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日立LGデータストレージ/光ディスクドライブで培った技術を流通の省力・省人化に

2022年04月26日 14:10 / 流通最前線トップインタビュー

ジョイントベンチャーだからこその優位性

――コロナ禍が続いています。事業への影響はいかがでしょう。

山崎 新型コロナウイルスの感染が拡大して、当社では最初にサーマルセンシングターミナルの販売を開始しました。体温やマスク未着用の検知を非接触で同時、高速、高精度に行えるタブレット端末です。さらにアフターコロナを想定し、体温センサーに顔認証機能、サイネージを組み合わせたAIインタラクティブディスプレーの開発も進め、ご好評をいただいております。

<コロナ禍でサイネージの需要が増加>
日立LGデータストレージコロナ禍でサイネージの需要が増加

当社のサーマルセンシングターミナルやAIインタラクティブディスプレーは、高精度な顔認証機能を搭載しています。コロナ禍でマスクを着用するのが当たり前になった中で、当社の顔認証ならばマスクを着けたままでも認証をすることが可能です。

――認証の技術はどういったものでしょう。

山崎 日立製作所は、銀行のATMなどでも使われている、高度な指静脈認証の技術を持っています。ただ、指静脈認証には専用の機械が必要です。そこで当社のサーマルセンシングターミナルやAIインタラクティブディスプレーでは顔認証を採用しています。もちろん顔情報も個人情報ですのでセキュリティーが重要です。セキュリティーには、日立製作所が開発した公開型生体認証基盤「PBI(Public Biometrics Infrastructure)」という暗号化技術の利用も適用していく予定です。

認証や暗号化には日立製作所の技術を、ディスプレーはLGエレクトロニクスの得意とするところです。そうした親会社の技術、製品も組み合わせてソリューションを構築する、というのはジョイントベンチャーだからこそできることです。

――そのほかの製品への影響はどうでしょう。

山崎 安全な空間を提供するという意識が高まったため、3D LiDARセンサーで店内の混雑状況をリアルタイムで計測するというニーズも増えましたし、非接触で買い物ができる無人店舗への問い合わせもとても多くなりました。

また、コロナ禍により人流の計測が注目されるようになりました。当社は「HL-DP(日立LGデータストレージ データプラットフォーム)」を提供開始しており、人流の多さだけでなく、個々の動線データや滞在時間をさまざまなガジェットで可視化できます。CO-URIBAにもHL-DPが採用されています。HL-DPはクラウドサービスですので、データはクラウド上に集約できます。さまざまなシステムとも連携が可能で、データの活用をさらに広げることができます。

<無人店舗への問い合わせが増えたと山崎氏>
無人店舗への問い合わせが増えたと日立LGデータストレージ山崎氏

データの活用という意味では、顧客管理ができるサイネージへのニーズも高くなっています。顔認証により顧客の来店数をカウントでき、来店の多い顧客に対してクーポンを発行したり、飲食店ならばデザートを無料でサービスしたりなど、顧客満足度を上げるための施策を実施できます。もちろんサイネージですので広告の表示などもできます。今後は性別や年齢などの属性検知機能も追加して、来店顧客の属性を分析するためのマーケティングデータ取得ツールとして活用いただければと考えています。

――センシングや認証は多くの活用法がありそうです。特にコロナ禍という特殊な時代にはさらにニーズにマッチしていると言えますね。

山崎 コロナ禍がこれからどうなっていくかは分かりませんが、感染に注意しながら普段通りの暮らしに戻っていったとしても、今度は簡単には人が雇えないという状況も起こりえます。そのときに省人化、省力化のニーズは必ず高くなると考えています。当社の技術、製品群はそうしたニーズに応えることができるものと思います。

リテール業界を盛り上げるために常に新しいことに挑戦

――リテール向けソリューションの今後の展開について教えてください。

山崎 今後のリテール業界の展開で重要になるだろうと考えることは2つあります。一つは、オンラインとオフラインの融合、つまり、OMO(Online Merges with Offline)です。昨今はコロナ感染症拡大の影響もあり、ECサイトで買い物をする機会が増加しています。ECサイトでは、顧客の属性、購入する商品の傾向、検索されるキーワードなどを全て管理し、AIによってお勧めの商品の広告を表示させたり、購入されやすいタイミングでクーポンを発行したりすることが可能です。このサービスをオフラインでも展開していくことがリテール業界を大きく飛躍させると思っています。

オフライン店舗での行動をオンラインに反映させる、つまりオフライン店舗での行動をオンラインでのクーポン発行やECサイトでのセール情報などに反映させることで、顧客へ購買機会を多く提供することができます。これを実現するためには、オフライン店舗での顧客行動を把握することが不可欠です。オフライン店舗で購入に迷ったものを、滞在時間や手伸ばし検知で確認し、その日に購入しなかった場合は、ECサイトやSNSなどで割引クーポンや商品の広告を出すことで、購買を促進することができます。

<OMOをサポートと山崎氏>
OMOをサポートと日立LGデータストレージ山崎氏

――センサーで多様なマーケティングデータを収集・分析するわけですね。

山崎 流通企業に話を伺うと、「顧客がこの商品を買うと決めた瞬間を知りたい」「なぜこの商品を選んだのか分からない」という声が多く聞かれました。これまではPOSデータから商品が売れたことは分かっても、売れた理由や何と何を比較して選んだ、もしくは売れなかった商品が悩んだ末に売れなかったのか、興味も惹かなかったのかなどといった情報は分かりませんでした。

それがセンサーを使い、分析することで、商品に手を伸ばした時に、どのくらい悩んだとか、どれとどれを比べてこっちにしたとか、そういった細かいデータが取れるようになります。そうしたデータを生かして、顧客ごとにマーケティング施策を実施することもできるようになると思います。

――もう一つのポイントはなんでしょう。

山崎 デジタルとアナログの融合も今後のリテール業界では重要になります。現在リテール業界では無人決済や、非接触接客など、デジタル化が急速に進んでいます。しかし、デジタル化は便利で新しい購入体験ができる一方、本来のオフライン接客にあった人との交流や、接客の温かさは薄れやすい傾向にあります。

オフラインでの販売を加速させるためには、購入手段はデジタル化されつつも、本来のオフライン接客にある温かさや細やかな気遣いを両立させることが重要になります。例えば、昔ながらの飲食店では、常連客が来店とともに「いつもの」と注文し、店主が笑顔で答えるようなシーンがよく見受けられます。もし同じことができるのであれば、顧客に「楽しいオフラインショッピング」の体験を提供することができ、オフラインでの販売を促進することができます。

当社では現在、顔認証機能を搭載したデバイスでリピート率を把握し、リピート率に応じたサービスが提供できるような仕組みを考えております。さらに属性データや店内の動線データなどさまざまなデータを組み合わせてAIで分析することで、多くの価値を創出できます。

この2つのポイントに当社のセンサーをはじめとしたソリューションは貢献できると自負しています。今後のリテール業界をより盛り上げられるように、常に新しいことに挑戦していきます。

<リテール業界をセンサーで盛り上げたいと山崎氏>
リテール業界をセンサーで盛り上げたいと日立LGデータストレージ山崎氏

<略歴>
山崎 武氏略歴
1985年:日立製作所入社、人事勤労関係業務を担当後、マーケットリサーチ、マネジメント研修の企画業務、買収企業のPMI、IT機器関連営業に従事
2010年:同社で経営企画を担当、日立グループのターンアラウンドの戦略立案に従事。合わせて、日立グループ全体での業務改革、コスト削減を行う「Hitachi Smart Transformation Project」に発足時点から関与
2015年:同社戦略企画本部 経営企画室 室長、日立グループの経営戦略、構造改革を企画、実行
2019年:日立エルジーデータストレージ 常務 CSO 経営戦略本部長(現職)

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