ルミネは2024年度新たな中期経営計画を策定し、2027年度売上高4800億円、2028年度には5000億円を目指すと発表した。中計では若年層の開拓、コト・トキ消費の拡充、海外展開、サステナビリティー重視の施策など単にモノを売る商業施設にとどまらない新たな成長政略を掲げた。表輝幸社長に「21世紀の生きる歓び」を創造する「the Life Value Presenter」であり続けるルミネの挑戦を聞いた。
27年度売上高4800億円、28年度5000億円を目指す
――2024年度から新中計が始まります。今ルミネで最も大切にしている価値観を教えてください。
表 ルミネから日本を元気にしたい。単にモノを売るのではなく、生きる楽しさ、歓びを伝えるさまざまな施策を展開することで、お客様に元気になっていただきたいですし、若者に夢をもってもらいたいのです。以前、お客様に「ルミネに一番求めるものは何ですか」とアンケートをとったことがあるのですが、お客様がルミネに求めているのは「挑戦」でした。私たちは、ルミネの理念である「お客さまの思いの先を読み、期待の先をみたす。」存在として、挑戦し続けていくことが何より重要です。
<ルミネの挑戦で日本を元気にしたいと表社長>
※写真左後ろは田中健太郎氏の作品
――ルミネの挑戦で日本を元気にしたいのですね
表 2023年6月に私はルミネの社長に着任しましたが、コロナ禍の影響もあり、社員もお客様も少し元気をなくしていました。そこで、ルミネがお客様に約束する提供価値「ルミネSPIRAL」、「Sophistication 洗練されている」「Partnership お客さまに選ばれる」「Identify らしさ、品格がある」「Responsibility 責任を持つ、快さをつくる」「Advance 次のライフスタイルを提案する」「LUMINE the Life Value Presenter」を改めて徹底しました。おかげさまで、2023年下期から日を追うごとに業績が回復しています。
ルミネらしさを取り戻し23年度は過去最高売上達成
――23年度は過去最高の売上高3559億円(前期比8.7%増)を達成しました。その要因は。
表 ルミネ理念を明確に打ち出すことで、既存のお客様にも、新規のお客様にも支持いただけたことが、要因だと考えています。
また、コロナ後の外出需要をコスメ、ファッションといった服飾雑貨で取り込めたとも思います。2024年度に入ってからも、全体の売り上げは伸び続けています。ファッションを楽しもうというムードが戻っています。
さらに、20代前半のお客様が減っていたのが課題でしたが、各種施策の結果、新たに若いお客様に来ていただけるようになったことも大きいですね。既存のお客様を大事にしながら、若いお客様が来る「ルミネエスト新宿」を中心に若年層に好まれるテナント、イベントなどを積極的に導入しました。ルミネカード会員も昨年度に比べ、若い人が増えています。
ルミネの既存のお客様は20~30代の都市で働く女性が多かったのですが、これからのターゲットは年齢・性別にとらわれず、ルミネのコーポレートメッセージ「わたしらしくをあたらしく」に共感いただける方々を想定しています。ルミネは女性のお客様を意識してきましたが、今後は年齢、性別にとらわれず価値観軸でお客様を捉えます。今の若い人たちのジェンダーレスなニーズに対応しており、男性用コスメの売り上げも好調で、若い男性のお客様が増加しています。
顧客との「共感」を育む感性豊かなスタッフが活躍
――「共感」を育むことを重視していますね
表 やはり、単にモノを便利に買う、安く買うということではECで十分なわけです。実店舗に来ていただくためには、ルミネは駅にある商業施設として親しみやすくありながらも、半歩先、一歩先を提案する魅力的な存在でなければなりません。
お客様の共感を生むためには、ショップスタッフの皆さんの頑張りも欠かせません。ルミネではショップスタッフによるトレンド発信、着こなし提案などのインスタライブを積極的に実施していますが、お客様が「推し」スタッフを応援してくださり、まだ有名でないスタッフを育てたり、宣伝したりと盛り上がっています。
ショップスタッフが身近なインフルエンサー、アイドル的存在となり、お客様が彼らを育て、「推し活」の一環としてお買い物をして、応援してくださることでも、楽しさ、共感を生んでいます。
ルミネは社員、テナント企業とそのスタッフのつながりが強く、運命共同体と思っています。我々の役割は、いかにショップスタッフが楽しく働ける環境を作れるか。彼らを応援することも重要な役目です。それをショップスタッフの方々が「意気」に感じて、ルミネのために頑張ってくれていて、好循環となっています。
また、2005年から接客スキルの認定制度「ルミネスト」も実施しています。すぐれた接客スキルとマインドを持つショップスタッフを「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」の3グレードに認定。今年は、ルミネストゴールドに認定されたスタッフとシンガポールへ海外研修に行きます。
――海外研修にも行けるとは。モチベーションがすごく上がりそうです
表 お客様に感動を生む接客を実現するには、スタッフ自身がさまざまなことに感動して、感性豊かでなければなりません。IT技術の進化が速度を増し、AIがさまざまな分野で導入される中、やはり人間でしか生み出せないサービスを実現するのは、豊かな感性です。
ルミネストは、スキルが高く、知識・経験も豊富ですが、感性がすばらしい。感性にもとづいたサプライズ、感動が優れた接客につながります。その感性を磨くためには、海外含めさまざまな場所でさまざまな体験をして、感動してもらいたいと思います。
――海外事業やインバウンドの取り込みも強化していますね
表 今春、中計だけでなくこれからの10年に向けたビジョンも策定しました。テーマは「グローバル&サステナブル」です。数値目標だけでなく、お客様の期待を超える感動を生み、日本を元気にしたい。ルミネは若いお客様が多い商業施設ですから、ルミネで若い人が元気になると日本が、未来が元気になると考えています。
社長に着任してから、海外にいろいろ行きましたが、世界の若い人たちは野心もありますし、挑戦しています。彼らに伍して成長するには、日本のマーケットだけ見ていても難しい。
そのため、グローバルの中で評価される企業を目指します。特に成長著しいアジアの需要を取り込んでいきます。海外はアジア一帯を地続きととらえ、アジアの成長を取り込み、アジアの内需化を図ります。現在、アジアではシンガポールとジャカルタに出店していますが、そのほかのアジア各国への進出も検討しています。
日本国内のルミネでは、自分たちの強みを認識し、磨き、「日本のリアルトレンドを一番体験できる場所」を提供します。グローバル目線で評価される商業施設を目標としていることをショップのオーナーの皆様にも伝えています。
ルミネ7館で免税カウンターを設置しています。2023年度の売上高に占めるインバウンドの割合は約5%です。これまではインバウンドの方々向けに情報発信不足だったこともあるので、むしろ伸びしろだと思っています。
サステナブルはボランティアではなくビジネスの要
――サステナブルな取り組みについて教えてください
表 昨年、ルミネの4年目の社員を連れてアメリカのポートランドに行き、どれだけ環境問題が今のビジネスに欠かせないことなのか。世界の実情を肌で感じてもらいました。
若い方々と話して驚くのは、皆さんとても環境、人権といったSDGsの取り組みに関心が高いことです。子どものころからそういう教育を受けていますし、こちらが学ぶことも多いです。いずれ我々のお客様になっていただきたい若い人たちが、「環境問題を意識しない商品は買いません」とはっきり言っているくらいです。
今年4月にスナイデルやジェラートピケなどを手掛けるマッシュスタイルラボの一部ショップで、店頭商品にCO2排出量情報を確認できるQRタグをつけ、その情報を閲覧した消費者によるアンケート結果や売上データなどを基に、購買行動への変容を検証する実験を行ったのですが、お客様の反響が予想以上に大きく、びっくりしました。
買い物におけるCO2排出量の見える化をしたわけですが、若いお客様はそういう意識のあるアパレルで買い物がしたいというニーズが大きいことがわかりました。私は大学で講義することがありますが、ルミネのグローバル&サステナブルの取り組みに対して、大学生たちの関心が高い。意識レベルがガラッと変わっているのを感じます。
ルミネでは今、ファッションをライフスタイル全般ととらえて、顧客起点の業態・サービス開発を推進しているのですが、こういった環境問題を自分ごととしてとらえる取り組みを強化します。CO2削減、地方創生など、楽しくポジティブに、ビジネスを通して、持続的に地球・社会課題解決に貢献できる挑戦を続けていきます。日本のファッションは世界でもトップクラスですが、サステナブルの点でも世界をリードできる存在になれると信じています。
ルミネが都会と地方を結び発信をサポート
――地方創生の取り組みについて教えてください
表 日本各地には素晴らしい農産物、伝統工芸などたくさんあります。世界の方々も注目していますが、世界のマーケットニーズに合っていないという課題があります。そこで、ルミネがトレンドやクリエイティビティ、アートなどを組み合わせ、世界に向けて発信するサポートをしています。
農業の分野では、都会と畑を結び、食の出会いと学びの機会をつくる「ルミネアグリプロジェクト」を実施しています。首都圏で暮らす生活者が食の奥深さや多様性と出会うことで、自身の健康に向き合い、心豊かな生活につなげていただきたいと思っています。JR新宿駅のニュウマン新宿2階エントランス前で、毎月第4木曜日~日曜日にマルシェを開催しています。日本各地の生産者とその思いにつながる機会を提供しています。
さらに、日本の100年後を夢や希望ある社会にするアイデアを「Global Gateway Academy」で、中高生の提案を募集したのですが、「ルミネ賞」を贈呈しました。500人以上の応募があり、最終的に8チーム39人にプレゼンしてもらいました。農業や空き家の問題を真剣に考えている若い世代の発表は素晴しかったです。むしろ、「こんなに日本が大変なのに、大人はどうしてもっとちゃんと取り組んでくれないのですか」と怒られてしまいました。
――地方のポテンシャルをもっと引き出したいと
表 地方と共創し、 旅を通じて、日本中の人をつなげるプロジェクト「旅ルミネ」にも取り組んでいます。魅力あふれる日本の地域との素敵な出会いをつなぎ、そこに関わる方のストーリーを紹介しています。
日本の伝統工芸のすばらしさももっと多くの方に知っていただきたい。今、能登半島地震からの復興を応援する企画も考えています。国内のルミネで福井県の伝統工芸品を紹介・販売したり、新宿3館で福井の食材を使ったレストランフェアを開催しました。8月にはシンガポールでも、伝統工芸品などを販売する予定です。
ルミネが世界の潜在ニーズをつかみ、日本の農産品、工芸品、地方のすばらしさを、どうアレンジして、お客様に提案するか。しかもボランティアではなく、ビジネスとして採算のとれる企画でなくてはなりません。無償では、取り組みが持続しません。日本のマーケットだけでなく、世界にもマーケット広げていきます。
ルミネのお客様は、こういった活動に共感してくださる方々が多く、我々のビジネスを通して、地方のすばらしさを改めて紹介することで、人生の可能性を広げ、お客様の期待の先をみたすことに挑戦してまいります。
――ビジネスでありながら、情熱的ですね
表 お客様の人生の可能性を拡張し、「生きる歓び」を伝えていくことが、ルミネにとってお客様との一番の約束です。お客様が気づいていない、まだ見えていない心の中がみえるようにならないと。
そのためには、まず自分自身が仕事を楽しみ、生きる歓びを感じていなければ、お客様に期待のその先を提案できません。心の底から感動できなければ、この感動を人に伝えたいと思わなければ、お客様の思いのその先はよみとれません。
社長就任時、社員の皆に自分の「生きる歓び」のレポートを書いて提出してもらいました。生きていてよかったと思える人生、生きる歓びをどれだけお客様に提案できるか。自らが、ワクワク楽しんで仕事していれば、その楽しさが周りのスタッフ、お客様にも伝播します。
お客様に、ルミネに来れば元気をもらえるといっていただける。それが目に見えないルミネの価値です。目に見える、想像の付くことは、AIなどの普及により簡単に手に入る時代です。目に見えない人生の生きがい、やりがい、楽しさ、人とのつながり、愛情や情熱がビジネスを盛り上げる。人間力がより問われる時代になっています。
そこで、ルミネがどれだけ夢や希望をクリエイトできるか。夢や希望を実現できる実績をルミネが作り、それを体感してお客様にも元気になっていただきたい。2023年度最高売り上げを実現できたことは、この挑戦の成果の一つです。
私も毎日のすべてを楽しんでいます。仕事でもプライベートでも、業界を超え、さまざま人たちから知見や気づきをもらうのが楽しいですね。今を楽しみ、どんな苦労があっても、お客様に歓んでいただきたいと挑戦することが、希望ある未来につながっていきます。
――元気が出る、おすすめの本を教えてください
表 稲盛和夫さんや松下幸之助さんの著書です。36歳で初めて日本レストラン調理センターの社長になったとき、経営者の著書をたくさん読みました。昭和の名経営者は、日本人が長年培ってきた精神を重視しています。
社会のため、未来のために会社があるという意識を持ち、実績も出しました。日本の長寿企業をたくさん研究しましたが、三方よしの精神を持つ日本は長寿企業が多いです。禅、社会性、サステナブルといった日本が古くから持っている価値観は、世界でも尊敬されています。グローバル競争の中で生き残るためには、これらを今こそ重視すべきではないでしょうか。
売上や利益も重要ですが、ビジネスをするのは人ですから、人の心をつかまなければ。人は、何のために生きているか。それを本やアートを通じて学べると思います。
――アートの力も重視していますね
表 「ルミネ ミーツ アートプロジェクト」に約10年前から取り組んでいます。若手アーティストを応援しており、今ではこのプロジェクトの卒業生が世界的に活躍するまでになりました。さまざまな作品をルミネ館内で展示したり、生活に取り入れやすいアートフェアなども行ったりしています。
私がルミネの社長に就任した際、たくさんの胡蝶蘭をお祝いにいただきました。花を楽しませていただいたあと、どうしても植木鉢が残ってしまいます。それをプロジェクトに関わりのあるアーティストたちが作品に仕立ててくれました。オフィスに来て、その場で作品を作ってくれたアーティストもいます。彼らの作品は当社のエントランスや会議室で、訪れる人たちに元気や気づきを与えてくれています。
ルミネにいることがどこよりも、ワクワク、ドキドキできると思っていただくには、モノ・コト・サービスに加えて、日本人ならではのSDGs、地方創生、アートといった感性・精神性が重要だと考えています。
■表輝幸氏略歴
1963年11月21日石川県生まれ。
早稲田大学大学院理工学研究科修了後、1988年4月に東日本旅客鉄道に入社。入社後、ホテル、住宅、新規事業開発等に従事。2000年日本レストラン調理センター社長にグループ最年少で就任。その後、日本ばし大増、紀ノ国屋のM&Aを手掛け、東京駅グランスタ開発等をけん引。東日本旅客鉄道 事業創造本部 開発・地域活性化部門長を経て、2011年ルミネ常務取締役、専務取締役を歴任。2015年6月に東日本旅客鉄道に戻り、2016年6月に執行役員事業創造本部副本部長に就任、生活サービス10年ビジョンを策定。2021年から常務執行役員。2022年常務執行役員マーケティング本部副本部長としてBeyond Stations構想や100年先の心豊かな未来へとつながる「品川開発プロジェクト」などを推進。2023年6月ルミネ代表取締役社長に就任。趣味はスキューバーダイビング。座右の銘は「仕事はNO!から始まる」。
取材・執筆 鹿野島智子
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