経産省/キャッシュレス・コンビニなど業界動向を課長が解説
2019年08月26日 16:00 / 流通最前線トレンド&マーケティング
消費税増税に伴うキャッシュレス・消費者還元事業、人手不足に起因する人件費の高騰、コンビニの24時間営業問題など、小売業を取り巻く経営環境が大きく変化している。この変革期に、経済産業省の消費・流通政策課長に就任したのが伊藤政道氏だ。小売業が直面する課題、キャッシュレス・消費者還元事業、新しいコンビニのあり方検討会の方向性など、経産省の取り組みの最新動向を語ってもらった。
流通業界の共通課題は「人手不足」
――7月5日付けで、消費・流通政策課長に就任されました。流通業界ではさまざまな課題があり大変な時期です。
伊藤 そうですね。さまざまな課題がありますが、共通した課題は、人手不足です。いま、データとかIoTを活用して、人手不足を埋める流れがあります。米国のアマゾンゴーや中国のフーマーのようなスマートストアも出てきています。省力化をした上で、IoTを上手く活用し、実態に即したイノベーションを作り出すことが、共通した課題です。
IT技術の活用、キャッシュレス推進、話題となっているコンビニの問題も、人手不足という点では、共通した課題だと言えます。
データを活用し、オンラインとオフラインを融合する話もあります。新しい技術が、どんなポジティブな変化を与えるのか、きちんと見て、新たなシーズがあれば、それを後押しするのが、当面の課題です。
――経産省では、RFIDの普及を後押ししてますね。
伊藤 アパレルのような客単価が高いところでは、すでにRFIDは拡大しています。一方で、コンビニとドラッグストアでは普及していません。店舗数が多い業態で、RFIDが広がれば、かなりのインパクトがあるため、「コンビニ電子タグ1億枚宣言」「ドラッグストアスマート化宣言」を出し、共同でさまざまな実証実験を続けています。
RFIDの課題は、RFIDの単価をどう下げるかです。また、RFIDを入れることで、オペレーションの効率化など、何をするのかが問題です。今年2月の実証実験では、冷蔵庫もRFIDと連動して、消費期限が分かる取り組みもしました。RFIDに組み込まれたデータを見て、消費者に対して、どういう付加価値のあるサービスを提供できるのか。事業者側では、どういう風にオペレーションを変えることができるのかが課題です。
※写真は2018年2月に行った実証実験
――メーカー、卸、小売のどの段階でRFIDを貼付するのか、コスト負担も課題ですが。
伊藤 どこでRFIDをつけるべきか、オペレーションに直結する話で、それぞれの企業の実情に応じて考える必要がある問題です。ひとつのモデルみたいなものを実証実験を通じて示して、それで水平展開、というような単純な話であれば良いのですが。コスト負担も含めて、さまざまな企業から多様な考え方や取り組みが出てくることを期待しています。
「キャッシュレス・消費者還元事業」消費者向け告知も
――キャッシュレス推進も人手不足に役立つ取り組みですね。
伊藤 キャッシュレス推進は、単純に現金が置き換わる話でありません。消費者との接点や物流を含めて、キャッシュレス化で得た情報を一体化することで初めて、その意義が発揮されます。単に決済が現金に置き換わるだけでは、手数料分、売上が圧迫されるだけという議論になってしまいます。キャッシュレスになることで、レジ閉め作業の軽減や省力化も期待できるでしょう。
――キャッシュレス・消費者還元事業は、業界団体から反対の声もありますが。
伊藤 確かに、10月1日から実施するキャッシュレス・消費者還元事業について、対象事業者ではない方から反対の声があるのは事実です。一方で、対象となる事業者の方は、この事業に非常に期待しています。事業では、キャッシュレス推進と消費税増税後の消費の落ち込みに対する需要喚起を目的にしています。
2019年10月から2020年6月までの9カ月間、中小・小規模事業者の店舗でキャッシュレスで購買が行われた際に、ポイントによる消費者還元を行います。我々として、必要予算を算出して2019年10月~2020年3月までの予算として2798億円の予算措置をしています。2020年4月~6月までは、新たな予算を組む計画です。
――事業の進捗状況はどうですか。
伊藤 8月1日時点で、約28万の店舗から登録申請をいただいており、着実に動きが広がっています。今後、専用ホームページで消費者向け情報も徐々に充実させていくようにしています。現時点では登録を受けた加盟店についても、情報を随時アップデートしていくこととしていますが、関心が高まってくるのは最後の1カ月くらいだと見ています。例えば余りに早くポスターを配ってしまうと、10月までに色あせてしまうといったことも起こりえますが、しかるべきタイミングでさらに消費者向けの情報を公開する予定です。
――資本金5000万円以上の企業が補助金を目的に減資する事例には、どう対応しますか。
伊藤 キャッシュレス・消費者還元事業の加盟店登録要領にも記載していますが、事業実施期間に限って、資本金の減資などを行い、事業実施期間終了後に、再度、資本金の増資を行うなど、専らこの事業の対象事業者となることのみを目的として、資本金等を変更していると認められた場合は、申請時点にさかのぼって本事業の登録の対象外とします。具体的にどのようなケースが該当するかは、個別の判断になります。
――QRコード決済事業者が乱立し手数料0円という過当競争になっていますが。
伊藤 消費者保護等の観点からは資金決済法などによる規制があります。一方で、消費者やお店の側から、いろんな事業者がいて選びにくいといった声を聞きます。各社が、いろんな特色やサービスを打ち出しながら、自由競争の中で、どうやっていくのかが問われています。
――クレジットも電子マネーも事業の対象になっていますね。
伊藤 キャッシュレスが使われるのにも、いろんな場面があります。クレジットは高額決済に多く使われ、電子マネーは少額決済が多い。一方で、QRコード決済の良さは、特別な設備がいらないため、お店の導入負担が安い点です。
手数料や端末価格などの問題で、キャッシュレス化できなかった店舗に、QRコード決済が入ることで、はじめてキャッシュレス化が進むことが期待できます。
消費者は電車に乗るときは電子マネー、高額の買い物をするときはクレジットで、普段のコンビニとかの買い物はQRコード決済を使う。消費者にとっても店にとっても、いろんな使い分けがあるので、どれか一つの手段に収れんすべきだとは全く思いません。
――決済事業者が補助金の対象となる手数料率は3.25%以下ですが、還元事業後の手数料率はどうなりますか。
伊藤 還元事業中の2020年6月末までの手数料率は3.25%以下にしなければいけません。それ以降の手数料率も、今回は、公表してもらっている。6月末以降も3.25%という事業者もいれば、いつ今の手数料率を上げるのか分かりませんという事業者もいます。それを見て、小売業者は決済事業者を選ぶことができます。
あくまで補助金なので、そのあとの手数料率まで縛ることはできません。ただ、手数料率が下がっていくことが、キャッシュレスが広がっていく上での重要な課題です。将来の手数料率も含めて、透明化してもらって選ぶ側が比較対照できる状況にするのが、今回の手数料率のポイントですね。
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