「グローバルワーク」「ニコアンド」「ローリーズファーム」などを展開するアダストリアが9月1日付で商号を「アンドエスティHD」に変更し、持株会社体制に移行した。今期(2026年2月期)から5カ年の「中期経営計画2030」では、連結売上高4000億円、所有するECモール「and ST(アンドエスティ)」の流通総額1000億円を目標に掲げる。リアル店舗とECモールを両輪に拡大を図る同社。木村治社長に中計の進捗状況や今後の成長戦略などについて聞いた。
リアル店舗を強みにSPAからプラットフォーマーへ
──持株会社体制への移行にあたり、商号を「アンドエスティHD」としました。グループ企業の「アンドエスティ」を中核に据えて今後グループを運営していくという意味でしょうか
中計で発表しているとおり、ホールディングスを運営する上で事業の柱として3つを掲げています。1つ目がプラットフォーム事業、2つ目がグレーターチャイナや東南アジアに注力するグローバル事業、3つ目がアダストリアやエレメントルール、BUZZWIT(バズウィット)、ゼットンなどのブランドリテール事業です。アダストリアではなく、アンドエスティHDとしたのは、その中でもアンドエスティ社が担うプラットフォーム事業をグループの中核にしていくという決意の表れです。
──中計では、SPAからプラットフォーマーへの進化を掲げています。その狙いについて教えてください
我々は小売りをずっとやってきましたが、ECモールの「and ST」がかなり成長してきました。そうした中で、マルチブランドでブランド数もたくさんありますが、自社だけではなく他社も巻き込んで新しいプラットフォーマーになっていこうという狙いがあります。
もちろんアマゾンや楽天、ZOZO(ゾゾ)など超強力なECモールがありますが、我々はリアル(店舗)を持っているのが強みです。そこで他社とも強みを共有できるのではないかと考え、オープン化を進めてECモールの「and ST」への出店ブランドを増やしています。
──中計ではオープン化によって外販比率を前期末の3%から5年後には40%まで拡大する方針です
直近では10%近くまで増えています。オープン化を進めて他社ブランドにどんどん参加してもらっています。アパレルだけではなくてコスメや雑貨などライフスタイル系のブランドも「and ST」に出店していただいており、外販比率は予定通りに上がっています。
──5月末時点で外部から33ショップが出店しています。出店する外部ブランド側からすると、「and ST」の集客力や販売力が魅力になるのでしょうか
競合にもなり得る当社のECモールにはなかなか参加してもらえないとは思いますが、私が直接先方の社長とお会いし、出店依頼をしています。同じリアルを持っているもの同士として、リアルとECでセール時期を合わせたいなど、共通した思いがあります。そういった点から「and ST」を評価してもらっています。
──プラットフォーム化で今後外部ブランドの出店がどんどん増えていくと、ファッションECではZOZOなどが競合となって戦うことになりそうですが
取材で皆さんによくそのような方向で聞かれるのですが、我々は「戦う」といった意識は持っていません。なぜかと言うとZOZOとはかなりの量の取引があり、我々としては重要な取引先です。ですから、「競合」ではなく「共存」の関係だと思っています。
ECモール「and ST」のリアル拠点は順調な滑り出し
──ECモール「and ST」のリアル拠点として4月24日に東京・原宿駅前に「and ST TOKYO(アンドエスティ トーキョー)」がオープンしました。年間の来店客数100万人が目標ですが、オープンしてからこれまでの状況は
売上も計画通りですし、お客様の来店数も目標を上回るペースで進捗しています。「アンドエスティ トーキョー」はメディアストアとしてIPコラボもどんどん仕掛けています。イベントによっては多くの集客につながっています。
toCだけでなく、toBの面では企業同士のコラボでさまざまなことが可能になります。今年1年間はまずいろいろなコラボや企画を進めてデータを貯め、来期に向けてどういった攻め方をするかをまた考えていこうと思っています。
──toBという意味では、「アンドエスティ トーキョー」で一緒にコラボしたことでECモール「and ST」に出店するといったこともあるのでしょうか
それはすごくありますね。「アンドエスティ トーキョー」でのコラボレーションというのが結果的に新しいビジネスにつながっていると感じています。
──それ以外に「アンドエスティ トーキョー」ができたことでECモールの「and ST」との相乗効果はありますか
店舗でのコラボ企画などはECでも新しいお客様の集客につながっています。例えば先日も「Mrs. GREEN APPLE」とのコラボでフェス用のサングラスを「アンドエスティ トーキョー」とECモール「and ST」の両方で販売しました。ECはすぐに完売し、店頭では特設コーナーを設置したことでご来店いただいたお客様に楽しんでいただきました。そうしたリアルとECとの掛け合わせは、原宿という立地ではすごく大きいと思いましたね。
──立地という面では、インバウンドの方も多く来店されるのでしょうか
増えてきています。インバウンドの方にとって「and ST」の知名度はそれほどないかもしれませんが、いろいろなコンテンツとコラボを行うことで集客につながっています。その意味では、あの店が世界に発信していく最前線基地になっています。
──今後、同様の形態の店舗を出す計画はありますか
今のところはまだ考えていません。すでに「アンドエスティストア」は複数店舗出していますから、その旗艦店のようなものを大阪なのか、あるいは海外なのか、どこかに出すということは考えたいとは思っています。
──今おっしゃった既存の「アンドエスティストア」は、全国に20店舗以上ありますが、あちらはマルチブランドで商品を展開している店舗ですね
そうです。今後例えば原宿の「アンドエスティ トーキョー」で企画した商品の中で、うまくいった物に関しては、「アンドエスティストア」に広げていくといったことも考えられます。
オープン化が休眠顧客の掘り起こしや購入回数増加に寄与
──会員については前期末時点で1970万人で、今第1四半期(4~6月)が終わった段階で2000万人を突破しました。会員獲得はどのように進めていますか
会員獲得は各店舗で取り組んでいます。これは以前から同じです。全国にある1500以上の店舗で、毎日のようにスタッフが会員の獲得をしてくれているのは、我々にとって大きな力になっています。
──中計では5年後には2600万人の会員を目指しています。そのうちアクティブ会員数は1100万人が目標で、6月末時点で760万人です
今のところ計画通りに進んでいます。オープン化によって他社が「and ST」に出店してくれることで、休眠会員の購入にもつながっています。今までになかったお店が加わることで、「もう一度買ってみよう」というお客様がすごく増えています。
──商品の幅が広がって新たなニーズが開拓できているのですね。中計では一人あたりの年間平均購入回数を前期末の3.0回から4.5回に増やすということも掲げています
我々のブランドだけでは正直そこまで上げるのは難しいでしょう。しかしオープン化で雑貨や食料品、化粧品といったカテゴリーもどんどん増えています。そうした商品カテゴリーの拡充が購入回数の増加にもつながっていくのではないかと考えています。
──従業員によるスタイル投稿サービス「STAFF BOARD(スタッフボード)」では、およそ4400人が登録して投稿しています、サービスの経由売上も非常に伸びています
これは我々としても一番の強みのツールだと思っています。オープン化で参加している他社ブランドの商品についても当社のメンバーが投稿しているので、他社からしても魅力的だと思います。
──従業員は自発的に参加して投稿しているのでしょうか
全地区でそうです。こちらから強制はしていません。もちろんスタッフには経由売上に応じたインセンディブがあります。
出店戦略は国内では都市部、海外では東南アジアに積極展開
──出店戦略についてもお聞きしたいのですが、国内では都市部をメインに出店していく方針ですね
もともと郊外は結構強くて、各ブランドがすでに出店しています。一方、都市部にまだまだ出店の余地があると見ています。それと国内はこれからますます少子高齢化が進んでいきますので、これから郊外に出店しても売上は伸びにくいでしょう。人が集まっている都市部であればまだまだ攻められると思っています。
──今後国内では都市部中心に増やしていくと?
基本的には出せるのであればどんどん出店していきたいとは思っています。ただ、店舗数がいっぱいあるから強いという時代でもないので、出店をしていきながらも1店舗ずつのトップラインを上げていくのが重要だと思っています。
──海外では、グローバル事業で前期末の176億円から5年後には400億円の売上が目標です。どのように拡大していく方針ですか
海外では東南アジアに投資を集中していきます。基本的にリアルを出してからその後にECも開設していくという形になると思います。
──海外では台湾が非常に順調で、5月末時点で90 店舗出店しており、自社ECも運営しています
台湾は海外における成功事例です。各国に横展開したいと思っています。海外では地域ごとにファッションECモールがそれぞれあり、統一したものを作るのが難しい。そのため地域ごとに出店とECをやっていく形になるのではないかと思っています。
──なるほど。アメリカについては3月に撤退を発表していますが、どのあたりが難しかったのでしょうか
アメリカでは卸がメインでしたが、やはりマーケットが冷え込んでいるということは感じました。国際貿易の緊張の高まりなどを考慮すると早期の業績回復が困難だと判断し、リソースを東南アジアに集中するため、戦略的に撤退しました。
ファッション市場は縮小も、まだまだシェアを取りに行ける
──最後にファッション業界の今後についてどのように展望していますか
ファッション業界のマーケットはどんどんシュリンクしていくのは間違いないでしょう。日本は少子高齢化なので、しょうがないと思います。とはいえ、まだ8兆円ぐらいの規模があるわけです。その中で我々は現時点で売上高がおよそ3000億円で、中計では4000億円を目指しており、まだまだシェアを取りに行けると思っています。
モノづくりは為替の影響に加え人件費や光熱費などの高騰もあり、基本的にコストが上がっていく中で、利益をどう確保するかがすごく重要です。昔と違って利益を出しにくい状況であるのは間違いないです。そうした中でM&Aの動きが活発ですので、業界再編が少しずつ進んでいくのではないでしょうか。
我々としてはプラットフォーマーに舵を切りましたが、特徴はリアルが強いということです。グループとしてリアルとECを掛け合わせて、新しい時代に向かって行く必要があります。国内のマーケットはシュリンクしていくけども、グローバル視点で我々の強みをどう出していくかがすごく大事になっていくと思っています。
■木村治社長略歴
生年月日:1969年9月2日(茨城県出身)
1990年福田屋洋服店(現アンドエスティHD)に入社。売場スタッフ、店長、エリアマネジャー、本部バイヤーなど小売の現場業務を経験し、2001年に退社後、福岡市にてワークデザインを設立。2007年にドロップ(トリニティアーツの前身)と経営統合。常務取締役営業本部長・開発本部長を経て、2011年トリニティアーツの代表取締役社長に就任。2013年アダストリアグループ(現アンドエスティHDグループ)に参画、取締役に就任。2018年副社長、2021年社長、2022年代表取締役社長を経て、2025年9月より現職。
取材・執筆 比木暁
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