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経産省/横手課長に聞くレジ袋有料化とサポート体制

2020年05月04日 10:00 / 流通最前線トレンド&マーケティング

経産省横手広樹課長インタビュー

2020年7月からプラスチック製レジ袋の有料化が開始される。現代社会に欠かせないプラスチック製品だが、海洋汚染などの環境問題の観点から、近年国際社会ではプラスチックごみ削減の流れが加速している。レジ袋の有料化によりプラスチックごみの削減、環境に配慮したライフスタイルへの変革を呼び掛ける経済産業省資源循環経済課の横手広樹課長にレジ袋有料化の制度概要、対象事業者の範囲、経産省等で実施したレジ袋削減に向けた試行的取組、制度のサポート体制などについて聞いた。

国際的にプラスチックごみ削減が課題に

――なぜ、今レジ袋の有料化を開始するのでしょうか。

横手 2015年G7エルマウサミットで海洋を汚染するマイクロプラスチックの問題が取り上げられて以来、国際社会では海洋プラスチックごみの削減が地球規模の課題となっています。プラスチック製のレジ袋を餌と間違えて飲み込んでしまったペンギンやクジラなどのショッキングな映像をご覧になったことがある方も多いでしょう。
その流れを受け、2019年G20大阪サミットでは、先進国だけでなく新興国も含めた全世界で2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的汚染をゼロとする「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」を共有し、海洋プラスチックごみの削減に向けた取組を強化する旨を確認しました。

また、我が国は、国内でプラスチックごみの適正処理、3Rを実践していますが、使い捨てプラスチックの使用量の多さが指摘されています。2019年5月には「プラスチック資源循環戦略」を定め、2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制することをマイルストーンとしました。

<プラスチックごみ削減が国際的課題に>
プラスチックごみ削減が国際的課題に
※出典:経産省プラスチック製買物袋有料化説明会資料(以下同)

――プラスチックごみの中でも、なぜ特にレジ袋を対象としているのですか。

横手 国民生活に直結し、エコバッグで代替でき、まず第一歩の取り組みとしてふさわしいと考えたからです。諸外国でも、レジ袋から取り組む先行事例が多いということも挙げられます。2015年のEU指令では、各国に軽量のプラスチック製袋の使用量を2025年末までに一人当たり40枚以下に削減することなどが定められています。2008年には中国で、2010年にはアメリカの一部でもレジ袋を有料化する規制がなされています。

わが国では、昨年末、2006年の容器包装リサイクル法改正に伴い制定された「小売業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制の促進に関する判断の基準となるべき事項を定める省令」を改正。事業者が、消費者に提供するプラスチック製買物袋の有料化を必須とする旨を規定しました。何気なくもらっているプラスチック製買物袋ですが、有料化を通じて、消費者に本当に必要か考えてもらうきっかけになればと思っています。マイバッグ持参などの消費者のライフスタイル変革を促し、過剰な使用抑制を期待しています。

対象事業者・袋・価格設定について

<レジ袋有料化の対象事業者とは>
レジ袋有料化の対象事業者とは

――どのような事業者が対象になりますか。

横手 スーパー、コンビニエンスストア、百貨店など小売業が対象となります。地方自治体で先行してレジ袋有料化を実施しているところでは、スーパー、生協などの有料化が多いのですが、今回コンビニエンスストア、百貨店、その他小売を行うあらゆる事業者が広く対象となっています。ただ、小売業をメインとしないサービス業でも、事業の一部として小売を行っている場合は、対象となります。美容サロンで、美容グッズを販売する場合、外食業で持ち帰りの食事を提供する際のプラ製の袋などは有料化の対象です。

<有料化の対象となる袋と例外>
有料化の対象となる袋と例外

――例外はありますか。

横手 例えば、クリーニングの袋は販売した商品を入れるものではないので、有料化の対象となっていません。ただ、一部のクリーニング事業者では先行して有料化している例もあります。有料化の義務はありませんが、自主的に事業者や業界団体が取り組むことはガイドラインで推奨しています。

小売業を行う事業であるか否かは、反復継続性などをもとに判断します。反復継続性がない場合、学園祭の模擬店、フリーマーケットなども対象外です。また、街中の薬局のレジ袋は有料化の対象ですが、病院内の薬局でレジ袋を使用する場合は、病院のサービスの一環として袋を提供するので、有料化の対象には入りません。

――有料化されるレジ袋の定義について教えてください。

横手 省令に基づく有料化の対象となるのは、消費者が購入した商品を持ち運ぶために用いる、持ち手のついたプラスチック製買物袋です。開口部があり、柔軟な素材でできた、持ち手があり、中に物を入れることができる袋で、プラスチック製のものが有料化の対象です。

――商品を入れる袋が対象ということでしょうか。

横手 原則、商品を入れる袋が対象になります。景品、賞品、試供品を入れる場合、福袋やドリンク10本セットのように商品と袋が一体になり、消費者が辞退できない袋は対象外です。

――ほかに例外はありますか。

横手 厚さが 50 マイクロメートル以上の袋は、繰り返し使用することが可能であり、プラスチック製買物袋の過剰な使用抑制に寄与するものとして、有料化の対象外です。
海洋環境下で微生物の酵素の働き又は加水分解により低分子化された後、微生物によって代謝され自然界へと循環する性質を持つプラスチックの重量が、プラスチック製買物袋のプラスチックの重量の 100%を占めるものについては、海洋プラスチックごみ問題対策に寄与することから、省令に基づく有料化の対象外です。また、その機能については、科学的根拠に基づく共通の技術評価手法によって、第三者から認定又は認証を受けているものである必要があります。

さらに、バイオマス(動植物に由来する有機物である資源(原油、石油ガス、可燃性天然ガス及び石炭を除く)をいう。)を化学的方法又は生物的作用を利用する方法等によって処理することにより製造された素材の重量が、プラスチック製買物袋のプラスチックの重量の 25%以上を占めるものについては、バイオマス素材がカーボンニュートラルな素材であり、地球温暖化対策に寄与することから、有料化の対象外です。

<バイオマスプラマーク(BPマーク)>
バイオマスプラマーク(BPマーク)
出典:日本バイオプラスチック協会(バイオマスプラ識別制度)HP

以上3つの対象外のレジ袋に関し、消費者が他のプラスチック製買物袋と区別できる必要があります。「フィルムの厚さが 50 マイクロメートル以上であり、繰り返し使用を推奨する旨の記載若しくは記号」、「海洋生分解性プラスチックの配合率が 100%であることが第三者により認定又は認証されたことを示す記載又は記号」、「バイオマス素材の配合率が 25%以上であることが第三者により認定又は認証されたことを示す記載又は記号」を表示してください。例えば、「この袋は厚さ 50μm 以上であり、繰り返し使用することが推奨されています」などの文言をレジ袋に明記することなどを推奨しています。

――汁物の提供や外食の持ち帰りではレジ袋がないと困りませんか。

横手 レジ袋の有料化といっても、すべてのレジ袋を有料にしないといけないわけではありません。現場のオペレーションを混乱させないよう、制度には上記のような例外を設けています。
フィルムの厚さが50マイクロメートル以上で繰り返し使用可能なレジ袋、海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のもの、バイオマス素材の配合率が25%以上のものは有料化の対象外で、顧客に無料で提供することは可能です。

<1枚ごとに代金を徴収>
1枚ごとに代金を徴収
出典:経産省プラスチック製買物袋有料化説明会資料(以下同)

――レジ袋の価格設定と売上の使途に制限はありますか。

横手 価格設定と売上の使途は、事業者自ら設定できます。1円以上の価格設定で、複数枚の袋を提供する場合は、1枚ごとに代金を徴収してください。商品価格と一体化する場合は、レジ袋の価格がわかるよう提示してください。

売上の使途については、先行している有料化している事業者では、社会貢献活動、環境保全活動などに寄付している場合があるようです。

先行自治体では7~8割がレジ袋辞退

――先行して実施している自治体の状況について教えてください。

横手 現在19の都道府県で協定、登録方式で取り組んでいます。これは、あらゆる事業者を対象に法令などの義務として実施しているものでなく、自治体の声掛けに賛同した事業者が有料化を実行しているものです。現在の自治体の事例では、協定などの賛同者だけが実施していますので、事業者には有料化しない選択の自由があります。今回のように日本全体で広く、省令で定められ義務的にやるというのは、先行する自治体の事例のように、参加するかどうか判断が許されているものとは違います。

<先行する地方自治体のレジ袋辞退率>
先行する地方自治体のレジ袋辞退率
――先行実施中のその他の自治体でのレジ袋辞退率はどの程度でしょうか。
横手 富山県などが先行して取り組み、材質など例外なくレジ袋の有料化を行っています。2008年から消費者団体、事業者、行政が協定を締結、協議会を設置し、レジ袋有料化を実施。432店(48事業者)が賛同し、2017年にはマイバッグの持参率は95%となっています。新潟県佐渡市でも2007年に条例によってレジ袋有料化を定め、2017年の時点でレジ袋辞退率は8割です。比較的、スーパー事業者の参加率が高く、大学生協、ドラッグストアなども有料化に賛同しており、おおむね7~8割の消費者がレジ袋を辞退している実績があります。

行動経済学を取り入れたユニークな実験も

――有料化に先立ち、レジ袋削減に向けたユニークな取組を実施しましたね。

横手 1月27日より約3週間、経済産業省、特許庁、財務省及び外務省の庁舎内のコンビニ店舗において、「ナッジ」と呼ばれる行動経済学の手法を活用した検証を行いました。「ナッジ(nudge:軽く突く)」とは、行動科学の知見に基づく工夫や仕組みによって、人々がより望ましい行動を自発的に選択するよう誘導する政策手法です。

――具体的にはどのような取り組みを行ったのでしょうか。

横手 この取組に参加した各省庁舎内のコンビニ店舗において、消費者にレジ袋の要否に応じて「申告カード」、又は「辞退カード」を提示してもらいました。店舗ごとに異なるタイプのカードを設定して、消費者に対するどのような働きかけに効果が見込まれるかを検証しました。

――カードでどの程度辞退率が変わったのでしょうか。

横手 「レジ袋を配布する」をデフォルト(初期設定のこと)とし、不要な場合に「辞退カード」を提示してもらうようにした店舗では、取組の前と比べて辞退率がほとんど変化しませんでした。

一方で、「レジ袋を配布しない」をデフォルト(必要な場合に「申告カード」を提示してもらう)にした店舗では、辞退率が大幅に上昇しました。さらに、カードの設定をなくした後も、一定の辞退率を維持しています。

カードの種類以外にもさまざまな条件が店舗間で異なるので、厳密な効果測定はできていないものの、「配布しない」をデフォルトに設定することがレジ袋の削減に有効である可能性がうかがえます。

また、海洋ごみの写真など、ビジュアルに訴えかける方法も有効かもしれませんし、カードをなくした後も辞退率が一定程度高いままなので、行動が定着する可能性も期待できます。

<カードにより辞退率が向上>

出典:経産省ホームページ

――カードにどのような工夫を取り入れたのですか。

横手 経産省のカードは海洋汚染の状況など漂着ごみの絵を張り、外務省は、その業務・属性を考え、諸外国の60%はレジ袋有料化を導入しているという情報を入れたカードを使ったのです。

結果、財務省では、それほど辞退率は伸びなかったのですが、ほかの三つの省庁では大きな辞退につながりました。特に、経産省は約7割と大きな辞退率につながりました。
ちょっとした工夫でライフスタイルの変革、行動は訴えかけることはできると思っていまして、なんでも規制するのでなく、個々人の意識を変えることが今後にもつながっていくのではと考えています。今回の事例を事業者の参考にしていただければ幸いです。

説明会・販促物の配布で事業者をサポート

――ナッジの事例紹介のほかに、どのようなサポートを事業者に行っていますか。

横手 流通業界からは、レジ袋有料化が省令で定められた全国一律で実施するものであることを周知してほしいという要望がありました。レジ袋有料化に関する特設サイトを開設し、パンフレット、ポスター、チラシなどを無料でダウンロードできるようになっています。店頭などに貼ったり、顧客に配布したりして、活用していただきたいと思います。5月からは、TVCM、車内広告などメディアを使った広報も本格開始する予定です。

<無料でダウンロードできるチラシ>

出典:経産省・レジ袋有料化特設サイト

――事業者向け説明会なども開催していますね。

横手 業界団体や商工会議所などで説明会を先行して実施し、特設サイトでは、制度を紹介した動画も配信しています。また、業界団体に所属していない中小事業者、個人事業主も対象となりますので、確定申告の時期には全国の税務署にも周知用のチラシを置いていただき、中小事業者や個人事業主にも認識してもらえるよう、国としてしっかり周知徹底していきたいと思います。

なお、全国説明会は、4月より順次開催予定でしたが、コロナウイルスの影響で5月末以後に延期予定です。別途、特設サイトで説明会動画の配信も準備していますので、そちらも活用していただければと思います。

――今後レジ袋以外も有料化の対象になるのでしょうか。

横手 まだ具体的に決まっていません。2019年5月の「プラスチック資源循環戦略」では、2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制することをマイルストーンとしていますが、その削減をどのように進めていくかは、現場のオペレーションなども勘案しながら、検討していく必要があります。日本は、企業、業界団体などが制度如何にかかわらず、プラスチック製容器、使い捨てのプラスチック製スプーンやフォークなど減らす試みがなされている点が素晴らしいと思います。前述のナッジもそうですが、消費者にとっても事業者にとっても無理がないサステナブルな形でライフスタイル変革を促していくことが重要であり、経産省としてもしっかりサポートをしていきたいです。

<経産省としてもサポートしたいと横手課長>

■経産省・レジ袋有料化特設サイト
https://www.meti.go.jp/policy/recycle/plasticbag/plasticbag_top.html

■横手広樹氏略歴
1979年3月24日生まれ
2001年3月:京都大学工学部物理工学科卒業
2003年3月:京都大学院工学研究科機械工学専攻修了
2003年4月:経済産業省入省(製造産業局参事官室)
2005年6月:資源エネルギー庁電力・ガス事業部放射性廃棄物等対策室
2007年6月:製造産業局住宅産業窯業建材課 課長補佐
2008年7月:米国留学(デューク大、ミシガン大)
2010年7月:産業技術環境局産業技術政策課 課長補佐
2011年6月:内閣官房東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会事務局 課長補佐
2012年8月:資源エネルギー庁電力・ガス事業部放射性廃棄物等対策室 課長補佐
2014年7月:商務流通保安グループ電力安全課 課長補佐
2016年5月:商務・サービスグループ生物化学産業課 課長補佐
2018年6月:産業保安グループ保安課 課長補佐 大臣官房政策企画委員
2019年7月:産業技術環境局資源循環経済課長

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