賃上げ2025特別インタビュー/UAゼンセン永島智子会長「システムとしての賃上げへ、年収の壁をぶち破れ」

2024年11月01日 11:00 / 流通最前線トップインタビュー

UAゼンセンは9月、イオングループ労働組合連合会出身の永島智子氏を会長に選任した。永島新会長は、「数は力であり、責任。UAゼンセンは、日本の生活者に一番近い産業が集まっている産業別労働組合として、国民全体の利益を代表するという自負を持って、本当に幸せを感じられる社会を目指して活動したい」と意気込む。同氏に、2025年の賃上げや今後の目標について聞いた。

システムとしての賃上げへ、年収の壁をぶち破れ

――2025年の賃上げについて教えてください

永島 2025年も賃上げは大きな目標です。しかし、2023年、2024年と大きな賃上げが2年続いており、賃上げできている企業の規模、産業により格差が拡大している現状もあります。

労組も賃上げに向け努力していますし、政府も賃上げするべきだと言って、経営者も賃上げするべきだと言っているのにも関わらず、やれる会社とやれない会社があるということが一番の問題ですね。そうであれば、政労使で、(賃上げに対して)もう少し強制力を持った仕組み、格差是正のためのシステム構築に向かうべきだと考えています。

――賃上げが進むと「年収の壁」問題が立ちはだかります

永島 各社で賃上げが進み、最低賃金も上げようというのが、世の中の流れです。男女間の給与格差は間違いなく「年収の壁」が、大きな要因だと思っていますので、こんなものは早々にぶち破るしかない。

最低賃金が上がれば、被扶養者(第3号被保険者)は、社会保険料の負担が発生して、手取り収入が減らないように年収を抑えようとする「年収の壁」により、パートスタッフが就労調整することが増えてしまう。

働く人の給与を増やすための最低賃金アップや各種制度が、かえって働く現場を圧迫するという社会制度の矛盾で、各社は困っています。これでは、ただでさえ人手不足の現場が回りません。

日本スーパーマーケット協会でも先日「年収の壁」に関する提言を発表していましたが、社会保険制度など働く人を取り巻くシステムが、変わらなければいけない時期に来ています。社会制度の不備や矛盾により、働きたい人が働けない事態は明らかにおかしい。できない理由を探すのでなく、日本の労働力が減っていく中、政労使で早急に変えていくべき問題です。

<年収の壁は早急に変えるべきと永島氏>
永島氏1

――UAゼンセンは順調に会員数を伸ばしていますね

永島 UAゼンセンは、2024年9月現在で2208組合、189万8966人と、日本最大の産業別組織です。しかし、日本全体の労働組合の推定組織率が16.3%という現実からすれば、まだまだ足りません。流通部門ですと約1100万人の産業従事者がいて、組合員は約110万人ですから。

労働者のほとんどが組合のない企業で働いてらっしゃるということからすると、やはり私たちは、組織化にもっともっと積極的に取り組むべきだと思っています。みんなで力を合わせて組織の拡大、全ての職場に労働組合があるという状況を目指すのが、私たち産別のあるべき姿だと考えます。短時間組合員、女性や若い世代の取り込みも強化しています。

――女性のトップリーダー育成にも力を入れていますね

永島 女性役員が増えてきました。しかし、やはり単組の委員長に女性がならないと本来的に組織全体の構成は変わっていかないと考え、2023年から女性トップリーダーを育成するための会議を設置して、活動しています。

――若い世代の取り組みを教えてください

永島 次世代を担う若い人たちを対象に、海外視察に行ってもらいました。海外視察に参加してくれたメンバーを中心に、次世代プロジェクトを発足させています。2025年度以降の活動計画も彼らが、裁量を持って、自由に取り組んでもらいます。今年、eスポーツ大会も実施したのですが、このようなアイデアは若い世代でないと思いつきませんね。

カスハラ対策など海外労組に学ぶ

――海外視察はどこの国に行きましたか

永島 カンボジア・ベトナム、オーストラリアの2チームに分かれて行きました。カンボジアには、UAゼンセンのメンバーが、大使館に一等書記官として派遣されています。彼が今一生懸命取り組んでいるのは、現地の職業訓練と職業訓練されたメンバーを日本に派遣することです。この職業訓練の現場を見たり、成長著しいASEANの実情を肌で感じたりしてきました。

また、オーストラリアの店舗流通関連労組(SDA)とUAゼンセンは長年交流を続けています。UAゼンセンは、カスタマーハラスメントの問題を一生懸命に取り組んでいますが、この取り組みでは、SDAのカスハラ対策から刺激を受けました。両国間でさまざまな取り組みを共有しながら、学びあっています。オーストラリアではネットでの組織化などを先進的に実施しているので、組織の拡大に向けた彼らの活動は非常に勉強になります。

――今の課題を教えてください

永島 これも社会システムの問題ですが、介護業界では、診療報酬水準によっての彼らの賃上げが相当難しいという問題があります。また、製造産業部門では、中小企業が多く、原材料価格や物流費が高騰する中、適正な価格転嫁が進まず、賃上げが難しいという現状です。

今までは、原材料価格の高騰や人件費の増加を中小企業が吸収してきてしまったのですが、やはり適正な価格転嫁が必要です。物価が上がれば、賃上げも進み、価格転嫁も適正に行われるというのが、必要ではないでしょうか。

全体的に、中小企業に労働組合のないところが多いですね。そうすると、中小企業の労働者には、賃上げの恩恵は回らない。製造業のサプライチェーンは、大手企業だけでなく、さまざまな中小企業がありますから、日本全体で広く賃上げの恩恵を享受できるように活動を続けます。

<働いている人が元気で明るい社会目指すと永島氏>
永島氏2

――生活者へのメッセージをお願いします

永島 やはり働いている人たちが、もっともっと自分たちの権利を主張していい。誰もが自由に発言ができ、自分の考え方を遠慮なく発信できるのが当たり前の社会、それが民主主義社会だと、私は思っています。働いている人が生き生きと元気に明るく、毎日楽しく生きていける社会でないと、社会って健全じゃないですよねと。日本が幸せな国であってほしい。

組合に入ってよかった、この会社入ってよかったと思ってもらえる活動を目指します。昔から、労働組合の役割の一つに、さまざまな活動を通し、企業のチームづくり、エンゲージメントに貢献してきたということがあります。

どこかに帰属することはやりがいや、喜びにもつながっていきますし、働いて社会に貢献する、社会をよくすることに喜びを感じられると思っています。働く皆さんが幸せになるような社会を目指したいというのが、一番ですね。だから、組合員の皆さんに幸せになってほしいし、幸せを感じられるような活動を続けたいと思います。

<幸せを感じられるような活動をと永島氏>
永島氏4

■永島智子氏略歴
1993年4月:ニチイ入社
2000年10月:マイカルユニオン中央執行委員
2006年10月:マイカルユニオン中央副書記長
2008年10月:マイカルユニオン中央書記長
2011年10月:イオンリテールワーカーズユニオン中央執行書記長
2016年6月:イオンリテールワーカーズユニオン中央執行委員長
2018年10月:イオンリテールワーカーズユニオン中央執行委員長、イオングループ労働組合連合会会長(現職)
2020年9月:UAゼンセン副会長 流通部門長
2022年10月:日本労働組合総連合会 中央執行委員(現職)、全国労働組合生産性会議 副議長(現職)
2022年12月:UNIグローバルユニオン商業部会副議長(現職)
2023年4月:UNIアジア太平洋地域組織執行委員(現職)
2024年9月:UAゼンセン会長(現職)

■UAゼンセン公式ホームページ
https://uazensen.jp/

取材・執筆 鹿野島智子

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