流通ニュースは、流通全般の最新ニュースを発信しています。





東急不動産/「体験」「コミュニティ」を創出する商業施設のあり方

2023年12月25日 15:00 / トレンド&マーケティング

東急不動産が開発を推進する、渋谷駅直結の複合施設「渋谷サクラステージ」が11月30日、渋谷駅西口側に竣工した。2024年7月26日の街びらきに向け、順次、商業施設部分の店舗がオープンするが、東急不動産が運営する約50店舗は、単なる物販店舗が入店せず、何らかの「体験」がある店舗をそろえるという。東急不動産が考える、今後の商業施設のあり方について、渋谷開発本部の黒川泰宏本部長に聞いた。

ファッションだけではない「渋谷」の魅力

――東急不動産として、渋谷の商業施設には、どんな役割がありましたか。

黒川 我々は小売業ではなく不動産業なので、渋谷の街の特性に合わせて、商業施設を考えてきました。渋谷は多様な人々が集まる街であり、その中でもしっかりとターゲットを定め、そのターゲットに刺さるようマーチャンダイジング・店舗構成を行ってきました。その中で中心になるのは、渋谷ですからファッションでした。これまではそれが、しっかりとトレンドして根付くことを期待した商業施設だったと思います。

――これからの渋谷の商業施設開発は何が変わるのか教えてください。

黒川 これまでの考えから、大きく方針転換しているわけではないと思っています。ただ、渋谷に限らず、都市型商業施設のすべてに当てはまりますが、これからはモノを売るだけではダメです。

リアル店舗にしっかり来店してもらえる価値をつけないといけない。付加価値をどう付けるかという話で、それはやっぱり体験だと考えています。当然、来店すれば人がいるわけですから、「来店者が何かを感じて、また新しいものが生み出される」という循環を作る施設になっていかないといけない。

――商業施設を作る上で、渋谷特有の要素は何ですか。

黒川 渋谷は、まさにいろんな方がいらっしゃいます。メディア的には、「若者の街」というイメージですが、渋谷に住まれてる方、渋谷で働かれている方、昔から渋谷で商売をされている方もいる。渋谷という街がもともと持っている魅力がある。それを、どうやって時代にあったものとして、進化させながら、商業施設を構成するのか。単にモノを売ること以外の価値をつけることが必要です。それを体現しやすいのが渋谷だと思います。

<渋谷駅中心地区の再開発>

――広域渋谷圏の開発は東急グループ全体で行っていますね。

黒川 東急グループでは、渋谷駅から半径2.5キロを「広域渋谷圏」と定義し、「働く」「遊ぶ」「暮らす」が融合した持続性のある街を目指し、渋谷まちづくり戦略“Greater SHIBUYA2.0”を策定しています。これまで、東急は、鉄道事業を中核として、安全・安心の取り組みを進めています。一方で、東急不動産は、総合不動産デベロッパーとして様々な場所で、いろんな新しいことをやってきた会社です。それぞれの良さをいかに合流させるかが大切で、大きな戦略は共有しながら、個別の施策は、それぞれが担うことで、いい相乗効果を生み出しています。

また、渋谷駅中心地区は、渋谷5街区と位置づけ、それぞれ「街づくり調整協議会」というものにかけています。「渋谷ヒカリエ」開業から、「渋谷ストリーム」「渋谷フクラス」「渋谷スクランブルスクエア」「渋谷サクラステージ」まで続く開発が対象で、街の方々、行政、民間事業者が、このエリアをどういうふうな街づくりをしていくか、しっかり共有しながら進めました。

渋谷サクラステージは、駅中心地区のラストピースとなる開発です。関係者がそれぞれの役割分担をし、連携しながら、渋谷駅中心地区を盛り上げることを目的としています。渋谷サクラステージが完成したことで、より連携を深めて、街づくりを進めます。

体験型店舗をそろえた新たなチャレンジ

――渋谷サクラステージの商業区画における考え方を教えてください。

黒川 渋谷サクラステージの当社が運営する商業施設の区画では、従来型のアパレル販売店舗はゼロになっています。モノを売らないわけではありませんが、何らかの体験をしてもらった結果、モノを購入してもらうようなテナントを誘致しています。

テナントが独自に独立して洋服を売るのではなく、渋谷サクラステージを含めた渋谷という街をいかに活性化していくか。ここに共感してくれるテナントさんと一緒に取り組みをするのがコンセプトで、当社でも初めての取り組みとなります。

<渋谷サクラステージ>

――どんなテナントを誘致したのですか。

黒川 当社は5月に、渋谷を中心とした、広域渋谷圏においてにぎわいをつくることをめざす「まちづくり協定」をカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と締結しました。CCCさんの知見も生かしながら、「渋谷のにぎわいをどう作るのか?また、盛り上げていくのか?商業施設だけでなく、桜丘エリアの後背地の人々とも一緒になって、街づくりをしてもらえるテナント」を誘致しました。個別のイベントや体験価値の連携など、商業施設と街全体でやっていきたい、そういう考え方のテナントさんを誘致しています。

――渋谷は、物販店舗についてはオーバーストアでしょうか。

黒川 単純にオーバーストアとは思っていません。それはECの台頭も関連しています。エリアにもよりますが、都市型商業施設では、単純にモノを売るのではなく、付加価値をどう付けるかが、今後の課題となっています。もちろん、生活密着型の店舗は必要になってきますので、物販店舗がゼロで良いとは思っていません。いつの時代も差別化をどうするかを考えてきましたが、今後は、差別化の中で、どのように付加価値をつけていくかを重視しています。

――モノを売らない体験の具体的なイメージを教えてください。

黒川 極端な話ですが、例えば、入店する際に入場料を取る店舗があっても良いと思います。そんなことが、いかにできるようになるのか?みたいなことを、我々は考えています。例えば、そこに人が集まってくるので、企業が広告を出したいとか、広告収入を商業施設として、いかに取っていくのか、みたいに収益源が変化する可能性もあると思います。

――ECが台頭する中で、飲食店を体験型店舗と位置付けるデベロッパーもいますね。

黒川 私も飲食店は、食体験だと思っています。食体験をするために、その場に人が集まる。ただ、例えば、単に仲間同士で食事をしただけで終わってはいけないと考えています。食事をしに来た人同士が、どう交われるか、融合できるか、みたいなところも、今後は考えていく必要があります。それがある意味、イノベーションや新しいものを生み出すきっかけになる。そこでの何気ない一言が、今までの自分の価値観と違ったときに、やっぱり新しい価値が生まれていくと思っています。

――テナント誘致のキーワード「街づくりへの共感」について教えてください。

黒川 街づくりへの共感は、にぎわいの創出にもつながっています。「街づくりは、新たな価値を創造すること」だと思っています。いろんな人が交わって、融合して新たな価値が生まれていくような街づくりを行う上で、商業施設は重要な役割を果たすと思っています。

――今後のテナントリーシングのポイントはどうなりますか。

黒川 これは施設によって全く違うものになります。例えば、場所によっては、1階はラグジュアリーブランドが必要な場合もあります。当然、こういった考えもありますが、これまでのように、2階、3階と上層階にも同じように物販店舗を入れていくリーシングは、恐らく少なくなっていくと思っています。その施設で、どうやって、にぎわいを作って活性化させるのか?もっと言えば、その施設だけでなく、近隣の施設とどう連携して、エリアを活性化させるのか。そういうことを考えるステップに来ていると思います。

コミュニティを生み出すテナントリーシングを研究

――商業施設を訪れた人同士の交わりを重視しているのですね。

黒川 我々としては、商業施設を訪れた人が交わっていける仕掛けづくりをするべきだと思っています。物件を作るハード開発だけでなく、まちの魅力を高めるソフト施策も重要だと東急不動産は考えており、渋谷の街づくりにおいても、「創造」・「発信」・「集積」を循環させる取り組みをしています。何かを創造する時、あるいは何かが創造される時は、そうやって生まれると思います。

自分だけの価値観の中でいるのではなくて、いろんな方が自分と全然違う価値観を持った人たちと交わることの素晴らしさをしっかりと伝えていける場を提供したい、そういった人たちが渋谷に集まって欲しい。特に、渋谷はそれが体現できるエリアだと思っています。ただ、それは、東急不動産が前面に出て旗を振るわけではありません。我々は、そういう場や仕組みを提供するのが役割です。そこは、強く意識して取り組んでいます。

――これからのプロパティマネジメントはどう変化するのでしょうか

黒川 例えば、来春、原宿に開業する新商業施設「東急プラザ原宿「ハラカド」」では、入居テナントを中心に構成・運営されるクリエイティブコミュニティ「ハラカド町内会」を設立しました。従来の施設運営は、プロパティマネジャーが担っていましたが、テナント主体の「ハラカド町内会」に変更しました、新しい商業施設運営の在り方への挑戦です。いろんなところで課題が出てくると思いますが、一つ一つを解決して、次のステップに進まないと、これからの商業施設に対応できなくなると思っています。

<建設中のハラカド>

――体験を重視した時、商業施設の収益をどこに求めるのか教えてください。

黒川 ここは我々も経験がない世界ですので、産みの苦しみだと思っています。例えば、一つの理想ですが、この商業施設は、多少、持ち出しになっても、近隣の施設に人が集まることによって、近隣の施設でもっと収益が上がるような仕組みができればいいと思います。そのためには、「ハラカド」と「オモカド」の2つの施設をどう連携させていくかが必要になります。

――渋谷エリアでは、どんな施設連携を考えていますか。

黒川 渋谷駅中心地区の5施設、「渋谷ヒカリエ」「渋谷ストリーム」「渋谷スクランブルスクエア」「渋谷フラクス」「渋谷サクラステージ」は、東急グループが開発に関与し、運営を行っています。ここは東急グループとして連携したい。

例えば、外国人観光客の方が、「渋谷フラクス」にあるバスターミナルに降り立つと、そこには観光案内所があります。観光案内所には、荷物を預けて、ホテルに荷物を届ける機能があります。そこで、「渋谷スクランブルスクエア」の展望デッキ「渋谷スカイ」にいって、観光してもらい、他の施設で買い物してもらうこともできます。うまく連携すれば、いろいろと回遊してもらえるので、グループとして、どんどんディスカッションをしていきたい。

――街づくりにつながる高感度なテナントを探すのは大変ですよね。

黒川 一つは、CCCとの「まちづくり協定」があります。広域渋谷圏において、両社の施設やコンテンツといった、さまざまなリソースを活用したアート、ゲーム、音楽、フード、スポーツなどのカルチャーを軸としたイベントの開催、次世代アーティスト支援を行う中でパートナーを増やしています。

また、さまざまな企業が成長戦略を描く上で、危機感を感じられていることが多い現実もあります。同じ店を何個も作って薄利多売でやる戦略もありますが、それだけではダメだという危機感がある。ただ、場所がなかったりとか、一歩踏み込むきっかけがなかったりとか、そういう会社が多い。そういった意味で、次のステップを考えている企業とは、考え方が非常に合います。

<渋谷サクラステージのイベントスペース>

――コミュニティを作るとは、具体的にはどんなイメージですか。

黒川 良く言われることですが、外国人の方は出会って、すぐ仲良くなるけど、日本人は内気でなかなか打ち解けない。場を提供してもなかなか、そこから発展しないことが多い。一方で、やっぱり違う価値観を持った人たちとのコミュニティや接点が新しいものを作っていくという考えを持つ人も居て、いろんなことにチャレンジしようという動きがあります。

だから、東急不動産は、そういう場、きっかけ作りを根気強くやっていくしかないと思っています。そのため、イベントスペースをしっかり作っています。そこで、エンターテインメント的な要素も取り入れています。また、商業施設ではありませんが、マサチューセッツ工科大学(MIT)の教授や関連スタートアップ企業と連携し、渋谷を世界的なスタートアップ企業の集積地にする取り組みなども進めています。

――スタートアップ企業の支援で、収益性をどう確保するのですか。

黒川 確かに支援と収益性は別の話で、限りがある話となります。しかし、渋谷に来れば新しいものが見つかる、あるいは吸収できる、と思われる街を作りたい。日本に限らず、渋谷の良さをもっと伸ばして、グローバルに発信できるようにしたいと思っています。

――どんな情報発信をするのですか。

黒川 すごくいいことをやっていても、伝えていかなければ意味がないと考えております。「渋谷サクラステージ」にはイベントスペースがあり、次世代アーティストの特別展示の開催などを予定しています。まだ知名度は低いが才能のあるアーティストなどをしっかり発掘しながら、グローバルに展開できるサポート、きっかけ作りをしたいと思っています。アーティストも含めて、スタートアップの人々が集まって、産業集積がされ、街としての価値がどんどん上がるのが最終目標です。それにより渋谷から東京の国際競争力強化にも貢献できると考えています。

オフィス、商業施設などがシームレス化、来館の動機づけが必要

――最後に今後の渋谷の商業施設像を教えてください。

黒川 これからは、オフィス、商業、住宅という区分がシームレスになっていくと思います。その中で商業施設を考える必要がある。やっぱり、商業施設にいると、いろんなことが楽しい。当然、買うことも一つの楽しみです。一方で、体験やその施設があることで、来館者の中でも何かが生まれ、それが楽しいということが必要だと思っています。商業施設というくくりだけではないかもしれませんが、その施設を訪れて、歩くだけでも楽しいみたいなことが必要です。

将来的に、買い物に行くという消費行動だけでは、インセンティブがなくなる可能性もあります。そこで、商業施設に行く意味ってなんだろうって考えた時に、「行って楽しい」「そこに行くと何かが生まれるから楽しい」という体験がある。それに対して、対価を払う可能性も十分ある。何のためにオフィスに行くのかといった話も同じような視点があると思います。

<渋谷サクラステージのにぎわいステージ>

商業施設のあり方は、変わってきています。東急不動産として、流行の最先端の街・渋谷で、体験的価値を体現することが必要です。「渋谷サクラステージ」で、アート作品のような階段や壁、大型LEDビジョンなどを設けたのは、建物自体が楽しいと感じてもらうための演出です。こういった取り組みが今後は充実すると思います。オフィスに行くことも、商業施設に行くことも、共通して、インセンティブやモチベーションをつけることが必要になってくると思います。

<渋谷まちづくり戦略発表会に登壇した黒川本部長(5月30日)>

■黒川泰宏氏の略歴
1995年立教大学卒業、東急建設を経て、2007年に東急不動産入社。
2017年都市事業ユニット事業戦略部統括部長等を経て、2022年より現職。

■東急不動産の関連記事
渋谷サクラステージ/商業施設面積1万5200m2に体験型店舗中心に100店オープン

関連記事

トレンド&マーケティング 最新記事

一覧

最新ニュース

一覧