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ソフトバンク×Agoop/人流データ可視化し集客アップ支援

2023年06月05日 15:00 / 流通最前線テクノロジーズ

ソフトバンク×Agoop/人流データ可視化し集客アップ支援

小売業界では、効果的なマーケティング施策をいかに行うかが長年の課題となっている。そんな中、ソフトバンクの子会社でビッグデータ事業を手掛けるAgoop(アグープ)は、携帯キャリアを問わずユーザーの位置情報を取得できる技術を生かした人流マーケティングツール「マチレポ」を開発した。地図上で指定範囲内の人流データをグラフにして可視化するほか、アプリの位置情報を活用してユーザーの年代や性別など属性情報も把握できるようシステムでマーケティングを支援する。さらにソフトバンクのグループ力を生かしたリテール向けDXを各種組み合わせることで、人流データを用いた店舗開発からその後の販促活動まで一気通貫型のソリューションラインアップが完成した。今回、人流の流れをつかみ、販促の進歩を促すAgoopとソフトバンク両社の取り組みについて取材した。

自店・競合店を分析する2社の協業

携帯キャリアであるソフトバンクが、なぜ、マーケティング施策に有効なソリューションを提供するようになったのだろうか。この疑問について、同社 法人事業統括 法人プロダクト&事業戦略本部 デジタルオートメーション事業第2統括部 新事業ソリューション部 データソリューション企画推進課の君野 健太氏に聞いた。

<ソフトバンクの君野氏>
ソフトバンクの君野氏

「ソフトバンクは何十万社というクライアントに対して、ネットワークや店舗に置くモバイル機器などの提案もしますが、最近では新規事業や経営企画といった部門の方から、店舗戦略についての相談も頂くようになりました。そこでわれわれの持っているモバイルやクラウド、AIのソリューションに加えて、ビッグデータも掛け合わせたDXソリューションを提供しています。グループ会社の持っているAIとビッグデータを組み合わせて、クライアントとともに人流データの可視化によって売上予測を立て、この地域にお店を出せばどのくらいの期間で投資回収ができるだろう、といった売上予測にもトライしています。もう携帯電話だけの会社ではないというイメージを、ぜひ皆さんに持ってもらえれば」と経緯を語る。

<小売業界のDX化を推進するソフトバンク>
小売業界のDX化を推進するソフトバンク

ソフトバンクは今春、ある展示会のブースで、小売業界の人手不足解決や店舗オペレーションなどに活用できる各種DXソリューションを発表。グループ各社や各部門とのシナジーで「店舗開発から日々のオペレーションまでを一気通貫で提案する」ビジョンを掲げた。このうち、商圏分析や競合店分析・店舗開発に役立つ人流マーケティングツール「マチレポ」のサービスを提供したのがAgoopだ。

Agoopは、ソフトバンクの携帯基地局を建設するとき、どこに建てるべきかを検討する際に携帯の接続率を解析してきたエンジニアやサイエンティストの部隊が母体となり分社化して発足したソフトバンクの100%子会社。グループ会社ではあるが、独立した別会社として、小売や自治体などに向けて人流データをカスタマイズして提供しているほか、歩数計機能を搭載したアプリ「アルコイン」の開発なども行っている。

人流マーケティングツール「マチレポ」は、2022年4月6日にリリースされた。自店のみならず、競合店があるエリアへの来訪者数や属性、ピークタイム、商圏範囲、滞在時間別比率などを分析できるサービスとなる。わずか数クリックで簡単に結果が出力できる操作性と、人流をグラフィカルに把握できる分かりやすさが特徴だ。2021年以降の人流データを把握でき、最新の統計データのみならず、過去のデータも取得できるため、既存店分析にも使えるという。

人流データの分析を行う際、各事業者が提供する既存のアプリでは、自社店舗に来店した顧客について、いつ来店したかを知ることはできたが、その顧客が競合店にも足を運んでいるかまでは分からなかった。「マチレポ」は、自店のみならず、競合店を含めて来店動向を分析できる新たなツールとして期待されている。

現在、Agoopが位置情報を活用したビッグデータの収集を実施し、その位置情報の具体的な活用方法については、ソフトバンクが各クライアントに対してコンサルティングを行っている。

通信キャリア問わず安全に分析する仕組みとは

位置情報の取得方法はさまざまだ。例えば、各通信キャリアの基地局情報から位置情報を取得する手段があるが、この場合だと取得できるデータの対象者が特定キャリアの利用者のみとなってしまう。一方、Agoopが扱っている人流データは、スマートフォンに入っているアプリの位置情報を活用している。そのため、通信キャリアを問わず、位置情報を使用する国内のスマートフォンアプリから⾼精度な位置情報データを取得でき、アプリに入力されたアンケートの記録や利用者情報によって性別・年代といった属性まで把握できるという。

いわゆるポイ活アプリなどを例に挙げると、ユーザーが利用する前にアプリ上での位置情報の取得と、OS上での位置情報の取得に同意するかの2点をユーザーに確認している。これらのアプリは、オプトイン方式でユーザーから事前に情報提供の同意を得て運用されるもので、Agoopと提携していても無断で個人情報を取得することはない。もちろん同社のプライバシーポリシーは弁護⼠によってチェック済みである。その安全性についても君野氏に聞いた。

<Agoopが持つ流動人口データ>
Agoopが持つ流動人口データ

「人流の統計データを取得するにあたり、アンケートを何百、何千万人からとって、年齢や生活を確認するなんて無理ですよね。現在、Agoopは100以上の国内アプリと提携しており、その中の一部データを使ってマチレポを提供しています。プライバシーの保護は徹底し、取得した位置情報は、統計データとして加⼯・秘匿化処理が行われており、マチレポを購入・利用しても個人情報まではトラッキングできないため安全です。複数ある携帯キャリアのうち、ソフトバンクだけの人流データを取得しているのかとよく聞かれるのですが、Agoopが提携しているアプリケーションがあればソフトバンク以外でも垣根無しに位置情報が統計化されています」と仕組みを解説する。

店舗・観光地の分析で「マチレポ」活用進む

マチレポは現在、小売業やショッピングモールなどの施設での導入が多いという。主な活用事例について、Agoop事業推進本部 営業企画部 部長の浜野 和也氏が説明してくれた。

<Agoopの浜野氏>
Agoopの浜野氏

「新規出店時の商圏分析や、既存店分析、商品開発などで活用例があります。最新の人流データを活用することで、地域に居住している人でなく、そこに訪れている人のデータも把握できるので、店舗の売上予測を立てるときの精度を上げることができます。商業施設の場合は、既存店分析に近い使い方となり、客層に合わせてどのテナントを誘致するべきかを考えるためのデータとして使われています」と語る。

もともとはクライアントごとに人流データをカスタマイズして、ツールを作っていたが、多くのクライアントから同じような要望を受けたという。これに応じて人流データをパッケージ化して、より手軽に提供できるコンセプトでマチレポを開発した。

浜野氏は、「サービスを開始して約1年経ちましたが、基本的には店舗を持つクライアントや、自治体の観光部門、BtoCでサービス提供されているメーカーなどに、店舗や観光地の分析に使っていただいています。マチレポをリリースして以降、もっとこういった事もできないかといったクライアントからの相談も増えています」と現況を説明する。

<マチレポのマップ画面>
マチレポのマップ画面

マチレポの操作はいたってシンプルだ。いわゆる地図アプリのようなインターフェースで、マップに表示される灰色のマスが50メートルメッシュに区分けされており、これをマウスでクリックして人流データを取得するエリアを指定する。出力された結果をデータは自動的にグラフ化して表示され、日別・月別・滞在時間別の「来訪者数推移」や、「性別・年代別比率」といった計18項目に分かれて表示される。

実際に、マチレポを使った分析方法について、「2022年12月の東京駅周辺の人流データを分析すると、イルミネーションイベントで賑わいを見せていた南側に人が集中していることが分かります。さらに、曜日別に人流を比較することも可能なため、ビジネス利用のみのビルや土日に賑わう商業型ビルを比較すると、隣接して近い距離でも集客数などのデータが大きく変わります。どんな業種のテナントが、どのビルに入るべきかなどを考慮するときに、各ビルの特性をマチレポで把握していただけると一つの判断軸になります」と浜野氏は語った。

これまでは実際に現地調査をする必要があった、あるいは調査をしても分からなかったことが、人流データを使うことで判明する。加えて、市区町村の人口に対して、自店がどれぐらいシェアを取れているのかも、グラフで確認できる。例えば、ある特定の指定エリア内に1000人来ている場合、その1000人が多いのか少ないのか、母数が分からないと規模感を把握できない。市区町村のエリア人口1万人のうち1000人なのか、2000人のうち1000人なのか、そういったところを理解できるように「対居住者比率」も表示できる。

浜野氏は「Agoopの人流データの一番大きな特徴は、競合のデータが見られるということ。複数のエリアをマチレポ上で選択して競合の店舗を登録すれば、自分の店舗と同じ指標で並べて見ることができます。競合の影響度を把握したり、自分たちが出店・改装した前後の変化を時期別に見ていくことで、効果測定もできるイメージです」と活用事例を紹介した。

これまでは、新規出店時に「商圏分析ツール」、日々の販売促進に「紙のチラシやアプリ」を活用するなど、異なったツールが必要になる場面が多かった。しかも、把握できるのは、自店の来店客の動向のみである。「マチレポ」を活用することで、競合店を含めた人流を顧客属性ごと把握するできるため、商圏分析、日々の販促、店舗改装といったさまざまな場面で、データを活用することが可能となった。

<事業の未来を語った浜野・君野両氏>
事業の未来を語った浜野・君野両氏

ビッグデータ事業の今後について、Agoopの浜野氏は「もっと使いやすく分かりやすいデータを、世の中に供給していきたいです。マチレポでも『対居住者比率マップ』など、クライアントからの要望を受けて先日アップデートしたばかりです。必要とされるものを随時、可視化していけたら、よりよいサービスが提供できると思います」と意気込みを語る。

また、ソフトバンクの君野氏は「各種ソリューションを提案する際に、ソフトバンクがグループ企業も含めて幅広い領域を支援できることを、いかにクライアントに認識していただくかが今後の課題です。ソフトバンクのグループには、ヤフー、LINE、PayPayといった消費者に密着したサービスを提供する会社があり、将来的にグループ各社のソリューションを踏まえた、より有効な提案ができる可能性があります」と将来の展望を明かした。

■プロフィール
Agoop
事業推進本部
営業企画部
部長
浜野 和也氏

2013年、ソフトバンクBB(現ソフトバンク)に入社。法人向けパートナー営業、法人向けソリューション営業を経て、2021年よりAgoopにて人流データの外部販売を推進。現在、人流データを活用した出店戦略や国・自治体の観光・交通・防災施策立案など多数支援、外販事業の責任者を務める。

ソフトバンク
法人事業統括
法人プロダクト&事業戦略本部
デジタルオートメーション事業第2統括部
新事業ソリューション部
データソリューション企画推進課
君野 健太氏

2012年、ソフトバンクテレコム(現ソフトバンク)に入社。法人営業やネットワーク構築プロジェクトを経て、2016年から法人向けIoT事業領域の立ち上げを推進。現在は、通信キャリアならではの強みを生かして、社会や企業の課題を解決するために人流データに関する事業戦略やプロダクト開発を担当する。

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