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ファミリーマート/足立CMOが語る「既存店売上19カ月連続前年超え」の舞台裏

2023年04月28日 11:00 / 流通最前線トレンド&マーケティング

流通最前線 トレンド&マーケティング ファミリーマート/足立CMOが語る「既存店売上19カ月連続前年超え」の舞台裏

ファミリーマートの業績が好調だ。2021年9月から2023年3月まで、既存店売上高は19カ月連続で前年を超えた。2023年2月期の全店平均日商は53万4000円で、前年同期に比べて2万3000円増加し、過去最高を記録した。コロナ禍による人流の激減など、厳しい市場環境の中、何故、ファミリーマートは業績を伸ばし続けているのか。ファミリーマートの足立光エグゼクティブ・ディレクターチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)兼マーケティング本部長 に聞いた。

競合他社に負けない「美味しさ」伝え方に改善点

――ファミリーマートのマーケティング上の課題を教えてください。

足立 マーケティングの課題は明確ですね。1つ目は、競合に対して、おいしさとかSDGsなどのイメージで、圧倒的に差がついていることですね。2つ目はその結果として、日本の人口の多くを占めるシニアのお客様が、我々は比較的少ないという問題があります。シニアのお客様は、今後は間違いなく増えていくんですけどね。3つ目は、ファミリーマートはSNSでは存在感がありますが、ネット上の購買という面では、ほぼ存在感がありません。今後、間違いなくネットでの売上は伸びていきますが、ファミリーマートの商品は、ネットでは買えません。そういう意味では、今の3つは、比較的対応しなくてはならない課題だと思っています。

やっぱり、イメージで負けてるって大きいです。おいしさという点では、ほとんどの人はトップ・チェーンが圧倒的においしいイメージを持っているんだと思います。ですが、実は、(ファミリーマートの商品も)みんな美味しいんです。これまでの会見でも報告しましたが、ブラインド・テストで召し上がっていただくと、(調査では)トップチェーンとファミリーマートではほぼ変わりません。ところが、「どこが、美味しいというイメージがありますか」って聞くと、圧倒的に差があるのが現実です。

長年の歴史があるので、イメージを変えるのは簡単ではないんですが、嗜好品、食べ物に関しては、間違いなくイメージが重要です。なので、負けているイメージを少しでも、追いつき、追い越していこうとしています。そうすると結果的に、我々に少なかったシニア層や女性のお客様を少しずつ増やしていくことになります。それと、ネット上でも、ちゃんとファミリーマートの存在感を作るということも大切です。

――2022年のマーケティング施策は、どんなことに注力しましたか。

足立 2022年度はお客様に持っていただきたいイメージとして、ファミリーマートの40周年(2021年)で掲げた5つのキーワード、「もっと美味しく」「たのしいおトク」「『あなた』のうれしい」「食の安全・安心、地球にもやさしい」「わくわく働けるお店」を継続し、全てのメディアを連動させて、尖ったコミュニケーションで話題化を意識してキャンペーンを行ってきました。

具体的には、「もっと美味しく」の取り組みとして、パン、フライヤー、スイーツなどの定番商品を中心に、おいしさをお伝えするようなキャンペーンを行いました。1周年を迎えたPB「ファミマル」も、リニューアルや追加商品の投入などをしました。

「たのしいおトク」の取り組みとしては、今やファミリーマートの定番となった「1個買うと1個もらえる」企画や「お値段そのまま40%増量作戦」、それから「ブラックフライデー」に合わせたユニークなキャンペーン、各種の割引施策などにより、ファミリーマートが常にちょっとお得であるということをお伝えしてきました。

「『あなた』のうれしい」の取り組みでは、いろいろなメーカーさんとのコラボや、季節の旬な具材を楽しめるようなキャンペーンを行ったり、色々なキャラクターやコンテンツと組むことで、ファンの方に「嬉しい!」と言っていただけるような企画をたくさん行ってきました。

2023年、従来手法をさらに「強く、モレなく、広く」

――2023年のマーケティング施策を教えてください。

足立 今年は、基本的にはこれまでのこの戦略を踏襲しながら、さらに「強く、モレなく、広く」という視点で強化します。「強く」では、キャンペーンなどの告知について、昨年からの話題化の手法を随時改善しながら、例えば店内に設置されたデジタルサイネージ「FamilyMartVision」などの新しいメディアも活用することで、より高いキャンペーン認知の獲得を狙います。

「モレなく」では、これまで、ファミリーマート限定の商品やサービスであるにも関わらず、PRやSNSでの訴求しきれなかった取り組みが度々あったことに対応します。2023年度は、商品本部との連携をさらに強化して、ファミリーマート限定の商品やサービスは、可能な限り漏れなくお客様に訴求して、より高い認知を獲得していきます。「広く」では、PRやSNSを駆使して話題化し、高い認知率を獲得していくという手法を他の商材に拡大します。これまで、主に中食を中心に行ってきましたが、2023年度は、この手法を、例えば、土用の丑の日や恵方巻などの予約商材、ファミマプリントなどの各種サービス、そしてSDGsの発信などにも広げます。

――マーケティング施策で注目している社会課題はありますか?

足立 近年の日本の課題の一つとして、「世代間の断絶」があると考えています。親と子、祖父母と孫といった家族間の関係や、職場での上司、部下といった人間関係においても、生まれた背景、時代の違いによる価値観の違いや、近年のメディアの進化・細分化を背景にした触れる情報のそもそもの違いなどに起因して、色々なギャップが生まれ、これが世代間の断絶と呼ばれてきた。

近年のコロナ禍では、色々なコミュニケーションがストップしてしまったため、この断絶がさらに進んだとも言われています。当社は、ファミリーマートという、社名に「ファミリー」が入っている企業として、この世代や家族の断絶、なんとか少しでも解決したいと考えてきました。

――世代間の断絶に対して、どんなアプローチをしたのですか?

足立 実は、ファミリーマートはこの数年、特にパンのカテゴリーについて、この考え方でアプローチしてきました。具体的には、少しでもご家族やお友達とのコミュニケーションになるような、誰でも知っている、または誰でも1度は、食べたことがあるような商品をキャンペーンの軸にしてきました。2021年の春には、誰でもご存知のカレーパンとメロンパンを大きくリニューアルして「ファミマ・ザ・パン」シリーズを開始しました。2022年の春には、皆さんご存知で、いろいろな想いをもたれているクリームパンを「ファミマ・ザ・クリームパン」として発売しました。

2023年は、満を持して、「生コッペパン」を投入しました。皆さんご存知の通り、コッペパンは、日本の学校給食に初めて、登場したパンです。長年にわたって学校で親しまれて、誰もが食べたことのあるパンだと思います。つまり、コッペパンは、どの年代の誰しもが、体験を共有している数少ない事柄の一つだと考えています。そこで、カレーパン、メロンパン、クリームパンに続いて、コッペパンがすべての世代の共通の話題として、世代間のコミュニケーションをつなぐ架け橋になるのではないかと考えました。一方で、コッペパンには、ぱさぱさしたイメージが持たれているかと思いますが、ファミリーマートは、新たに「生」という付加価値を加えた商品開発をしました。

<記者会見での足立CMO>
記者会見での足立CMO

メーカーと流通業で異なるマーケティング手法を駆使

――流通業のマーケティングとメーカーのマーケティングの違いは何ですか?

足立 両者の違いですが、3つぐらいあります。まずは、圧倒的に「手数」が違います。例えば、化粧品メーカーだと基本的に流通の棚替えに合わせて春と秋に新商品の発売がありますよね。でも、我々(コンビニ)は、毎週新商品を出しています。もう手数が圧倒的に違います。だから、「一撃必殺型」の新製品を発売するメーカーさんと違い、何かをやりながら改善していくのが流通のマーケティングだと考えています。

流通では、まずは発売してみて、売れたら、それをさらに拡大したり横展開してやってみることができます。PDCA(サイクル)が早いので、どんどん改善を重ねながら実施できるというのが、大きく違っています。要は、やり方の違いです。ものすごい調査を重ねて、一撃必殺の新製品を作るのがメーカーさんだとすれば、流通のマーケティングは、調査はするんですが「まずはやってみようか?」と、やってみて、その結果を見ながらどんどん改善していくことができるわけです。このあたりが、流通のマーケティングが、メーカーと全然違うと思う点です。

――2つめの違いは何ですか?

足立 2つ目は、流通業は(商品だけではなく)インフラであるという意味で、お客様との接点の数が違います。例えば、シャンプーの場合、お客様の購買サイクルは、3カ月~半年に1回ぐらいじゃないでしょうか?対して流通業の場合、お客様は、ほぼ毎日、コンビニやスーパー、ドラッグストアなど、どこに行くかどうかはともかく、何カ所か行かれます。つまり、流通業は多くのメーカーさんと比べると、お客様の生活の中での密着度、接触頻度が全然、違うんですよ。

そういう意味では、流通業は、ある一定数のお客様は常にいらっしゃって頂ける前提で、いろんな計画を立てなければなりませんし、年間を通してすべての週が重要で、かつターゲット顧客だけではなく、すべてのお客様に対応できなくてはなりません。そこが結構、違います。

――3つめの違いを教えてください。

足立 3つ目は、メディアの使い方の違いです。例えば、メディアという意味では、流通業で一番大きなメディアは、自社の店舗・店頭などの、いわゆるオウンドメディアなんですね。オウンドメディアが、大きなメディアとして成立するのは、簡単に言うと、そこにたくさんのお客様がいらっしゃっているからですね。

一方で、メーカーさんは、店頭というオウンドメディアを持っていません。オウンドというと、ウェブサイトやアプリくらいでしょうか?なので、流通業はオウンド・メディアを中心にマーケティングを企画できますが、メーカーさんはそうではありません。こういった点が、流通業とメーカーさんのマーケティングを考える上での違いです。

<PBファミマル>

――コンビニはプライベートブランド(PB)比率が高い業態です。ナショナルブランド(NB)とPBのマーケティングの違いは何ですか?

足立 NBは、当然NBメーカーさんがマーケティングをされます。一方でPBは、我々がメインでマーケティングを行います。そこが違いです。ただ、PBの場合、商品そのものだけではなく、会社としてのイメージが重要になってきます。NBの場合は、お客様は「この商品を買おう」と思って買われることが多いと思いますが、流通業、コンビニの場合は、何となく行かれる店舗を変える方もいらっしゃいますし、またその店舗にある商品を何となくお買い求めになる方もいらっしゃいます。つまり、お客様の購買における意思決定において、「何となく」という余地がすごく強いのが流通業であり、PBだと考えています。

メーカーさんの場合は、「うちの、これを買ってね」というコミュニケーションを行いますよね。我々も、同じことをやりますが、どちらかというとファミリーマート全体として、どういうイメージ持ってもらうのかが重要です。

例えば、「ファミマルKITCHEN PREMIUM」のハンバーグが、美味しいから来てよって話ではなくて、ファミリーマートが美味しいから、「ファミマル」が美味しいからなんですね。打ち出すものが、必ずしも単品ではない。そこが大きくNBとは違うと思います。

――メーカーは店頭まで自社組織で運営できますが、フランチャイズ組織では本部と店頭で運営組織が異なります。ここに難しさを感じますか?

足立 難しいと思ったことはありません。直販の場合は、より統制が効くといった考え方もありますが。私は、前に美容業界にいたんですが、例えば、100%直営の会社と100%フランチャイズの会社があり、どちらも素晴らしい会社なんです。なので、そこには正解はないと自分は考えています。

直営の方があれこれと、同じようなクオリティに揃えるとかは、あるんですけど、そんなに関係なくて、経営の考え方の違いだと思います。フランチャイズだろうが直営だろうが、現場のメンバーがやる気というか、「これは売れるな」と思ってくれないと動きません。フランチャイズでも皆さん、現場のメンバーは結局、売上とか利益を見ているわけです。本当に皆さんが、「これはいいな」と思ってもらえる商品だと、本当にそれを一生懸命売っていただけるという仕組みであるという意味で、直営でもフランチャイズでもそんなに変わらないと思います。正解がない中で、経営がどういう考え方を持ってるんだっていうことに尽きると思います。

権限がなくても他部門に越境して影響を及ぼす仕事術

――日本では、欧米と違ってマーケティング部と販売促進部がほぼ混同されているとの指摘がありますが、そこに問題点ありますか。

足立 まあ、「問題があるかないか」と問われると、問題はありません。というのは、元々、(日本には)マーケティング部はありませんでした。でも、日本企業は大躍進しましたよね。マーケティングって、この数十年の言葉なんです。別にアメリカだろうが、200年前は「マーケティング」というコンセプトはありませんでした。ただ、言葉として概念がなかったというだけで皆さん、商売をやっている人は普通にマーケティングをされているんですよね。

「どんなお客さんに、何をやったら響くんだろう」とか、「どんなモノを売ったら響くんだろう」「いくらにしたら響くんだろう」。みんな同じ話だと思います。日本の企業でマーケティング部というのが販促部だったとしても、別に全体を見て、(マーケティングの)4Pをやっている人がいるならば、問題ないと思ってます。

※マーケティングの4P
Product(プロダクト:製品)、Price(プライス:価格)、Place(プレイス:流通)、Promotion(プロモーション:販売促進)をうまく組み合わせて整合性のある戦略をつくること。
足立光、西口一希『アフターコロナのマーケティング戦略』(ダイヤモンド社、2020年)165ページ

――マーケティングの4Pを実現する秘訣を教えてください。

足立 私は、会社では正式な役割としては、いわゆる販促・コミュニケーションなんです。それは多分、他の流通業のマーケティング部と一緒だと思います。ですが、僕は、マーケティングは4Pだと考えているし、コミュニケーションだけ変えるより、商品や企画から含めて全体で変えた方が、間違いなく効果的だと考えています。なので、できるたけ、いろんな部署に越境して、「こうしたらいいんじゃないですか?」って話をしに行ってますよ。

ファミリーマートでは、2年前に、「定番品を中心に売上を伸ばそう」という変更をしてるんですけど、商品開発の管轄は商品本部なんです。なので、商品本部のいろんな方とお話する中で、「やっぱり、定番品を太くする方に持っていった方がいいんじゃないか」ということを、一緒に話して決めたんですよね。僕は、マーケティング全体が(自分の)役割だと思っているので、自分の権限はないんだけど、権限以外のところもちゃんと影響を及ぼしていくようにすればいいと思ってるんですよ。

――権限がない中で、他部署に影響を及ぼすにはどうしたらいいのですか。

足立 例えば、メーカーさんには、ブランドマネージャーという役割がある会社もあります。ブランドマネージャーというのは、そのブランドのリーダー的な役割ではあるんですが、営業のサプライも購買も含めて、まったくそれらの部署に対して権限はありません。要は、ビジネスをリードする上で、上司・部下じゃないといけないとか、公式な権限がないといけないとか、そんなことは関係ないわけです。そういう意味では、「ビジネスに関係があることに関しては、また影響があることに関しては、権限と関係なく、あちらこちらに一生懸命、影響しようと努力する」ってことは、自分は社会人の初めの頃からずいぶん教わったし、そう努力してたと思います。

――なかなか大変な仕事ですね。

足立 たまに、若い方が「私の権限はこれしかないから、できません」とか言うんですけど、関係ないんですよね。要は、結果を出すことが仕事なのであれば、会社の中で、権限はないかもしれないけど、結果を出すために大事な要素には影響しなくちゃいけない。それは、権限のあるなしに関わらず、どんどんそういうところにアプローチして、自分の結果も、会社全体の結果も出るように「越境」してやっていく。そういうのが私は、とても重要だと思っています。

<生コッペパン発表会での足立CMO(右端)>
生コッペパン発表会での足立CMO(右端)

■足立光氏略歴
1968年生まれ。シュワルツコフ・ヘンケルにて代表取締役社長及び会長を歴任。その後、日本マクドナルド 上席執行役員・マーケティング本部長、ナイアンティックシニア・ディレクター等を経て、2020年10月から現職。
I-neおよびノバセルの社外取締役、スマートニュースおよびコープさっぽろのマーケティング・アドバイザーも兼任

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