービスへのお客様の需要があることがわかりました。また、サインの統一など施設面も見直し、売り上げは回復基調にあります。
メトロ・エム高島平も同様で、高島平駅周辺は、駅の北側と南側で商圏が全然違ってきています。高島平団地といったシニアが多い南側と違い、北側にはマンションができ、若い世代が増えています。
そこで、リーシングの大がかりな見直しを行いました。若い方に好まれるテナントやスポーツジム「エニタイムフィットネス」を誘致するなど、時代の変化に対応した施設づくりをしています。
こういった環境の変化は実際に駅周辺を歩いてみて、自分の肌でニーズの変化を感じないといけません。社員にはあちこち自社施設とその周辺を自分の目で見て、歩いてもらっています。
商業施設は開店直後から長い期間たちますと、当時の需要とは変わっています。長い目で見て、街がどう変わっているか把握する必要がありますね。東京を駅ナカから盛り上げるために、時代の変化に敏感でありたいと思っています。
地下鉄駅内ならではの運営ノウハウも
――地下鉄の駅ナカならではの運営の苦労はありますか
地下にあるという特殊性から、ともかく安全安心を重視しています。特に火災対策は、テナントにかなり厳しく守ってもらっています。
駅の動線、通行を妨げない施設運営も大事ですね。また、乗降客数が多い駅にあるというメリットはありますが、人通りが多いと逆に、お客様は立ち止まれないということもあります。人通りが多すぎて、店舗の前をお客様が足早に通り過ぎてしまうのです。
そこで、目的買いしていただけるテナントを誘致したり、デッドスペースを活用したりするなど、地下鉄の駅ナカという特殊性にあった店舗運営を行っています。
――東京メトログループ内の連携について教えてください
主な地下鉄駅の商業施設開発は済んでいますので、東京メトログループのその他保有資産の再開発やリーシングなどについては、東京メトロ 都市・生活創造本部やグループ会社のメトロ開発、東京メトロ都市開発などと連携し協議しています。東京メトロのCX・マーケティング部とは、東京メトロ利用促進のイベントでの連携などを試みております。
手続きのオンライン化等により、集約化された旧定期券売り場などの余剰スペースを店舗にするなど、お客様により便利に駅を利用していただけるような改装も進めています。直近では錦糸町駅の旧定期券売り場を改装し、スターバックスを誘致しました。
さらに、駅をいかに魅力的にするかと同時に、土日は乗降客が少なくなる駅も一部あるので、集客も色々実験しています。
2~3月、駅構内で展開するEchika 表参道・池袋/Echika fit 東京・ 銀座・永田町・上野の合計6施設合同で、「Echika×Echika fit LINEスタンプラリー」を開催いたしました。
各施設の対象店舗で、飲食・買い物をすることでスタンプが獲得できる仕組みです。施設間の買い回り促進や駅の乗降客数増への貢献などを検証します。
――地下鉄を知り尽くしているからこそのコンサルティング・プロデュース事業も手掛けていますね
京都市交通局のコトチカ四条・京都の開発コンサルティング、テナント誘致、開業プロモーション、運営アドバイザリーなどを行っています。
地下という立地、小規模テナントミックスなどのノウハウがありますし、他社物件を手掛けるとさまざまな面で社員の勉強になり、モチベーションアップにもつながっているようです。
――直営の立ち食いそばなども手掛けていますね
リテール事業として、直営の立ち食いそば「そば処めとろ庵」・カフェ「Patio de METRO」、FCで「カレーショップ C&C」、「はなまるうどん」を運営しています。施設運営とテナント、両方の立場を経験しているのも当社の強みです。
自社で店舗を運営することで、生活者の消費動向を実感できるメリットもあります。例えば、大企業のオフィスが建ち並ぶ大手町でも、高級店が苦戦して、1000円以下でランチが食べられる「そば処 めとろ庵」・「カレーショップ C&C」が好調です。
2024年3月にオープンした「そば処めとろ庵 おにぎり上野店」では、台東区にある高級海苔から業務用海苔までを取り扱う創業130年の小善本店の有明海産海苔を使用したおにぎりを販売しています。
SNSを意識した映える具沢山おにぎりなど新しいチャレンジをしています。そばのほうでも、揚げたロールキャベツやアジフライを載せたそばなど個性的なメニュー開発で、お客様に楽しんでいただいています。
――経営者として大切にしていることを教えてください
社員には、誠実に、正直に仕事してくださいと、一番に伝えています。私は、それが一番大事だと思っています。少しの心の緩みでトラブルを起こすと、今まで積み上げてきた信用がゼロどころか、マイナスになってしまいます。
また、テナント企業の声をよく聞くことも大切にしています。時代のニーズの変化は速いですし、多様化しています。我々だけでなく、テナント企業にどんどんアイデアを出していただいて、一緒にお客様が喜んでくださるSCを作っていきたいと考えています。
■黒須良行社長略歴
生年月日:1961年1月13日
1984年4月:帝都高速度交通営団入団
2001年3月:総合企画室課長
2002年3月:運輸本部運輸部営業課長
(2004年4月東京地下鉄設立)
2005年3月:関連事業部課長
2008年4月:関連事業部事業戦略担当部長
2013年4月:事業開発部長
2015年6月:取締役 事業開発部長
2017年6月:常務取締役 事業開発本部長
2022年6月:専務取締役 都市・生活創造本部長
2023年6月:メトロプロパティーズ 代表取締役社長(現任)
取材・執筆 鹿野島智子
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