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【寄稿】ライフ、ヤオコー、サミット/首都圏スーパーのPB戦略

2023年10月17日 16:10 / 商品

ライフコーポレーションヤオコー、サミットなど首都圏の有力スーパーマーケット(以下:SM)の勢いが続いている。新型コロナウイルスは必需品のワンストップショッピングであるSMの業績を大幅に高めたが、その影響が薄れる中にあっても、特に昨今の商品の値上げによる売り上げ押し上げ効果にも乗って、比較的好調な売り上げを維持している。

一方で、特に地方企業などではコロナ禍の反動の影響を大きく受けている企業も少なくない。これら3社が厚い商圏人口を抱える首都圏を地盤としているということは1つ、好調の要素として挙げられることは確かだ。

しかし、同じ首都圏地盤の企業でもその業績にはばらつきが存在する。当然のことながら業績の差は、単に展開地域だけの問題でもなく、やはり競争力に大きく影響するのはマーチャンダイジング(MD)の磨き込みの差が基本となるだろう。その意味ではこの3社は「MD力が強い」と言えるが、いま、その要素の1つとしてプライベートブランド(以下:PB)戦略に各社各様の動きがあることは注目すべきことといえる。

多層化、多様化を増すPBのラインアップ

一般的にPBは小売業が自主企画した商品で、メーカーが自社のブランドで販売するナショナルブランド(以下:NB)と対をなす。古くからコンセプトは幾つかあったが、日本の場合、多くが「NB商品と類似のコンセプトの商品の機能うち幾つかを絞り、より低価格で販売するもの」、つまり、NBの廉価版のような商品が大半であった。

メーカーがかける広告宣伝費や販促費がなかったり、機能を絞り込んだりすることで低価格を実現し、一方で小売業としては値下げも抑えられるため粗利益が確保できるという位置づけとなるのが一般的だ。

製造を担うのはメーカーであるが、例えばNBのトップブランドではないメーカーが製造を請け負うことで代わりに自社NBの取り扱いを拡大してもらうといったことや、製造を請け負うことで工場の稼働率が上がるといった効果もメーカー側にはある。

PBの性質に関しても、前述のNBの廉価版のような商品を超えた多様性を持たせる動きは古くからある。代表的な企業がイオン。古くからPBを積極的に開発してきた代表的な存在だが、PBに複数のラインを持たせ、多様な需要に対応している。

この考え方は欧米などでは一般的で、実際、PBに多様な役割を持たせているケースが多い。
例えば、価格帯については、低価格化ではなくむしろ機能を追加したり品質を高めたものを「クオリティーブランド」としたり、通常よりさらに低価格化を強化したブランドを「プライスブランド」「コンペティティブブランド」といったようにPB商品内でも階層化を図っている。

冒頭の3社でいえば、ライフコーポレーションとヤオコーは、このPBの階層化を意識した商品開発を実践している。

ライフコーポレーションは、従前は「スマイルライフ」と呼ばれる通常ラインがメインであったが、現状ではオーガニックなどをコンセプトとする同社のフォーマットと共通の「ビオラル」、クオリティーブランドの位置づけの「ライフプレミアム」、また、ヤオコーと共同開発するプライスブランドの「スターセレクト」、さらに今年、和菓子で開発した「花よつば」など、階層化、多様性を増している。

ライフコーポレーションは「ビオラル」ブランドを売場と連動させる形で、アピールを強めている。

<「ビオラル」イメージ>
「ビオラル」売場

ビオラルについては、当初は類似性の高いコンセプトで「ライフナチュラル」という名称だったが、「ビオラル」に変更された経緯を持つ。

ヤオコーはPBについてはスタート当初から階層化を意識。通常ラインの「Yes!」に加え、クオリティーブランドの「Yes!プレミアム」、ライフコーポレーションと共同開発する前述の「スターセレクト」の3ラインで3階層での開発としている。

<個性的な商品を開発>
個性的な商品開発

ヤオコーもクオリティーブランドで個性的な商品開発が目立つ。

■サミットが自社のPB開発をスタート

一方、長年にわたってPBを開発してきた2社と異なり、サミットは所属するオール日本スーパーマーケット協会(AJS)が開発する「くらし良好」を、低価格を打ち出すPBの位置づけで販売してきた。背景には、「餅は餅屋」ということで、「製品開発、あるいは商品開発を小売業が手掛けても専門に事業を展開しているメーカー以上のものを開発できないのではないか」との考えがある。

しかし、今期に入り、方針を転換すると発表。サミット独自のPB開発に踏み込む方針を示している。服部哲也社長は「従来、サミットはずっとPBはやらないということでやってきたが、くらし良好とかぶらないという前提にはなるが、必要なものはタブーとせずにやっていく」と語り、改めてMD強化の方向性を明確化した。

サミットは、店内製造の商品について部門横断で製造する態勢を築くことで、MD上の強みを発揮してきた。今後は、加工食品のPBにも踏み込むことでさらなる競争力向上を目指す。

<サミットは店内製造商品で強みを発揮>
サミット

小売業は、日々、直接にお客と接している。その意味では、販売の動向も含め、その定性面、定量面双方の反響をじかに知ることができる強みを持つ。むしろお客と日々接している小売業だからこそできる商品開発もあり得るといえる。むしろ、多様化の時代を捉えた商品開発は小売業発だからこそ、可能になるといえるかもしれない。

実際、小売業発の商品開発の先行事例はコンビニ業態に存在する。コンビニの商品は、かつてはNBを主力に構成されていたが、現在ではブランド力の高いNBを除いて多くがPBに置き換わっている。

さらに4桁を超える店舗数による販売力を生かした商品開発は、前述のような、単なるNBの廉価版のようなPBだけでなく、独自の機能やコンセプトを持った「NBに同様の商品がない」ものにもその範囲を拡大。まさに販売力に加えて日々、お客と接しているという小売業の強みを生かした開発といえる。

ここに来て、有力SMがPBを強化し始めている背景には、小売業の強みを生かすことの重要性が増しているという時代的な背景もあるといえるのではないか。

■差別化の最後の鍵は、加工食品の独自化にあり

さらにPB開発が活発化する背景として大きいのは競合店との差別化である。

もともとスーパーマーケットは、大型店であれば1万数千種類のアイテムをそろえ、セルフサービスで販売する業態であるが、特に加工食品においてはNBがその商品構成の中心であった。一方でNB中心では競合店との競争の武器が「価格」だけになってしまう他、根本的に来店動機を作り出すことができないという宿命を持つ。

実際、SMの売り上げの4~5割は農産、水産、畜産の生鮮3品と総菜が占める。生鮮、総菜はその商品規格や製造過程への関与度の面で比較的PBに近い。生鮮、総菜をPBと見なしている企業も多いのではないか。

生鮮、総菜を差別化や来店動機の創出の手段として強化する企業は多いが、現在では範囲が次第に拡大し、加工食品にも広がってきているといえる。そもそも、店舗の商品構成を通じて顧客に生活提案を行う中で、その品ぞろえ、アソートメントを世界中にある商品を組み合わせて行うわけであるが、必ずしもNBだけでは足りない状況が生まれるのは想像に難くない。これまではそれを補う手段がないケースもあったが、ここに来てその最後の1ピースを埋めるフェーズに入る。

さらに、明確にPBとは銘打たないまでも、例えばライフコーポレーションでは三菱商事の調達網を活用した輸入商品など、ヤオコーについても子会社で、輸入商社の小川貿易が調達したワインを中心とした輸入商品をオリジナル商品としてMDの差別化に活用している。

一方で、売上高構成比の面で見ると、ライフコーポレーションは2022年2月期で9.1%、ヤオコーは22年3月期で9.85%と、共に10%弱でそれほどの存在感があるわけではない。

もっとも、PBは目的ではなく、あくまで自社が目指す品ぞろえを実現する手段の1つにすぎない。その意味では、その適切な比率も含めた模索が続くことになるといえる。

いずれにしても、今後、日本におけるSMの姿を形作っていく中で、PBが担う役割は今後ますます大きくなることは確かだろう。

(竹下浩一郎・ロコガイド リテール総合研究所所長)

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