東京建物/長谷山隆史 商業事業部長インタビュー、NSC強化の狙いとは

2025年05月09日 11:00 / 流通最前線トレンド&マーケティング

東京建物は従来のオフィス・住宅中心のポートフォリオから、商業施設、ホテル、物流施設の開発と事業領域を広げている。中でも商業施設は2025年新ブランド「minanoba(ミナノバ)」を立ち上げ、さらなる強化を図っている。商業施設の開発戦略について長谷山隆史 商業事業部長に聞いた。

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物件の長期保有と資産回転の両軸で展開

――商業施設の開発方針について教えてください

当社が開発する商業施設としては、大規模再開発の商業区画などに加え、投資家への売却を目的とした投資家向け物件売却事業によるものがあります。長期保有を前提とした利益の安定性の高い大規模再開発の推進とともに、早期に投資回収できる投資家向け物件売却事業に取り組むことで、収益性の安定と資本効率の向上を図っています。

商業事業部では、これら商業施設の開発に加えて、大規模再開発の商業区画のリーシングなどを含む管理運営業務全般を担当しています。

――どのような施設を手掛けていますか

開発中・稼働中ストック(総投資額ベース、2024年9月末時点)は、オフィス・ホテル・商業施設の合計で約1650億円規模となっています。商業施設としては、計25物件を開発してきました。

<スマーク伊勢崎>
スマーク伊勢崎

主なものでは、群馬県伊勢崎市で運営している大型商業施設「スマーク伊勢崎」、都市型商業施設「FUNDES(ファンデス)」、2025年に本格スタートした地域密着型商業施設「minanoba(ミナノバ)」などがあります。

また、商業区画を含む大規模再開発としては、東京駅八重洲口に近接する、「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」が2026年に完成予定です。こちらでは、低層部に飲食店舗を中心とした約70店舗から構成される商業区画を予定しています。

<TOFROM YAESUの商業エリア>
TOFROM YAESUの商業エリア

――多様な商業施設を開発しているのですね

そのほか、大手町直結の商業施設「OOTEMORI」や豊島区庁舎/公会堂跡地の再開発「Hareza池袋」など、物件の立地特性や規模によって、開発コンセプトやテナント構成が異なります。

「スマーク伊勢崎」のように、開発後、グループ会社のプライムプレイスがプロパティマネジメント(PM)、広報・販促、テナントリーシングなどを手掛けて長期保有している物件もあります。首都圏だけでなく、全国でさまざまな物件を手掛けることで、リーシングについて独自のノウハウを蓄積しています。

――東京建物のリーシングの強みとは

グループ会社のプライムプレイスは、東京建物以外からの受託床面積が8割超と、全国で幅広いタイプの商業施設(2025年4月現在、64施設)を運営しています。

全国でさまざまな物件を受託していることから、地域のニーズに合った個性的なリーシングに対応できます。

都市部に「FUNDES」、郊外で「minanoba」を開発

――「FUNDES」について教えてください

<FUNDES蒲田>
FUNDES蒲田

低層階に飲食店、高層階にサービステナントなどを誘致した、都市型商業施設です。

2015年に竣工した「FUNDES水道橋」を皮切りに、銀座、上野、神保町など都心の好立地を中心に展開しており、昨年にはJR蒲田駅東口徒歩1分の立地にシリーズ最大級となる「FUNDES蒲田」が竣工しました。

――今年から「minanoba」が本格スタートしましたね

<minanoba相模原>
minanoba相模原

「minanoba」は、「暮らしのインフラ」をコンセプトとした、近隣型商業施設(以下:NSC)の新ブランドです。スーパーマーケットを核に、日常生活を支える生活必需品・サービスがワンストップでそろう店舗構成となっています。

第1号店となる「minanoba相模原」は、「ライフ」、「トモズ」、「セリア」、「パシオス」、「サーティワンアイスクリーム」、「魚べい」、「買取大吉」、眼鏡の「LOOK」などが12店舗出店しています。

ハイブリッドワークの定着やEC利用の増加を背景に、近年、消費者の自宅周辺で過ごす時間は増加しています。また、高齢化の観点でもシニアが徒歩で来店できる地元商圏でのワンストップショッピングに対するニーズが見込めると判断し、NSCの開発を考えました。

また、NSCは、低層・小規模であることから、他アセットに比べ工期が短く、われわれデベロッパーとしては比較的リスクがコントロールもしやすい点もメリットです。

投資家目線で見ても、「minanoba」のような生活密着型商業施設は、生活者の来店頻度が高く、売り上げが比較的安定していることは、評価されやすいと想定しています。

<NSC強化と長谷山部長>
NSC強化と長谷山部長

――スーパーが核店舗なのですね

日本の生活者は、生鮮食品にこだわりが強く、実際に手に取って商品を見たいというニーズがあると思います。また、共働き世帯が多くなっていますので、手軽な総菜といった即食ニーズもありますね。ECが発達しても、スーパーの実店舗の需要は見込めます。

「minanoba相模原」は、「ライフ」に出店していただいていますが、同社はほかにも相模原市内に出店しており、地域のニーズをしっかりつかんでいらっしゃるため、今回入居していただきました。魅力のあるスーパーは、NSCにおいて、生活者への大きな誘因力となります。

そういった食に加えて、生活利便性の高いクリニックや習い事などのサービスも導入し、日常生活を支える生活必需品・サービスがワンストップでそろう「暮らしのインフラ」をコンセプトに開発しました。

今後、「minanoba」シリーズは、埼玉県川口市で開発中の第2号物件が2026年に開業予定であるほか、第3号物件も内定しています。

シリーズとしては毎年1件以上の開発を目指しています。出店候補地は、多くの後背人口を有する首都圏郊外、適地があれば政令指定都市周辺も出店したいですね。

――「minanoba」の規模はどれくらいを基準としていますか

当社としては約2000坪(約6600m2)あれば、スーパー、飲食、物販といった利便性の高いテナントを組み合わせやすいと考えています。しかし、立地がよければもう少し狭い面積でも検討します。

――地域密着型商業施設を目指していますね

<ミライロドア>
ミライロドア

NSCは、地域のさまざまな世代・属性の人が利用することを想定し、「minanoba相模原」では、スマートフォン連携ユニバーサル自動ドア「ミライロドア」を導入しました。

「ミライロドア」は、ミライロ、フルテック、ハウディが共同開発した、自動ドア通行をスマートフォンとの連携によってサポートする仕組みです。利用者がスマートフォンを持って自動ドアに近づくと、音声による誘導案内が流れ、ドアの開放時間・開閉速度を自動調整してくれます。

まだ、始まったばかりの取り組みですが、今回導入した相模原でのお客様の声を聞きながら、今後も導入を検討していきたいと考えています。

――GMSの再生といった既存施設のリノベーションも考えていますか

<リノベーションも検討と長谷山部長>
リノベーションも検討と長谷山部長

「minanoba相模原」や開発中の川口の物件は、元の建物を解体し更地にして、スクラップ&ビルドしていますが、既存の商業施設や、何らかの施設のリノベーションも検討したいと思っています。

現在、運営に苦戦している商業施設でも、時代や地域のニーズに合った店舗の入れ替えや、追加投資によるリニューアルをすることで、魅力ある施設に刷新できる可能性はあります。建築費高騰が続く中、比較的少ない投資で済むリノベーションは注目しています。

――行政との連携について教えてください

「スマーク伊勢崎」では、伊勢崎市、東京建物、プライムプレイスが包括連携協定を結んでいます。

「スマーク伊勢崎」3階には、「スマーク伊勢崎行政センター」がありまして、住民票の交付などに対応しています。昨年11月には、市役所市民課のパスポート窓口が、スマーク伊勢崎行政センター内に移転しました。

そのほか、地域に根差したテナントに入居いただいたり、期日前投票所を開設したりと地域の皆様の生活が便利になるよう協力させていただいています。

――今後の目標は

オフィスビルは、特定の方たちが利用する用途のものですから一般の生活者になじみがない事業だと思います。それに対して商業施設は、生活者に実際に足を運んでいただける、身近な施設です。「○○という商業施設は東京建物が手掛けているのだね」と認識していただけるように、商業施設をしっかり拡大していきたいと考えています。

<商業施設事業を拡大と長谷山部長>
長谷山部長

■長谷山隆史氏略歴
1991年4月:東京建物入社
2006年4月:住宅品質管理部 課長
2009年7月:住宅事業第二部 グループリーダー
2023年1月:商業事業部 部長

取材・執筆 鹿野島智子

東京建物/ライフ・トモズなど出店「ミナノバ相模原」3/5オープン、NSC強化

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