単館SC研究会インタビュー/田中座長・松野副座長に聞く単館SCの魅力と課題

2024年10月28日 11:00 / 流通最前線トップインタビュー

日本ショッピングセンター協会(以下:日本SC協会)の調査によると、日本のショッピングセンターは(以下:SC、2023年末時点)3092SCとなっている。この中には、大手デベロッパーの開発したSCだけでなく、「単館SC」と呼ばれる1企業で1SCもしくは数カ所のみを運営しているところも少なくない。SCが地域共生、コミュニティー拠点として注目される中、長年地域と密着して成長してきた単館SCの魅力と課題について、日本SC協会 単館SC研究会の座長 田中篤也フォルマ社長(フォレストサイドビル「フォーリス」「ミッテン」、東京都府中市)、副座長の松野宏サンポップ社長(サンポップマチヤ、東京都荒川区)に聞いた。

――単館SC研究会の成り立ちについて教えてください

田中 単館SC研究会は、2012年に関東・甲信越支部所管の研究会として発足しました。単館SCのデベロッパーは大手企業と違って、情報量や情報交換の場が少なく、他のデベロッパーやテナント企業との交流もないため、コミュニケーションの場として設けました。現在、北海道から九州まで約50社が参加しています。

<第1回研究会>
第1回研究会

委員会のように固定メンバーではなく、協会会員の単館SCであればだれでも参加できるよう、広く声をかけています。1回あたり20~30人が参加しています。

――どのような活動をしているのですか

<情報交換会や地方の視察を実施と田中氏>
情報交換会や地方の視察を実施と田中氏

田中 主に、参加メンバー間での経営・運営に関する「情報交換会」、行政関係者・メーカーなどを講師に呼び制度・技術・サービスなどについて学ぶ「勉強会」、単館デベロッパー同士およびテナント企業の店舗開発担当者との「交流会」を行っています。

コロナ禍もあり、しばらく中止していましたが、年に1回ほど地方開催を実施。現地の単館SCや話題の最新SCなどの視察も併せて行っています。2024年度は11月に福井・大阪で開催する予定です。自社でうまくいった事例などの情報交換ももちろんですが、会合では同じ悩みを抱える単館SCの担当者同士、気持ちを共有でき、励まされることも多いようです。

<研究会で地方視察も>
研究会で地方視察も

2023年より単館SC研究会と、テナント企業の店舗開発担当者によるPRC情報研究会(事務局:ブレーンアンドパートナー)が合同研修会を定期的に実施しており、非常に好評です。

単館SCですと、日々の施設運営にどうしても時間をとられてしまうので、テナントの最新情報に疎くなりがちです。このような機会があれば、新たな顧客ニーズにマッチしたテナントの情報を得られます。テナント企業も、地域に密着したSCだからこそ出店したいという意向もあることがわかりました。

会員間のテナントや設備の情報交換が奏功

<取り組みを会員にフィードバックと松野氏>
取り組みを会員にフィードバックと松野氏

――情報交換の場として成果をあげているのですね

松野 テナント情報だけでなく、デジタル販促など最新のサービスを情報交換会で得られるのも魅力です。サンポップマチヤでも、情報交換会をきっかけに、リゾームの商業施設の買い回り施策を支援するためのクーポン発行プラットフォーム「KOCHILAE(コチラエ)」を導入し、スマホ抽選会にチャレンジしました。

新型コロナの影響で抽選会イベント時に発生する密な状況を避け、デジタル販促を取り入れることで、若いお客様を増やしたいという思いで実施しました。

サンポップマチヤのお客様は年齢が高めなのですが、スマホ抽選会では、30代女性など若い方、男性の利用が増えました。ただ、シニアやお子様連れからは、昔ながらの「ガラポン抽選会」が人気なのです。抽選の「ガラガラ」という音が人をなんとなくひきつけますし、抽選会場の生き生きとした雰囲気が楽しいのですね。

今後もLINEの活用などデジタル販促はもちろん実施しますが、SCはあらゆる年代の方が日常生活に欠かせない買い物や食事を楽しむ場ですので、デジタルとアナログ、バランスよく取り入れたいと思います。また、こういった経験を会員各社にフィードバックすることで、経営のヒントになればと思っています。

――情報交換会で得た情報を取り入れた事例はほかにありますか

松野 最近では、2024年6月開催の単館SC研究会の際に、生絞りオレンジジュースの自動販売機が他のSCでも人気だとプレゼンされていたので、さっそくベンダーと交渉を行い、サンポップマチヤにも同年8月から設置しました。

自動販売機から、生絞りオレンジのいい香りがしますし、ジュースを作っている過程を見ているのも楽しいらしく、お子さんが親御さんにねだって買ってもらっているのを見かけました。小さなことのようですが、やはりSCならではのリアルな体験がお客様に求められていると感じます。

地域とスポーツや文化イベントで連携

――顧客と距離が近いのも単館SCの魅力ですね

田中 府中市は、東京サントリーサンゴリアス、東芝ブレイブ・ルーパス東京といったラグビー「リーグ・ワン」の2チームが活動拠点にしているラグビーの街です。フォーリスでは、「府中市小学生タグラグビー大会 フォーリスカップ」に特別協賛しています。

タグラグビーは普通のラグビーからタックルなどの接触プレーをなくし、性別や年齢を問わず誰でも安全に楽しむことができるものです。リーグ・ワン2チームの協力もあり、参加するお子さんも、親御さんも、府中市全体が盛り上がりますし、SCが地域とともにあることを感じさせてくれます。

フォーリスカップというロゴを入れたグランドコートを全国大会出場チームにプレゼントしているのですが、これも参加者に好評です。

<落語で地域密着SCならではの推し活もと松野氏>
落語で地域密着SCならではの推し活もと松野氏

松野 サンポップマチヤでは年2回古今亭菊之丞師匠にとりまとめいただいて、寄席を開催していますが、落語は最近若いファンが増えており、人気イベントです。サンポップマチヤのある荒川区在住の二ツ目の落語家が、真打になるまで応援するなど、地域密着SCならではの「推し活」も楽しめます。

荒川区は唯一残っております都電荒川線が走っていることもあり、荒川区芸術文化振興財団主催による都電荒川線写真コンテストが毎年開催されています。当社は同コンテストに協賛させていただいておりますが、こちらも盛況です。特にシニア女性の写真熱に驚かされましたね。地元ならではのカルチャーを発信し、それを集客につなげられるのが、単館SCの強みではないでしょうか。

こういう企画は担当者「楽しい」「面白い」と感嘆詞が出るようなアイディアでないと、お客様に喜んでいただけないと思っています。また、単館SCは会社の規模が小さいからこそ、現場からアイディアがあがってくれば、すぐに実行に移せるのも強みだと考えています。

ほかにも、旭川物産展を開催した時には、都心の百貨店の物産展に行くのはシニアのお客様には大変ですが、地元のサンポップマチヤなら行きやすいと言っていただきました。物産展などを開催しますと、都心に比べれば絶対客数は少ないのですが、一人当たりの買い上げ点数・金額は大きいと出店者にもご評価いただきました。

田中 そのほか会員の事例では、「田無アスタ専門街」(東京都西東京市、アスタ西東京)は、田無駅からペデストリアンデッキでつながった2階の広場で、行政と連携しながら年間300日以上のイベントを実施しています。この催しでファミリー層のお客様が増えているそうです。

「アイネスフクヤマ」(広島県福山市、福山駅前開発)では、「さんすて福山」「天満屋福山店」など地域の商業施設、商店街、地元メディアと連携したアニメイベント「フクヤマニメ」を2018年から開催しています。

福山市は瀬戸内海沿岸の中央、広島県東部に位置する、「蒼穹のファフナー」や「崖の上のポニョ」、最近では「境界戦機」のモデルになった街です。「フクヤマニメ」のうち、歩いて回遊できるエリアで、コスプレ、コスプレパフォーマンス、声優&クリエイタートークショー、アニソンライブ、原画イラスト展、創作マンガ・小説展示販売、映画上映、プラモデル・フィギュア展示、サバイバルゲームなど多彩なコンテンツが楽しめます。コスプレ参加OKなので、毎年1000人を超えるコスプレイヤーでにぎわうそうです。

また、「スーパーモールラッキー」(秋田県横手市、マルシメ)は、2011年より自社でのマイクロバスによる「お買い物バス」を運行しています。2016年からは、暮らしの悩みをサポートする「お困りごと相談」をスタートしています。社内で対応できないことは、地域企業と構築した「マルシメネットワーク」に参加する加盟店を紹介。マルシメに紹介料が支払われる仕組みです。お客様の困りごと解決とともに、地域企業の活性化にも貢献しています。

単館SCは、大手企業のように転勤があるわけではないので、あまり運営メンバーが入れ替わりません。お客様と顔なじみになり、10年20年とお付き合いしていることも珍しくありません。収益をあげることがもちろん大事ですが、このようなイベント開催や日々のコミュニケーションの積み重ねが営業継続の大前提ではないかと思います。

<コミュニケーションを重視と田中氏>
コミュニケーションを重視とと田中氏

人手不足対策に定休日増や営業時間短縮も

――単館SCならではの課題を教えてください

田中 やはり、大手企業に比べるとテナントや最新サービスの情報がどうしても集めにくいことですね。人手不足で現場の仕事が忙しくて、単館SC研究会に参加できない会員もいますので、情報発信・共有は今後も課題です。

――人手不足は深刻なのですね

松野 単館SCですと、大手企業と違い分業制にするほど人員に余裕がないので、施設の管理、リーシング、テナント対応、販促と、なんでも一人がオールマイティーに手掛けるのが一般的です。しかし、今の時代、業務負担や土日祝日の休みの少なさ、遅くまでの勤務時間などがネックになり、求人で苦労しています。そこで、テナントとの利害も一致するので、休館日や営業時間の見直しをする動きが各社に出てきています。

SCの立地にもよりますが、初詣のお客様が立ち寄るような場所では、正月休みも難しいですね。とはいえ、会員の各SCでは思い切って、管理事務所の対応時間を短縮したり、店舗別休業日を取り入れたりと働き方改革を進めています。よそのSCではどうしているか、こういった情報交換も重要です。

田中 協会会員の事例では、「ラブリーパートナー エルパ」(福井県福井市、福井ショッピングモール)は2019年から年間定休日を4日増やし14日に設定。定休日の一部を使い、テナントスタッフ同士の懇親会も行っているそうです。

「おのだサンパーク」(山口県山陽小野田市、小野田商業開発)は、2021年から年2日の休業日に加えて、テナントが任意で1日休める店舗別休業制度を導入しています。SC主催でテナント採用説明会を開催し、求職者とテナントをマッチングするサポートもしています。

「新静岡セノバ」(静岡市葵区、静鉄プロパティマネジメント)は、2021年5月から営業時間フレックスタイム制(各店舗が必ず営業するコアタイム11~19時とし、開店・閉店をテナントの裁量で決定)を採用しています。飲食・食物販の営業時間も短縮しました。

2021年5月より全館休業日に加え、福利厚生を主たる目的とした「パワーチャージ休暇制度」を導入しています。

会員各社で、企業主導型保育所の設置や、テナントスタッフ向けの懇親会などテナントと連携して人材確保に努めています。

修繕など共通課題に会員間の連携強化を

――設備の更新も重大な問題ですね

田中 築年数のたったSCは、自社保有の物件だけではありません。関係者が多い物件の大型改修には、地権者の方々の同意も必要です。年々、設備関連のコストは上昇していますので、修繕積立金の値上げにご協力いただく必要もあります。この問題は、どこのSCでも大きな課題で悩みどころでもありますので、単館SC研究会では、定例会のほかに「ビル管理分科会」を設けることも検討しています。

松野 単館SCは、施設の寿命が会社の寿命になりかねないところがあります。しかし、地域の生活の中心として、お客様に愛されてきたSCは簡単にやめるわけにはいきません。単に営業しているだけでなく、地域の交流拠点でもあるSCが少なくありませんので、SCがあることで、周辺の店舗にもお客様が回遊する集客効果も見逃せません。運営・改修コストを抑えながら、いかに継続的に営業していくか。各SCの悩みどころです。

――これから取り組んでみたいことはありますか

田中 やはり、会員間の実務の共有ですね。ビルメンテナンスなどの見積もりを共同でとったり、人材を共有で雇用したりすることも考えたいです。単館SCはどうしても規模のメリットは出しにくい。ここは会員同士、知恵を出し合い、連合する可能性も探りたいです。

日本SC協会ではSCで営業終了後、毎日行われている売上報告業務の効率化を目指し、2024年5月に「SCにおける売上報告の効率化に向けた提言」(2024年版)を発表しましたが、このように共通の課題には会員間で協力して取り組んでいきたいですね。

松野 地域のためにも簡単にやめられないのが単館SCです。行政と連携しつつ、いかに地域に貢献しながら、営業を継続するか。1社の力では限界がありますので、今後日本SC協会の会員間のネットワークをさらに強化し、管理・修繕・経理・販売促進といった共通の業務を数社が共同して一括管理に取り組むなど、共存共栄を図りたいと考えています。

■フォルマ 田中篤也社長の略歴
1999年フォレストサイドビルの管理会社であるフォルマ入社。専門店街フォーリスの営業、販促、リーシング業務等を担当。2012年代表取締役に就任、2019年キーテナントである百貨店が撤退するも、ミッテン府中をパートナーにオール専門店ビルとして再生、現在に至る。日本SC協会の単館SC研究会には立ち上げから参加、2015年より座長を務める。

■サンポップ 松野宏社長の略歴
1983年に大進商行(現・サンポップ)入社。サンポップアヤセ(SC)事務局に配属され、運営管理業務を担当。1990年に常務取締役に就任。1996年に町屋駅前再開発事業(東京都荒川区)の中心となる中央地区にサンポップマチヤを開業。SCのリーシング、運営管理およびビル所有者である再開発管理組合の管理業務を受託する。2004年専務取締役、2024年代表取締役に就任。2012年より日本SC協会単館SC研究会副座長。2018年より同SC経営士会副会長。

取材・執筆 鹿野島智子

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