SHIBUYA109エンタテインメント/石川あゆみ社長インタビュー

2025年01月17日 10:00 / 流通最前線トップインタビュー

SHIBUYA109

SHIBUYA109エンタテインメントは、従来型のショッピングセンター(以下:SC)運営を越えた、若者ソリューションカンパニーを目指している。石川あゆみ社長に、SHIBUYA109ならではのファッション・エンターテインメント・ソリューション事業の強化、ポップアップストアの外部出店など体験拡張戦略について聞いた。

24年度は売上・来館者数ともに増加

――2024年度の業績について教えてください

石川 2024年上期(4~10月)の売り上げは、前年同期比18.5%増でした。11月も好調で、2024年通期も2019年度比二けた増で着地できる見込みです。

――来館者数は増えていますか

石川 開業40周年を記念し、さまざまなキャンペーンを行った2019年度は、来館者約970万人と過去最高でした。2024年度の来館者は12月時点、年間約900万人ペースで好調に推移をしています。

<売上、客数ともに好調と石川社長>
売上、客数ともに好調と石川社長

――インバウンド売り上げも好調ですか

石川 2024年上期(4~10月)のインバウンド売上比率は、過去最高の約14%です。2019年度と比べても、約2.5倍に伸びています。

渋谷はインバウンド客に人気のエリアですし、日本のアニメなどに親しんだ層に、SHIBUYA109はジャパン・カルチャー、ファッションが体験できるSCとして、楽しんでいただいています。

例えば、東京らしさのあるガーリーテイストな「LIZ LISA」「Secret Honey」は、海外の方からも非常に人気です。

――2024年開業45周年を迎えますます成長していますね

石川 SHIBUYA109は以前、ギャル向けのファッションビルのイメージが強かったのですが、現在はファッションだけでなく、エンターテインメント、食などさまざまなテイストにおいて感度の高い商品・サービスが詰まったショッピングセンター(以下:SC)を目指しています。以前通っていただいていた方たちがお母さんになって、娘さんと来館することもありますよ。

昔は、SHIBUYA109でしか買えないブランドや商品がたくさんあったわけですが、今はECや他のSCでもなんでも買える時代です。若者が熱量高く、お金を使うものは何なのか。単なる物販にとどまらず、トレンドを分析し、若者とトレンドを共創する運営スタイルに切り替えました。

また、2015年頃から、アイドルやキャラクターとコラボレーションしたり、ポップアップストアなどを展開したりするエンターテインメント事業を強化しています。

エンタメもファッションも「好き」を基軸に

<SHIBUYA109はリニューアルを継続>
SHIBUYA109

――リニューアルでテナントを刷新していますね

石川 この2年でファッション中心にテナントを約3分の1入れ替えました。あらためてファッション感度、SHIBUYA109ならではのユニークさをテナント構成で表現しています。

従来のセクシーカジュアル以外にも、ガーリー路線、ストリート系、ベーシックカジュアルなど好みで選べるフロア、テナント構成になっています。

セールだから買いたいというより、プロパーでも欲しいものを買いたいというお客様の志向が強いので、熱量高く、SHIBUYA109で買いたいと思われる商品をそろえています。

そこを支持いただいて、エンタメだけではなく、ファッションも含めてお客様の買い上げ単価増につながっています。

――2024年3月、1階にポップアップストア用のスペース「Limited POP UP BRIDGE.」を導入しました。1階の一等地を、定期的な賃料が見込めるテナント貸しではなく、期間限定店舗にするのは挑戦だったのではないでしょうか。

<Limited POP UP BRIDGE.>
Limited POP UP BRIDGE.

石川 「Limited POP UP BRIDGE.」は、あえて一等地にポップアップスペースを設けることで、ファッション感度の高い方にアピールする場所になっています。

ブランドとの関係性を大事にし、SHIBUYA109で初めてリアルで見られる、実際に体験に行けるというのが差別化ポイントだと考えています。ファッション感度、トレンド感度が高いSCだとお客様や取引先にも感じていただける、ステージのイメージですね。

ネットでは、インフルエンサーなどが運営しているDtoCのブランドが人気を集めています。そこで、EC限定で運営しているブランドが主に出店いただいています。今のDtoCの人気ブランドは、リアル店舗の常設出店にそこまでこだわらないところもありますね。

しかし、リアル店舗でしかできないこともあります。お客様にとっては、インスタグラムなどSNSで見ているファッションを店舗で実際に手に取ったり、ショップの店員と話しながら決めたりできますし、アイドルに会えるオフ会のような雰囲気もあって、好評です。

――ファッションを再強化しているということでしょうか。

石川 ファッションの再強化ではなく、あくまで若者のエンタメ需要に対応した結果、あらためてファッションも充実させている感じですね。若者のトレンドに、ファッションは欠かせないものですから。

以前ですと、エンタメとファッションは別々に存在するところがあって、コンテンツにもよりますが、エンタメのイベントにいらしたお客様は目的のものだけご覧になって、館内を回らず帰ってしまうこともありました。

今の若者は、「推し活」をしている人が多く、「好き」なもの軸でファッション、雑貨、グッズなど融合させて楽しんでいます。好きなキャラクターと「推し」を組み合わせて持ち歩いたりすることも流行していますし、アーティスト着用ファッションやプロデュースアイテムが人気になることも多く、エンタメ・ファッションの親和性は非常に高いものになっています。

館内の内装も、買い物にくるだけでなく、SHIBUYA109に来ることを楽しんでいただけるよう、刷新しています。さまざまな角度で写真を撮って発信できる余白あるスペースや階段装飾など工夫を凝らしているので、空間そのものを楽しんでいただきたいです。

ソリューション事業が成長

――SC運営以外にソリューション事業も強化していますね

<ソリューション事業が第二の柱に成長と石川社長>
ソリューション事業が第二の柱に成長と石川社長

石川 Around20(15~24歳)に特化した若者マーケティングチーム「SHIBUYA109 lab.」で、若者の実態や価値観を分析しています。また、アパレル・エンタメなど具体案件をより詳細にトレンド分析するチームがあります。

「SHIBUYA109 lab.」が分析した若者のインサイト、マーケティングのノウハウを企業に提供し、商品やサービスのプロモーション視線、商品開発、リサーチ、セミナー講演なども行っています。多くの企業の皆様とコラボレーションさせていただいています。

現在、ソリューション事業はSC事業に次ぐ第二の事業の柱となる規模まで成長しています。

――食のポップアップストアやコラボ商品などが生まれていますね

石川 「若者ソリューションカンパニー」として、SHIBUYA109の館内を抜け出して、当社のノウハウ、若者のインサイトを必要としている企業に提供しています。

最終的な表現の場所がSHIBUYA109でなくても、メーカーとコラボ商品を出したり、コンサルティング・リサーチを実施したり、人気のスイーツなどがあれば、当社からお声がけして、ポップアップストアを出していただいたりしています。

――渋谷以外に出店の予定はありますか

石川 現在リアル店舗は、渋谷2店舗、大阪1店舗です。積極的な大型出店は今のところ予定はありませんが、エンタメの直営事業DISP!!!をパッケージ化し、地方のほかのデベロッパーの商業施設、海外にポップアップストアとして出店することにチャレンジしています。

当社は世界観を楽しめるポップアップストアの出店や、グッズ制作のノウハウがありますし、海外で今すごくK-popやJ-popの人気があるので、アーティストのポップアップストアなどはアジア圏で需要があると思います。ポップアップストアを2024年夏、香港に出店しました。

――単なるSC運営には限界があると

石川 SC運営は、ある程度限界があると思っています。SCのすばらしいパッケージを作り、全国に店舗を展開していく企業もありますが、当社は渋谷で圧倒的な価値、ユニークさを高めて、若者のインサイトをとにかく蓄積していく戦略をとっています。

渋谷で熱量の高いSCを作り上げ、若者を理解し、ファッション、エンタメ、コラボ商品開発、ポップアップストアなどSHIBUYA109ならではの体験を提供する。そして、これらの体験、知見を外部に拡張することで、成長したいと思っています。

失敗恐れず、新しいことをやること自体が価値

<若者の夢を応援したいと石川社長>
若者の夢を応援したいと石川社長

――さまざまな事業のアイデアは若手メンバーから出てくるとか

石川 ポップアップストアなど新しいアイデアは若手社員から出てきて、彼らが大活躍してくれています。

1年間でいろいろな企画をよくこの少人数(2024年3月末時点社員数73人)でできるなというぐらい、社員皆がさまざまな挑戦を進めてくれます。

もちろん、このままでは計画不足かなという企画なんかもあります。少人数ですし、走りながらやっていくので。ただ考えすぎると何もできなくなるので、会社としてリスクが許容できる範囲であれば、皆がやれるというならいいよ、とできるだけ承認するようにしています。

資料を作らせすぎないとか、それは結構意識しています。会議も減らしています。

会社への説明のための資料を増やしていくと何にも動かなくなって、結果何も生まれないという危険があります。何もやらないより、新しいことをやること自体が価値だよ、と社員に推奨しています。

トラブルもありますが、かといってやらないほどのトラブルでもなくて、やったほうが良いことが多い。若手が走りながら考えた企画を、実行できるように管理職が整える感じですね。

――若者と接するときに気を付けていることはありますか

石川 自分の価値観を押し付けないことを意識しています。

また、若者のトレンドについて、毎週学生などのグループインタビューを実施し、誰でも全社員が聞けるようにしています。そこで、まとめられた資料を読むのではなく、なるべく生の声を聞くようにしています。グループインタビューでは、ファシリテーターはいますが、参加者には自由にしゃべってもらい、結論は求めません。

できるだけ若者の生の声を聞くようにして、「ああ、そうだね」とか、「そういう感じで言っていたね」とか、彼らの話のニュアンスを私も体感としてわかるようにしています。

――若者へのメッセージをお願いします

石川 今、若者は自由だと言われながらもすごく慎重で、考えながら生きている人が多いと感じています。社員ももちろん、お越しいただいているお客様も、自分の好きを極めることは素晴らしいし、自由に生きてほしい。

企業理念に掲げる通り、当社は、若者に向けいろいろな表現の場を作ったり、悩みに寄り添ったり、皆さんの夢や願いを叶える精一杯の応援をしていきたいと思っています。ぜひ自分の将来のやりたいことや夢に向けて自由にチャレンジしてほしいし、SHIBUYA109にも遊びに来てください。

■石川あゆみ社長略歴
愛知県豊田市生まれ。名古屋大学卒業後、通信事業や出版系企業などを経て、2008年11月に東急電鉄(現東急)に入社。東急グループの顧客基盤強化戦略策定、デジタルプラットフォーム構築などに携わったのち、リテール事業部にて東急グループのリテール事業戦略策定を手掛ける。
2021年4月にSHIBUYA109エンタテイメントの社長に就任。企業理念「Making You SHINE!-新しい世代の“今”を輝かせ、夢や願いを叶える-」に基づき、2024年開業45周年を迎えたSHIBUYA109渋谷店などの商業施設運営を基軸に、各種エンタテイメント事業、around20(15~24歳)に特化した若者マーケティング機関SHIBUYA109 lab.の展開等を通じて、若者と企業・社会を繋げる架け橋となる“若者ソリューションカンパニー”への転換を進めている。

SHIBUYA109×ZOZO×文化服装学院/古着のアップサイクル作品で社会課題を発信

流通ニュースでは小売・流通業界に特化した
B2B専門のニュースを平日毎朝メール配信しています。

メルマガ無料登録はこちら

トップインタビュー 最新記事

一覧

渋谷に関する最新ニュース

一覧

社長に関する最新ニュース

一覧

インタビューに関する最新ニュース

一覧

最新ニュース

一覧