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流通最前線/トップインタビュー「相木社長が描くベイシアの新戦略」

2023年06月02日 10:00 / 流通最前線トップインタビュー

流通最前線トップインタビュー、売上高目標1兆円のポテンシャル「相木社長が描くベイシアの新戦略」

今年、創業65周年となったベイシア。2022年7月には、ベイシア初の社外から、社長として相木孝仁氏を迎えて、さまざまな改革を進めている。「どんな事業も現場視点が重要」と語る相木社長は、商品をとがらせ、店舗オペレーションを磨き、それらをつくる人を育てる、という3つの方針を掲げている。今回、日本で一番「ありがとう」と言われるスーパーを目指すベイシアの新戦略について、相木社長に語ってもらった。

社会的なインパクトが小売業の魅力、どんな事業も現場視点が重要

――NTT、ツタヤ、楽天、鎌倉新書など、多彩なキャリアをお持ちですが、なぜ小売業をやろうと思われたのですか。

相木 小売業は面白いと思いますし、社会的にインパクトのある事業だと思います。ご縁をいただいてぜひ挑戦してみたいと思いました。どんな事業や業種に携わるにしても、やはりお客様視点、現場視点が一番大事だと思っているので、毎回ゼロから学び直しをしています。今でもそれは継続していますし、店舗も行きますし、お客様とも話します。また、もう一つの側面があって、ビジネスは突き詰めれば、基本は大きく変わらないと思っています。毎回、ゼロから勉強はしますが、最後の最後は同じだろうと考えています。

――ベイシアに入社したきっかけを教えてください。

相木 私は、磨き抜かれて完璧なところには全く興味を持たないんです。むしろ潜在的なポテンシャルがとても高くて、従事している方々が真面目で一生懸命で、でも磨けばもっと伸びるという会社にとても惹かれます。ベイシアはまさにそれなんです。「もっと磨いていける」という気がして、ぜひ挑戦してみたいと思いました。

――現在、ベイシアで取り組んでいる施策の方向性を教えてください。

相木 とてもシンプルに表現すると、「商品をとがらせましょう」、「店舗オペレーションを徹底的に磨きましょう」、「それらをつくる人を育てます」。この3つを実施したら、ベイシアは日本で一番「ありがとう」と言われるスーパーになれる。さらにはツールとしてデジタルも使う。デジタルでも日本一優れた小売業になろうということです。

その先には、単一企業だけでなくベイシアグループとの連携ももちろん、大型のスーパーセンターのような業態では、他企業と組んでいく。自分たちでやるところはやるけれども、モールの中には、どんどん他社に入ってもらう。

だから、他企業とのコラボレーションはどんどんやっていく。恐らくこの先、スーパーはますます合従連衡が起こるので、5000億円、1兆円を本気で目指す、スケールは大事だというストーリーです。

<群馬県前橋市のベイシア本社>
群馬県前橋市のベイシア本社

――過去10年間、売上高が2800億円程度からあまり伸びていません。その要因は?

相木 あまり、昔のことは気にしていません。直近4年ほどは、出店していなかったので売上は大きくは伸びません。5年以上前はスーパーセンターを多く出店した後の反動があったり出退店を繰り返していたりなど、様々な理由があると思います。過去の要因を分析してもあまり未来にはつながらないので、考え過ぎないようにしています。

みんなが頑張ってくれたからここまでのビジネスになった。ここまでのビジネスになる企業って何万分の1だと思うんです。これまでの資産に感謝しながらも、今の時代に照らし合わせると直したほうがいいこともあるので、それは考えていこうと社内で話しています。

他企業とのコラボレーションも含めて衣食住フルラインで提供

――5000億円、1兆円を目指すにあたり衣食住フルラインの商品展開は維持しますか?

相木 主力業態であるスーパーセンターの食品と非食品の売上構成比でいうと、大きいのは食品です。販売効率は食品の方が良く、それはどの企業も同じだと思います。しかし、当社はそもそも買い物ができる場所が少ないエリアに出店しているので、こうした立地ではワンストップショッピングのニーズはあると考えています。

「肌着を買いたい」「子どもの上履きを買いたい」というニーズは当然あり、お客様が必要としてくれている以上は販売効率の良し悪しで商品を扱わないというのは避けたいと思っています。

ただ、販売効率を上げる必要があるのは事実なのでその施策はしっかり考えています。例えば改装時に100円ショップやドラッグストアにテナントとして出店いただいたりしています。

自分たちで全部やる必要はなく、大事なのはスーパーセンターの空間を、どんなお客様も来店したいと思っていただける空間にすることです。自営でできればそれでもいいですが、衣食住を全部ゼロからやるのはとても大変なことです。だからこそ、売場面積を少し絞る分、テナントさんに入っていただきながら我々は販売効率、さらには売上を上げるような改装をし、現状うまくいっています。

――イトーヨーカ堂は衣料品から撤退しますが、ベイシアは衣料品を継続するんですね。

相木 むしろ衣料品は強化しています。外部から人材を採用し、衣料品を再構築しているところです。今年の秋冬シーズン頃から、変化を感じていただけると思います。衣料品をフルラインナップで展開することに難しさはありますが、メリハリをつけながら我々なりの衣料品売場は続けていきます。切り口については変わった軸を考えているところです。

<独自の切り口で展開するベイシアの衣料品売場>
独自の切り口で展開するベイシアの衣料品売場

――ワンストップショッピングを直営売場とテナントの両方を活用して提供するんですね。

相木 それも勉強だと思っています。例えばドラッグストアに出店いただくのも、ドラッグのプロに医薬品を学びながら自社の売場を鍛えているんです。他社の良いところを取り入れながら鍛えています。

洋服の場合は、アパレルに長けた経験者に入社していただきつつ、テナントとして様々な企業に出店してもらっています。その理由として、先進的な企業が出店することにより場の活性化をして来客数を増やすことが一つです。また、そうした企業のオペレーションをしっかり勉強しようという理由もあります。

――住居用品はどう考えていますか。100円ショップと被る部分が多いと思いますが?

相木 重なっているところも確かにあります。住居用品は範囲が広いので、商品の絞り込みをしなければいけないと思います。プライス縛りで考える軸とそれ以外の軸の両軸で考えています。さらに住関連ですから、ライフスタイルの世界観のようなものはを少しつくりたいと思っています。カインズが上手にやっていますね。

――商品開発では、専門店には専門家が多く、有利です。人材に課題はありますか。

相木 大手アパレル経験者も中途入社し「お客様と直接向き合って商品を作るなんて、こんなに良いチャンスはない」といった話もしており、非常に前向きなんです。「まだまだできる」と熱い気持ちを持った方たちが入社しているので、人材的な課題はないと思っています。

――食品売場でも他社とのコラボレーションはあるんですか。

相木 これまでは非食品中心でしたが、現在は鮮魚でもコラボレーションをしています。新座店(埼玉県新座市)では、吉川水産様に入っていただきました。「鮮魚のプロからしっかり勉強しよう」ということです。

視察して店舗を見るだけではわからず、テナントとして店舗の中に入っていただき、作業場から全部見させていただく。吉川水産様にもしっかりと説明し「勉強もさせてください」と伝えています。自営の魚売場も鍛えているんです。

出店は、小型フォーマットも検討、群馬・埼玉・千葉を重視

――出店戦略でスーパーセンターは、主力フォーマットでありつづけますか?

相木 「いろいろやっていきます」というのが現状の答えです。スーパーセンターが出店できるところはまだたくさんあると思います。人口が多いところへ出店をする一方で、当社には「地域格差を解消する」というミッションがあるので、現在出店している地域は人口が少なくても継続します。

これまでの傾向を見ると、集客力という点では当社は大型の店舗形態のほうが得意です。一方、小型フォーマットも注力しないといけない。スーパーセンターだけにこだわらず、小型フォーマットも出店していきます。

<ベイシアの主力業態スーパーセンター>
ベイシアの主力業態スーパーセンター

――出店における社長の役割を教えてください。

相木 私自身も開発・出店について時間を使っています。大中小様々なパターンを考えています。基本の基はやはり当社が強いエリアです。主には群馬、埼玉、千葉ですが、まだ出店できていない地域があるので、それらの周辺地域ももちろん考えています。

また、出店した場所は伸ばしていきたいと思っているので、一つの県に1店か2店しかない地域は、補強したいと考えています。東海エリアももっと強化したいと思っています。そう考えると出店する地域はたくさんあります。

出店の方法も更地や居抜きもあると思いますし、ショッピングセンターへの出店もいいと思っています。当社もとがりながら早期に売上高で5000億円、1兆円企業へと成長したいと思っていますが、出店は時間がかかります。だからこそ意思決定は急がないとと考えています。

――複数フォーマットを展開する難しさはなんですか。

相木 複数フォーマットを持っていても、複雑性を増さずむしろ減らしていく努力は続けなければならないと考えています。例えば、いまは棚割のパターンが複数あります。フォーマットを3つから1つに絞るというよりも、棚割のパターンが数十個存在するのを10個にするということを考える必要があります。

当社には「商の工業化推進本部」という部署があり、効率が上がるように考えて仕組みづくりを行っています。その部署にデジタルチームや物流チームも加わったりして、裏側の仕組みを最適化しようと努力しています。

発注を含めてインフラの標準化を進めようとしています。しかし、デジタルをやっていると言っても、デジタルで完璧にやれているものはありません。いろんな粗が出て直しながら進んでいます。

<ベイシアの食品売場>
ベイシアの食品売場

ネットスーパーで買い物の代替手段を提供

――ネットスーパーの取り組みについて教えてください。

相木 現在、「楽天全国スーパー」さんの仕組みを活用して、ネットスーパーに取り組んでいます。

楽天さんがネットスーパーの受注のプラットフォームを担っています。受注した商品は店舗で集荷して発送する店舗出荷型のネットスーパーを展開しています。

――ベイシアのネットスーパーの収益化はできていますか。

相木 現状利益は出ていませんがそこがポイントだとは思っていません。ネットスーパーは、お客様に商品を届けなければいけません。店舗では、お客様が袋詰めしますが、ネットスーパーでは袋詰めも当社が行います。

例えば、惣菜やお肉など店頭には朝から商品があっても、ネットスーパーの画面には在庫が表示されないとか。欠品した場合、代替品を入れるかどうかを確認するとか。ネットスーパー特有のオペレーションがあり、そうした部分をネットスーパーチームが担ってくれています。

――ネットスーパーの位置付けは、どういうふうに捉えられていますか。

相木 基本的には、新規顧客の獲得ではなく、既存のお客様の買い物の代替手段だと考えています。現在、車で来店されているお客様が、今後運転できなくなるようなシチュエーションもあると思います。ご年配で運転が難しい、介護がある、お子さんがいらっしゃるなど、様々なニーズがあると思っています。

ネットスーパーは、1回使うと便利さに気づいていただけるのではないかと思います。「やっぱりあったら便利だよね」と。将来的にはあって当たり前のサービスになるだろうなと思います。

<さまざまな施策を語った相木社長>
さまざまな施策を語った相木社長

■相木孝仁(あいき たかひと)氏の略歴
1972年1月:生まれ(北海道出身)
1994年4月:日本電信電話株式会社(現NTT)入社
1999年5月:米国コーネル大学 MBA取得
1999年8月:ベイン・アンド・カンパニー社(2004年8月~再入社)
2002年12月:ツタヤオンライン
2007年11月:楽天入社
・フュージョン・コミュニケーションズ(現楽天コミュニケーションズ)代表取締役社長
・常務執行役員(13年2月~)
・RAKUTEN KOBO, INC CEO
・デジタルコンテンツカンパニー プレジデント
・楽天ヨーロッパ CEO
2017年9月:鎌倉新書 代表取締役社長
2019年11月:パイオニア 取締役常務執行役員兼インクリメント・ピー代表取締役社長
2022年1月:ベイシア 取締役副社長
2022年7月4日:同社代表取締役社長

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