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三菱食品/小山執行役員インタビュー、DDマーケティングを推進

2023年11月09日 14:00 / 流通最前線トレンド&マーケティング

三菱食品

三菱食品は、従来の卸事業に高度な施策・機能を掛け合わせた新たな価値創造を目指している。中でも従来の紙媒体での販売促進から、デジタル施策やSNSを通じ、小売業・メーカーが新たな顧客を獲得するのをサポートする「DDマーケティング」を強化している。小山 裕士執行役員 マーケティング開発本部長に、食品流通業界の課題解決をサポートする同社の挑戦について聞いた。取材日:10月13日 於:三菱食品本社

DDマーケティングを推進

――DDマーケティングについて教えてください

小山 DDマーケティングとは、データ分析とデジタルマーケティングを掛け合わせ、効果的な集客・広告販促施策を小売業・メーカーに提案する新しいマーケティングの形です。

当社は、小売業3000社・メーカー6500社との長年の取引をベースに、数万品目の商品を全国16万店舗にお届けしています。このビジネスを通じて得られる年間約12億件のビッグデータを持っています。

それに小売業のサポートを通じて得られた生活者接点を生かし、食品流通の課題を可視化することができます。特定の商品が、いつ、どのエリアで、どの店で、どれだけ買われているか分析でき、販売戦略や営業戦略の立案をお手伝いします。

――リテールメディアとの違いとは

小山 米国におけるリテールメディアとは、小売業が自社で保有する消費者の購買データなどを活用して、店舗やSNSで広告を効果的に配信する仕組みですね。小売業・メーカーが新しい形での生活者との接点、コミュニケーションのあり方を作っていく際、今までのCMやチラシと違った、店舗での広告・宣伝が行われるという構造に変わってきていると思います。

しかし、われわれ自身で「リテールメディアをやります」と宣言をしているわけではありません。「DDマーケティング」は、SNSや店頭のサイネージで購買意欲を促進する映像を流すといったリテールメディア的な面もあります。しかし、卸の立場ですので、あくまでも小売業・メーカーが、生活者にメッセージを届ける上でのデジタルを活用した新たなコミュニケーションの方法、機能の構築を、従来の卸機能を含めてお手伝いする取り組みだと考えています。

小売・メーカーに最適な販促を提案

――小売・メーカーにどのようなサポートを提供しているのでしょうか

小山 SNS・TVCMと連動して、店舗に来る前に商品の情報や店舗の情報を周知し、店舗内ではデジタルサイネージ、サンプリングなどを使い、さらに購買意欲を促進。生活者に、最適な情報を最適な形で提供するサポートをしています。

小売業では、例えばチラシを出して来店を促進する、あるいは価格訴求をして売り上げをアップさせるという販促を行っていたのが、新聞の購読が減り、折り込みチラシが見られなくなっているという課題があります。

メーカーにしてみると、商品を出すときにテレビでコマーシャルを流し商品の認知拡大を図ってきたのですが、これもテレビの位置付けがどんどん低下しており、届けたいターゲットに確実に届くか不透明感が増しています。

<デジタル施策は過渡期と小山氏>
デジタル施策は過渡期と小山氏

――生活者の購買スタイルが変化しているのですね

小山 現在の流通業界では、コロナ禍を経て大きく変化し、これまで店舗の売場に陳列される商品やPOP、TVCMを見て購入するような購買行動から、デジタルサイネージ、SNS、ECなどを活用し、事前に購入するものを決めてから店舗に来るスタイルに生活者が変わっています。

その中で、どうやってその商品の価値、店舗の良さを伝えるのか。小売業・メーカーが共に抱える生活者のし好や行動パターンにあわせて店舗・商品の魅力を届け、広告配信・売場連動・効果検証までを一気通貫して実施できるマーケティングを行いたいというニーズに対応しています。

生活者とのコミュニケーションの質が変化する中、当社では豊富なデータを活用し、小売業・メーカーに対し、生活者が「見た、来た、買った」につながる販促のお手伝いをしています。昨年から「DDマーケティング」を本格展開していますが、今年は昨年に比べ約5倍の受注規模になっています。

「自社のデータをうまく活用しきれていない」「生活者に商品の魅力を伝えるデジタル施策とは何だろうか」と悩んでいる小売業・メーカーは少なくありません。デジタル施策は始まったばかりの世界で、過渡期ですので、お客様と一緒に考えながらサービスを構築・提供しています。

自社・他社保有データを組み合わせ効果的な集客・販促へ

<他社との連携も強化>
他社との連携も強化

――他社との連携も強化していますね

小山 リアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank」を運営するunerryと資本業務提携しており、月間300億件の人流データを保有する同社の位置情報を活用したサービスを展開しています。

<unerryと資本業務提携>
unerryと資本業務提携

当社子会社のリテイルメディアが展開する店頭サイネージプラットフォームとも連携し、店外から店内に至るさまざまなデジタルメディアや売り場を有機的につなぐことで、生活者とのタッチポイントを増やし、広告・販促効果の最適化・最大化を図る複合的なサービスを提供しています。

また、ソニー子会社のフェリカネットワークスとも協業しています。フェリカネットワークスのレシートデータは、約4万人の生活者がどこで何を買ったのかを、生活者軸で把握することができます。当社の出荷データ・中期トレンド予測データに加え、小売業がもっているID-POSデータを預かり、レシートデータと紐付けることで、対象商品に関し、カテゴリー・商品などの購買動向をペルソナごとに可視化できます。

――具体的な取り組みを教えてください

小山 特定商圏での来店・購買アップのためのSNSを活用した販促、TV・デジタル・店舗の棚を融合させた施策、サンプリング・SNS・サイネージの組み合わせによる来店促進、休眠顧客・新規顧客掘り起こしのための広告配信などを実施した実績があります。

――特定商圏での来店・購買アップ策とは

小山 ID-POSを活用したターゲティング・購買検証で、ある小売業とメーカーの販促を支援した事例があります。特定商圏で、購買を促進したい商品の情報を対象商品の購入経験者にLINE、プッシュ通知で、商品のお得な情報を配信しました。特定商圏に加えて、全国でもその情報を配信したところ、施策の配信1回目に対し、2回目は来店率が1.5倍、購買者1.2倍、休眠購買者数が7.5倍に伸びました。

――休眠顧客・潜在顧客の取り込みはどのような施策ですか

小山 購買データを活用し、潜在的な購買層を特定。休眠顧客にも合わせて、LINEやYouTubeで広告を配信しました。配信対象者を絞り込んだことで、広告効果が20.9倍になりました。デジタル広告施策により顧客ロイヤルティもアップし、広告を配信しなかった層に比べ、購入増加率が17ポイント、リピート率も4.8ポイントアップしました。

購買データを活用した効率的なデジタル広告の配信により、客単価のアップに貢献することができました。ROAS(ロアス、Return On Advertising Spend)、広告に対する費用対効果が可視化されるのも大きな特長です。

――テレビと棚の融合について教えてください

小山 メーカーのある商品のTVCMが流されるタイミングで、SNS広告や店舗周辺でのプッシュ通知を配信しました。店頭ではサイネージ付きの什器を設置し、商品の購買を喚起するような棚づくりを連動して行いました。位置情報・ID-POSを検証すると、その結果購買数量2.7倍、来店客数2.8倍にアップすることに成功しました。

<テレビと棚を融合させる施策も実施と小山氏>
テレビと棚を融合させる施策も実施と小山氏

――サンプリングとデジタルの融合とは

小山 一般的な店頭でのサンプリングに加え、特定のターゲット層、例えば子育てファミリーなどに向け、位置情報を活用したYouTubeによる広告配信、加えて店頭サイネージでのアレンジレシピの配信といった実店舗とデジタルの組み合わせも行っています。ある事例では、商品の売り上げが13%増、なかでもCookpadTVを利用した小売店では18%増となりました。

――デジタルと実店舗での取り組みは両輪なのですね

小山 マスに広げるにはテレビは引き続き効率的です。しかし、日本人には、特有の食に対する地域別の強いし好性、世代ごとの好みやニーズがあります。特定のエリア・ターゲット層ごとに絞って、必要な情報を発信できるというのはデジタルの強みです。データを活用し、情報を届けたい、あるいは興味を持ってもらいたい人に、届けられます。

加えて、デジタル販促の仕組みを提供する企業はたくさんあると思いますが、われわれは卸として、実際に商品を取り扱わせていただいています。商品を知っているので、「こういう売り方がいいのではないでしょうか」「こういうキャンペーンがいいのではないでしょうか」と、施策の具体的な中身、コンテンツを小売業・メーカーと一緒に考えさせていただけるということも強みですね。

実際にこういうキャンペーンにおいて、いくら広告を流しても、商品がお店に置いていなければ売れませんので、しっかりと商品をお届けする、配荷を拡大する状態に持っていくということも併せてできます。これもアドバンテージかもしれません。

――サイネージを活用しています

小山 生活者にお店に来ていただいて、最後にやっぱり「あっ、そうだそうだ」と言って手に取っていただく前の一押しというのがサイネージの効果だと思っています。例えば、スーパーでサイネージに、メニュー提案、レシピといったコンテンツを配信すると、試算では来店者の約20%がコンテンツを認知しています。その中で最後、それを見て買った人が約10%となっています。

サイネージでメニュー提案し、関連商品をお勧めするともに、お勧めしたい別の売り場の商品情報を配信するなど関連販売だけでなく、サイネージの利用方法も広がっています。

販促効果は施策終了後も継続

<食品流通の未来を分析>
食品流通の未来を分析
※7月27日「ダイヤモンドフェア2023」で流通ニュース撮影

――デジタル施策の広告販促効果の検証も特長です

小山 豊富なデータをもとに、小売業・メーカーと仮説を立てながら、一緒に新しいマーケティングに取り組んでいます。仮説は実行して、効果検証して、継続してPDCAを回すことが重要です。

また、実際に取り組んでみると、さまざまな気づきがあります。例えば、子育てファミリー向けで30~40代女性をターゲットに広告を配信した際、効果を分析すると、広告は30~40代子育て中の男性にも響いていることがわかりました。子育て世代向けとは、女性向けだという固定観念が我々にも、メーカー側にもありました。

――蓄積したデータは新規出店・既存店改装にも効果的ですね

小山 新規出店ではエリア・ターゲット分析、既存店改装の際は休眠顧客の掘り起こし、新規顧客の呼び込みなどそれぞれ課題があります。ターゲティング、既存顧客の来店頻度の向上、休眠顧客の掘り起こしなど具体的な提案ができます。

卸ですので、棚割り、ゾーニング、動線の提案も従来から行ってきましたが、今後、ビーコンなどを活用し、顧客の動線をもっと詳細に分析するなど店作り、品ぞろえの改善も挑戦したいですね。新しいデジタルの技術を使ってより精度を上げ、さらに店舗のDXを支援することを考えています。

――DDマーケティングの今後の目標は

小山 テクノロジーの世界は日進月歩なので、ここまできたら完成というのはないと思っています。継続的に我々が提供する機能を高めることは、ずっとチャレンジしていかなくてはいけないと考えています。DDマーケティングが、新しいやり方として、小売業・メーカーの間に浸透し、店舗の売り上げアップ、自社の商品の販売増など、企業活動に役立つことを目指していきます。

<店舗のDXを支援と小山氏>
店舗のDXを支援と小山氏

取材・執筆 鹿野島智子

■小山 裕士氏略歴
1990年三菱商事入社。以来、一貫して食品産業に従事。欧州駐在、大手小売業取締役執行役員、三菱商事リテイルサポート部長などを経て、2020年より現職。

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