コンビニ業界では2019年、コミュニケーションが課題となった。その中で、ローソンはかねてから時短営業を認めるなど、加盟店と本部のコミュニケーションで他社とは異なる対応をみせた。今回、竹増貞信社長に、社内でのコミュニケーションで心掛けていることや加盟店とのコミュニケーションの考え方、消費増税後の消費動向などを聞いた。
「何でも言える環境・雰囲気づくり」同じことを何度も言う
――2019年はコンビニの課題として、コミュニケーションが大きな注目を集めました。まず、社内のコミュニケーションの考え方を教えてください。
竹増 社内のコミュニケーションの基本はやはり、いつでもみんなが何でも言える環境・雰囲気づくりを心掛けることです。上がってくる情報は、自分の中の軸に従って、基本的に、お客様、加盟店、本部というような優先順位をつけています。
僕らの商売はお客様に立脚し、加盟店さんと一緒に運営し、それを本部が支えていくことです。お客様に影響があることは、速やかに対応する。加盟店さんに影響があることも、やはり優先順位は高い。もちろん本部に影響が出ることも優先順位は高いんですけど。お客様や加盟店をしっかりとサポート、バックアップするのが、本部の役割です。
――社内では、どんなルートで情報が上がってきますか。
竹増 メールで「こんなことが起こってます」という情報をくれる社員もいます。そういう社員に対しても、常に丁寧に対応しています。それから、加盟店に対しても、社長直行便をどんどん出してくださいとセミナーで申し上げているので、実際、増えています。モヤモヤしていることを、しっかりと表に出せる環境・雰囲気づくりが、まずは大事であると思っています。
――社内コミュニケーションで難しい点はなんですか。
竹増 やっぱり一回言っただけだと、みんなに伝わらないですよね。「大事なことは100万回言う」覚悟を持っています。「また、同じことを言ってるな」と言われるくらいで、ちょうどいいと思っています。
2019年は、「笑顔とトイレで頑張りましょう」と宣言しました。これも常に、発信を続けて、お店を回った時の写真とか、コメントなんかもイントラネットで出しています。社長は、本当にトイレも掃除しているんだ。今日はこんなところに行っているんだなと社員と共有している。スーパーバイザー(SV)会議なんかで、全国から全員が集まった時にも同じ話をします。本気でこの人は3年間、トイレを掃除するんだと感じる話をします。
やっぱり、モヤモヤが表に出せる環境・雰囲気を常に心掛ける。「大事なことは100万回言う覚悟」で言い続ける。社員が「もういいよと、また、それからでしょう」と言うくらい言い続けていくことが大事だと思っています。
――加盟店とのコミュニケーションで重視していることは何ですか
竹増 例えば、6500人のオーナーさん、1万4500人の店長さんと本当にフェイストゥーフェイスで、双方向コミュニケーションを取れればもっともいいとは思いますが、時間的・物理的な制約もあります。そこで、月に1回、自分が考えていることはストアコンピューターで全店に10分、15分くらいのメッセージで流しています。毎年開催するセミナーでは、必ずオーナーさんの前で、自分の言葉でしゃべります。セミナー会場では、僕に何か言いたい方は、自由に来れるようにしています。
――他チェーンと比べて活発にコミュニケーションができているのは何故ですか。
竹増 エリア毎に信頼できるリーダー的なオーナーさんがいらっしゃることです。例えば、自ら地域のオーナーさんを集めて、私が出した施策について、自分たちの地域では、何ができるのか話していただけるエリアもあります。リーダー的なオーナーさんが、いま単店オーナーさんって、こういう状況だよとか。単店オーナーさんよりも、実は、2店舗、3店舗の方が大変なオーナーさんがいるよとか、全部、上げてきてくれます。
――リーダー的なオーナーさんは、どんな方ですか。
竹増 リーダー的なオーナーさんは、オーナー福祉会の理事や理事長の方が多いですね。理事長さんは、毎週、どこかのエリアに行って、本当に最近、入られた方々を集めて、話を聞いていただいたりしています。実は、理事さんというのは1期3年で交代なんですけど、過去のOB理事さんも同じようにずっとエリアで活動を続けていただいてて、そういう方々が、「ちょっと1回、竹増さん、話を聞きに来た方がいいよ」と言って下さるケースもあります。
今年は、浜松とかに行きました。理事さんが、単店とか、2、3店でいま一生懸命にやってらっしゃって、でも大変なオーナーさんを集めてくれました。そこで僕は、スタッフも連れずにポンッと1人で行って、本当に3時間、ひざ詰めで話を聞きます。
――社長1人では、全国の状況を把握するのは難しいですよね。
竹増 本当に、毎年、全国を回れればいいのかもしれませんが、それはちょっと物理的に難しい。ローソンって、実はリーダー的なオーナーさんがいるっていうことが、僕らの先輩たちが作ってくれた財産です。いろんなオーナーさんがもちろんいらっしゃいます。でも、向いている方向は、やっぱりローソンが好きで、みんな商売でしっかり儲けも出したい、また、街を支えたという同じ方向、同じ目的を持っている。
そういうオーナーさんだからこそ、話合える内容があって、そういうことをしっかりとフィードバックしてくれる人たちが、過去からずっとローソンに、居続けてくださってる。これが、コミュニケーションとしては最もローソン独自のもので、すごく僕らの大切な大変な財産だと思います。こういうところは、これからも大事にしていきたいですね。
いまのままの商品、サービスでは「コンビニ市場は飽和」
――コンビニ業界は飽和していると考えていますか
竹増 もちろん、いったん踊り場にきてますよね。この踊り場をどう突破して、成長していけるかが、問われていると思います。いまのままの商品、いまのままのサービスだと、飽和でしょうね。
――商品、サービスをデジタルで変えていくのですか。
竹増 ほとんどのお店がいまのところ24時間365日営業しています。この価値って、単に商品を売るだけ、いまあるサービスを売るだけだともったいないと思うんですね。デジタルをリアルとあわせることで、もっと付加価値が見いだせるんじゃないかと思います。
いまの商品、サービス以外に、いかにお客様が価値を感じることを提供していけるのか。いまやっているローソンフレッシュピック(ロピック)なんかは、ひとつのチャレンジではありますよね。新しいデジタルとリアルの融合みたいなものを含めて、もっともっとやれることは、あると思っています。
※ローソンフレッシュピックとは、東京と神奈川と千葉の一部のエリア限定のローソン店舗を活用した生鮮ネットスーパー。朝8時までに注文すれば、最短当日の14時以降に指定のローソン店舗に商品が届くサービス。お客の自宅に配送しないのが特徴となっている。
――ロピックの現状はどうですか
竹増 ロピックはもっと商品開発を頑張らなければだめですね。お客様はサービス自体はいいねと言ってくれます。前日の夜中や朝8時に注文すると、自宅の近くや、自分の好きなローソンで商品がピックアップできる。ただ、お客様の利用がまだ少ない。「ロピックのあの商品じゃないと私、嫌なのよ」と言っていただける商品がまだできていない。
「やっぱりローソンのバスチーが欲しいんだ」とかみたいにならないと、本当の価値をお客様に認識して頂いていることにならない。そういう商品を今後、いくつ作れるかが今後、勝負になってくると思います。
2%ポイント還元「キャッシュレス推進」に効果
――消費増税への対策はありますか。
竹増 消費税増税は、日本の社会保障制度を考えるとやむを得ないことです。ここからいかに消費が落ちないようにしていくかは、我々、小売りの知恵の絞りどころです。お客様はどこに価値ある商品があるのか、よく知っています。百貨店、総合スーパー、スーパーマーケット、ドラッグにも行くし、ネットでも買われている。そういうお客様に選ばれる商品を提供し続けられるかどうか。これが僕らのキーだと思っています。
「これは価値あるね、これは値打ちがあるな」という商品を、いかにメーカーさん、ベンダーさんと一緒になって作っていくか。「やっぱりローソンのおにぎり価値あるよ」、「ローソンのスイーツ価値あるよね」と言われる商品を作り続けて、提供し続けることが、消費意欲を喚起し続けることにつながると思います。
――2%ポイント還元の効果はどうでしたか
竹増 キャッシュレス推進の状況から見ると、9月末ぐらいまでは20%ぐらいだった使用率が、11月末で28%ぐらいにまで上がってきています。そういった意味では、一定の効果はあったんじゃないかと思います。
ただ、余分なものまで買っていただいているかというと、そうではないですね。必要なものを必要な分だけ買われますが、2%戻ってくるならば、そっちの方がいいよねという状況です。消費を突き上げてるかというと、やはり、キャッシュレス決済各社のキャンペーンの方が大きいインパクトが今はあります。
■竹増貞信(たけますさだのぶ)氏プロフィール
1969年8月12日生まれ
略歴
1993年4月:三菱商事入社
2010年6月:同社総務部兼経営企画部社長業務秘書
2014年5月:ローソン代表取締役副社長兼法人営業本部長兼ローソンマート担当
2016年3月:同社代表取締役副社長兼コーポレート統括兼成城石井・NL・LS100事業管掌兼海外事業管掌兼エンタテイメント・サービス事業管掌兼開発本部長
2016年6月:同社代表取締役社長COO
2017年3月:同社代表取締役社長兼マーケティング本部長
2017年9月:同社代表取締役社長兼CHO兼エンタテイメント事業本部長
2019年2月:同社代表取締役社長兼CHO兼マーケティング本部長
2019年3月:同社代表取締役社長兼CHO兼マーケティング戦略本部長(現任)
■ローソン/竹増社長「もう1回スイーツといえばローソン復権」
https://www.ryutsuu.biz/column/m010004saizen.html
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