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コンビニ問題/根本重之氏が語る業界の現状・課題・解決策

2019年11月08日 17:50 / 流通最前線トレンド&マーケティング

流通経済研究所理事 拓殖大学名誉教授 根本重之氏 

コンビニエンスストアの24時間営業問題などに対する社会的な関心の高まりを受け、経済産業省が「新たなコンビニのあり方検討会」を設置し、検討や調査を進めている。流通ニュースでは、その委員を務める根本重之流通経済研究所理事/拓殖大学名誉教授が、第1回会合で行った報告「コンビニエンスストア業界の現状、将来予測と今後の課題について」に注目し、概要を速報した。今回、業界として参考にすべき部分が大きいと思われるので、あらためてその見方、考え方を聞くことにした。飽和と言われるコンビニ市場とその将来、それを踏まえた改革の基本的な考え方を解説してもらった。

コンビニ市場は飽和、客数減を客単価増で補えないチェーンも

――先生はコンビニ業界は飽和したと見ていますか。まずあらためてそのあたりから教えてください。

根本 私は飽和という言葉に今一つ馴染めないのですが、成熟したと見ています。前年度末のコンビニ総店舗数は約5万6000店(前年比1.1%増)で、店舗数の伸び率は3年連続1%前後にとどまっています(図表)。今年度期初の出店計画は、大手4チェーン合計で前年度の2964店から約900店減の2050店です。しかもスクラップ&ビルドが多く、純増予想数はわずか20店にとどまります。

かつてコンビニは人口3000人に1店が限界、日本の人口を約1億2000万人とすると、4万店程度が限界だろうなどともと言われていました。しかし、基本の食品で需要を拡大し、それ以外にもさまざまなサービスなどを取り込むことで対象市場を拡大しつつ、コンビニは従来言われてきた限界を破ってきた。それは非常に見事だったと思います。しかし、もうさすがに既存の事業モデルでのコンビニは成熟したとみるべきでしょう。

<コンビニ店舗数の推移>
コンビニ店舗数の推移

総店舗数の伸び率低下もさることながら、成熟のより厳しい兆候として、既存店が伸びなくなっていますよね。昨年度は、既存店客数が一段と減り、客単価増で補えるチェーンもあれば、補えないチェーンもある状況でした。直営のチェーンであれば、既存店の減少分を出店でカバーして、全体では増収だからまあよしとすることもできますが、フランチャイズ(以下、FC)チェーンでは、個々の店舗はそれぞれ独立した事業者のものですから、減収となる加盟店が増えると厳しい事態に至ります。

しかもそれで加盟店の運営コストが上がっていなければまだいいのですが、人手不足を背景に、人件費が上昇し、社会保障費の負担増もあり、多くの加盟店の経営が苦しくなってしまっている。そのように状況が変化したのに、チャージ率をはじめに契約はさほど大きく変わっていない。やはりもう従来路線で走るのは限界だとみるべきでしょう。成熟したからといって「希望」や「やるべきこと」がなくなるわけではなく、これまでとは違う考え方や方法で持続可能性を高めたいと思います。変化への非連続的な対応、改革が必要でしょう。

――先生は、検討会の初回でコンビニ業界の将来についても話をされていました。それについて伺います。

根本 流通経済研究所では、主力小売業態の食品販売額の将来予測で継続的にやっています。2017年までの実績値に基づく最新の2019年予測によると、コンビニの食品販売額は、2020年代前半は微増で行けるが、2025年を過ぎるとほとんど伸びなくなり、30年頃をピークに減少過程に入ります。ちなみに2020年以降、スーパーは減少、ドラッグストアとECの食品販売額は35年までに17年比で9割程度伸びるという予測でした。しかし各業態とも、18年、19年の実績を取り込んで予測をすると、結果はもう一段厳しいものになるだろうと見ています。

コンビニに戻りますが、2025年までの微増予測は、店舗数増加による部分が大きいはずです。他方、多くの既存店の売上高は人口減少に合わせるかたちで減ってゆく。本当の過疎地などには店舗はないですから、人口減少率よりはやや緩いのですが、今後は多くの既存店の売上高の減少が常態化することも覚悟しないとならないでしょう。
したがって、本部企業は、現状すでに過ぎ去った成長期とは状況が完全に変わってしまっていることに加えて、将来も見て欲しい。5年後、10年後、あるいはもっと先まで見て、これまでのやりかたではもうだめで、これからどういう方向に進むべきかを考えることが必要だと思います。市場は成熟どころか、人口減少により縮小する時代が来ます。FCシステムは成長過程で成長速度を上げるためには非常にいいシステムですが、逆に成熟・衰退過程に入ったにも関わらず、そのままゆくと、歯車が逆回転するようなことも起きてしまうことになります。

――やはり、地方がとくに厳しいと見ていますか。ローソンの竹増貞信社長は「地方が厳しいのは一般論として正しいが、個別にみていくとローソン独占の場合もあり競争は少ない。都市部では、市場は潤沢だが競争が激しいので、1店舗ずつ見ていかないといけない。一概に、地方だからダメ、都市部だからいいとは言えない」と述べていました。

根本 そうだろうと思います。確かに地方だけが厳しいわけではなく、都市部にもかなり厳しい人口減少エリアがあるし、人口が減らないこところは出店が進み、競争過剰エリアになりやすい。そして、店舗の状況はそれぞれ異なる。しかし、地方の市場がどうなるか知りたくて、この冬、人口10万人程度の閉鎖性の高い地方市場の調査をし、若い優秀な研究員に小売業態の将来予測をしてもらったのですが、地方市場の将来は人口減率が大きいためにやはり厳しい。

事業というのはどれも多数の皿回しを続けるようなもので、コンビニ事業は、全国で1万枚、2万枚超の皿回しをしているように見えたりもするのですが、ローカル市場を見ていると、今のままだと、この店の明かりは消えるなと思い、皿が落ちてガチャガチャ割れる音が聞こえるように思うこともありした。店舗と本部が協力して皿が落ちないようにするわけですが、回すエネルギーそのものは来店客が与えてくれる。お客が来て、商品を手に取ってくれ、レジでお金を払ってくれると、お皿がくるりと回る感じです。人口が減り、その客数が減るとやはり厳しい。地方に限らないわけですが、状況は先になるほど厳しくなると見ておくことが必要です。たくさんの加盟店の生活がかかっていますから、本部企業は、足元の実態把握と的確な長期予測の両方をして、それをベースに意思決定をすべきだと思います。

――将来的にも状況が厳しくなるとすると、チャージ率の変更といったことも必要なると思いますが。

根本 そう思います。すでに加盟店の売上が伸びない、場合によっては減るようになると同時に、コストが上がり、収益が悪化している。そうだとすれば、成長時代に定められ、その後あまり変わらないできた分配や負担の仕方に関する基準は変えなければならないでしょう。単純な引き下げではなく、厳しいところにより厚く手当てするといったかたちで体系を変えるというやり方があるかもしれません。あるいは商品廃棄ロスの本部負担割合の上昇、さらにゆけばこれまで売上原価含めなかったロスを一般的な会計方法と同様に含めるといったことも視野に入れておく必要があるだろうと思っています。分配や負担に関する見直しは、長期的に見た場合、当座の1回だけのことではないとも思います。長期的な視点に立って、覚悟をし、プランを作っておくべきだと思います。

FC本部は相当な覚悟をもって事業モデルを変えるべき

――営業時間などを規制するフランチャイズ法は必要だと考えますか。

根本 オーナーヒアリングを読んでいますと、本部と加盟店の関係は圧倒的に本部優位だとして、FC法を作ってほしいという意見が相当数出ています。合わせて報告される事例とともに読み合せると、放置できないものもあるという感じがします。

しかし私は、FC法について勉強してきていないので、その制定の是非についての判断を下す自信がないのですが、現状を鑑み、拙速を避け、スピードを重視したいと思っています。それというのは、新たな法律を作るのは、そう簡単ではないし、時間もかかってしまうでしょう。今申し上げたように、地域、店舗による環境、状況の差などを考えると相当に難しそうです。またFC法とした場合、コンビニ以外のFCビジネスについて考えないとならないでしょう。そもそも私は特定業界を規制する法律はそう簡単に作らない方がいいと思ってきたところもあります。ましてや拙速は絶対に避けたいわけです。他方、スピード重視というのは、コンビニ業界の解決すべき問題は差し迫っていますから、早急に手を打つべきで、先延ばしにはできないでしょう。そうするとまずはすでにある独占禁止法のスキームの活用が現実的かつ効果的だと思うのですが、どうでしょう。

まず本部企業が、公正取引委員会が動く姿勢を見せているもよく認識し、必要な改革を行い、問題を自ら進んで解決すべきだと思います。ちゃんとやらないと、多数の現オーナーが苦しい状況が続いてしまうし、新たなオーナーの確保にも問題が出る状況ですよね。

一例ですが、本部側が一方的に発注数量を決めるといったことが本当に行われているとすると問題です。営業時間の短縮も、きちんと認め、実現できるようにしなければならないでしょう。それととともに365日営業を何とかしてほしいというオーナーの声も相当数上がっています。誰の人生にもある慶弔や緊急事態発生時にも休業の自由が確保できないような契約あるいはその運用はすぐにも変えるべきでしょう。これまでは成長が前提で、やればもうかるんだから黙ってついてこいといった感じもあって、本部にとってやりやすい全店一律的な方法でやってきた。そうすると、現場では優越的地位の乱用に類する行為も発生しがちになる。しかしそうしたやり方はもう無理で、全店一律主義をまず変えることが必要だと思います。

<新しいコンビニのあり方検討会>
新しいコンビニのあり方検討会

――わかりました。では、本部はどのような改革を進めるべきか、お話下さい。

根本 とりあえず3つ申し上げます。
第1は、加盟店主が普通に働いて必要な収入を確保できるようにすること。結局はそういうことです。常識的な働き方をして、然るべき収入を得られなくなってしまったことが問題で、そこが改善されてゆけば、問題の相当部分が緩和されます。関連することがいろいろあるわけですが、まずこれを申し上げたい。そしてもうやめにしてもよく、そうすれば楽になることも多々あるでしょう。

第2は、本部企業の組織風土を変えることが課題になっているということです。従来売上や利益目標達成のため、上意下達式のかなり厳しい組織運営が行われ、少なくとも部分的には行き過ぎが生ずるようにもなっている。そのために加盟店の状況を吸い上げて、適切な指導をしたり、契約やその運用の仕方を時代に合わせて変えるといったことができなくなっているおそれがある。加盟店は、店舗指導員に窮状を訴えても、指導員にはどうすることもできないし、指導員は実質的にたくさんの発注を求める営業マンでしかないといった声が相当数上がっています。

ここのところよい変化が少しずつ見られるようになったとするオーナーもいるのですが、本部企業の人たちは、経産省のホームページで公開されているオーナーヒアリングを読み込んで、自らの組織運営のあり方を見直すべきだと思います。ここのところをしっかりやらずに加盟店支援策を重ねていっても、それが加盟店の実態や希望とずれてしまうおそれがある。コンビニ問題は、本部が自ら変わらなければならない問題だと考えることも必要でしょう。

第3は、本部企業は、加盟店の経営の自由度を高め、利益を増やす方向での改革を積極的に行えるよう、新たな原資を生み出してほしいということです。大手の本部企業は、いずれも株式公開企業ですから、加盟店の支援のためであったとしても、単純に自らの利益を削るだけだと、株価が下がり、企業価値が下がってしまう。それでは積極的な加盟店支援はなかなか大きく進まない。

改革を進めるためには、もう始まっているとは思うのですが、まず自らのコストを徹底して削減してその原資の一部を生み出すこと。それに加えて店舗、本部双方にメリットのある改革の手を打つこと、そして新たな収益を生み出していくことなどが不可欠だと思います。原資確保に見通しが立てば、その分活発に加盟店支援ができるはずですから、ぜひそうしてほしいと思います。

――加盟店には株主を重視しすぎだという意見もあるようですが、いかがでしょう。

根本 確かに株主からの影響が強く、そこへの配当がやや厚くなりすぎているようなケースも見られたように思います。ステークホルダーとして株主を過度に重視すれば、加盟店に配分できる分はどうしても少なくなります。

ただ、これも強権をもってやめさせるべきだとするような問題ではなく、加盟店支援を怠ると、チェーン間の競争上、劣位になって、将来きつくなるといった長期視点の競争問題だといった見方もしておきたいと思います。情報がどんどん流れるこの時代、もう今のままでは、加盟店主のなり手がなくなる。株主としても短期のリターンを求めすぎると、長期のリターンが減少するということで、自己規律が働くといいと思います。

そして、こうした資本主義のルールを利用してゆくという視点では、加盟店主は、労働組合をモデルとする団体を作って本部に団体交渉を求めるという方法のほかに、株主になり、一定の株式数を背景にプロの店舗経営者でもある株主の集団として本部と交渉し、これを動かすといった戦略も考えていいことになります。言うは易い思いつきにとどまりますが、次代のコンビニの新たなガバナンス・モデルができてこないかとも思っています。

■略歴
1978年:一橋大学社会学部卒業
1982年:早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了
1986年:流通経済研究所勤務、研究調査部主席研究員
1998年~2018年:拓殖大学助教授、教授
2006年:流通経済研究所理事(現任)
2018年:拓殖大学名誉教授

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