ホーチミン街歩き/ベトナム人はカフェがお好き
2024年12月26日 14:02 / 店舗レポート
流通ニュースは2024年9月、初の海外現地取材となるベトナムを訪問した。記者が感銘を受けたのは、日本の高度成長期もかくやという、ホーチミンの街にあふれる人々の生命力だった。そんな彼らが愛してやまないのがカフェだ。高級店でも、道端でもコーヒー一杯で何時間も楽しむベトナム人。彼らの日常の一部となっているカフェを紹介する。
日本でもオープンカフェ、水辺など美しい景観を生かした飲食店が人気だが、そこはホーチミンでも同じ。サイゴン河沿いのバクダン埠頭公園には、世界的なブランドである「スターバックスコーヒー」を圧倒するような、ベトナムを代表するカフェチェーン「ハイランズ・コーヒー」、若者に人気のホーチミン発「KATINAT(カティナット)」の大型店が並ぶ。
これらのブランドは、街を歩くとよく店舗を見かける。商業施設に出店していることも多く、ベトナムでの人気がうかがえる。
ベトナムで使われるコーヒー豆は苦みの強い「ロブスタ種」が主流で、その濃さを和らげるために練乳を加え甘くしたメニューが多い。日本人の考えるブラックコーヒーを頼もうと思ったら、ホットでもアイスでも「ノー・シュガー」と言わないと、こってり甘いコーヒーが出てくる。お気をつけあれ。
大手チェーンでは、コーヒー以外にティーメニューも充実している。タピオカ、ハスの実、クリームなどトッピングを有料で追加し、カスタマイズするのが一般的だ。
また、「カティナット」は、おしゃれな紙のスリーブや店内のフォトスポットで、SNSが生活の一部となっている若者たちを引き付けていた。
ホーチミンのメインストリート・ドンコイ通りには、ベトナムコーヒーの老舗「チュングエン・レジェンド」が美しい店舗を構えている。エレガントな内装は、フランス流の洗練がホーチミンに息づいているのを感じさせる。
メニューは、焙煎(ばいせん)具合や豆のひき方の異なるコーヒー、フルーツを使ったティーメニューなどがそろう。
若者に人気のブティックなどが集まるリートゥチョン通り26番地の古アパートには、1階に「カティナット」、2階にはハノイ発レトロカフェ「コン・カフェ」が入居している。
「コン・カフェ」のフードメニューを頼んでみたら、即席麺を使っていた。ベトナムでは、外食で即席麺を使うのが一般的と聞いていたが、日本人からすると軽い驚きを感じた。
そんなおしゃれカフェもあれば、高層ビルが立ち並ぶオフィス街のど真ん中でも、路上でヤシの実ジュースを楽しむのがベトナム流。外資系企業や高級ブランドの店舗がそろう1区でも、バイクや小型トラックに商品を満載した路上販売をよく見かける。
近代的なコンビニエンスストアの横では、路上にイスとテーブルを並べ、麺類などを楽しむ人たちがいるのも珍しい光景ではない。
新しいおしゃれなカフェに飛びつくと思えば、路上で飲食物を買うことも日常。そんな人々の幅の広さを感じながら、カフェ巡りをした。
【取材後記】
フランス植民地時代には「東洋のパリ」と呼ばれたホーチミン(旧サイゴン)。サイゴン河沿いのメリン広場から放射線状に道路が広がり、都市計画がきちんと練られた街だ。
高層ビルが林立し、外資系企業の進出も目覚ましい。12月には、ホーチミン初の地下鉄も運行を開始した。
スマートフォンが普及しているから、世界の流行は同時多発的に広がっている。若者はローンを組んで高機能スマホを買い、おしゃれなカフェに行き、友達と映える写真を撮る。ショッピングセンターで買い物や食事を楽しみ、家では韓国ドラマを見て、スマホゲームをし、猫を飼う。日本の若者と欲しいものは、そう違わないだろう。
しかし、近代化が進む一方で、街にはさまざまな矛盾が同居している。頻繁に街路樹や植栽の手入れをするのに、その樹木の根元に食べ終わった麺のスープを捨てたり、トイレ代わりにしたりする人も少なくない。
おしゃれなカフェで800円くらいするスイーツドリンクを頼む日もあれば(ベトナムの物価は日本の1/2~1/3)、清潔とはいいがたい路上で買い食いする日もある。
すさまじい排ガスと交通渋滞の中をバイクで通勤しながら、健康的な食事に気を使ったり、ジム通いをしたりする。
産経新聞サイゴン特派員だった近藤紘一氏は、サイゴン陥落の前後をつづった『サイゴンのいちばん長い日』を、「この土地にうごめく人びとの生きる力も、結局のところは変わるまい」と締めくくっている。確かに彼らの明るさ、たくましさは、サイゴン解放から50年近くたとうと変わりはない。この世ははかなく醜いが、時に美しく、情熱に満ちている。ホーチミンの街を見ればそれがわかる(了)。
取材・執筆 鹿野島智子
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