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流通最前線/フォレストモール・今西 弘康社長インタビュー

2023年06月09日 10:30 / 流通最前線トップインタビュー

流通最前線 トップインタビューフォレストモール/3年後に全国30モール目標「生活密着型NSC」の秘策

近隣型ショッピングセンター(NSC)の開発を専門に手掛けるディベロッパー「フォレストモール」が出店を加速している。2006年に1号店「フォレストモール南大沢」(東京都八王子市)を開業後、2013年からは毎年、出店を重ね、現在、全国に17モールを展開する。今後も年間4モール程度の出店を継続し、3年後には30モール体制を目標にかかげている。今回、フォレストモールのNSC開発の特徴について、同社を率いる今西弘康社長と取締役の吉岡廣記プロパティマネジメント部長に聞いた。

小商圏・生活密着型テナントでNSC開発を推進

――さまざまなディベロッパーがありますが、御社の特徴を教えてください。

今西 ひとつの特徴は、生活密着型のテナントでNSCを形成しています。NSC自体は小商圏でも成立するエリアに出店しています。スーパーマーケット(SM)を核店舗にして、ドラッグストア、100円ショップを準核店舗としています。コロナ禍でも、基本的に生活に密着しているので、買い物には来ていただけました。当社は、あまり手間とコストをかけない、無駄と思われるものをそぎ落とした形のショッピングセンター(SC)を作ろうと目指しています。運営上のコストを、あまりかけないで済むことも特徴です。

――想定商圏の考え方は、どうなっていますか。

今西 大体、1km圏内、あるいは車10分内で1万人以上が理想です。人口は、1万人以上は欲しいと思っています。ただ実際には、もうちょっと少ない人口でもNSCを作っています。人口1万人以下であっても、NSC前面の道路の状況とか交通事情を踏まえて、アクセスが良ければ成立します。

郊外は、やはり車なしでの生活はあり得ないですよね。車で出かけると、5分だろうが10分だろうがそんなに変わらない。なので、車10分内で1万人ぐらい、あるいはもっと少ない商圏でも、核店舗のSMさんが強くて周りに何も、競合がなければ、来ていただけると考えています。そういった意味では、小商圏でも成り立つということが、基本的には強みかなと思います。

――現在のNSC開発の課題は?

今西 元々、まとまった土地が少なく、土地が高いことです。投資コストと賃料収入との兼ね合いで出店場所が決まります。そうすると都心に入っていこうとすると、お客さんはいるし、商圏人口はありますが、逆に競合は激しいし土地の値段は高い。また、建設コストも高騰しています。建設コストは、郊外だろうが都心だろうがそんなに変わらないのですが、全体的に、総投資コストがかかってきている。

そういう意味では、郊外のほうがまだ余地がある。都心の少ない土地は、取り合いになっています。都心の入札案件では、ほとんど、勝てません。普通に考えたら、当社のほうが総投資を抑えるような仕組みは作られています。でも、大手ディベロッパーさんは、「ここだ」と思う物件には、良い条件を出しますが、当社は、無理をしません。あくまでもうちの収支部分を削ってまで、やろうとは思いません。

――出店エリアについて、どうお考えですか。

今西 既存のNSCは、首都圏エリアと関西圏エリアにほぼ集まっています。できれば、もうちょっと中部にもつくっていきたい。東北も宮城県は有望だと思っています。最終的には、太平洋ベルト地帯を中心に、全国に展開したいと思っています。ただ、まだそんな力はありませんから、首都圏、関西圏中心に、今後、中部圏もやっていくイメージです。

例えば、2019年11月に開業した「フォレストモール木津川」がある京都府木津川市は、ほとんど奈良寄りの郊外ですが、京都府の中では数少ない人口が増えているエリアです。昨年10月にした「フォレストモール岩出」がある和歌山県岩出市も、ちょっと人口が増えています。人口増加を狙って、出店場所を選んでいるわけではありませんが、都心部から離れても有望な立地はあると思います。少子化が進む地方において、NSCを展開することで地域の活性化にも貢献できるかと思っています。

――フォレストモールのデザイン上の特徴は。

今西 当社の開発は、土地購入から始まるもの、借地で展開するものがありますが、基本は当社が主体となっています。アメリカの西海岸にあるSCをイメージしたデザインで、全体的に統一感を重視しています。どんなテナントが入られても、躯体の形や外壁の色合いは、ほぼ決めています。平面駐車場を設けて、植栽をなるべく多くとっています。核店舗であっても、ファサードのサイズも決めています。チェーン展開されている企業には、独自のファサードがあるので、その都度、交渉してサイズも決めています。

SMがディベロッパーとして展開するNSCは、どうしても核店舗が目立つ形になりがちです。そうすると小区画のサービステナントがなかなか生きてこないと思っています。小区画のテナントも生かすために、ファサードに統一を持たせて、核店舗のSM、準核店舗のドラッグストア、100円ショップを離して配置して、小区画のテナントを挟み込むようなイメージで、テナントを配置しています。そうすると、テナント同士で、シナジーがおこります。基本的には、目的買いでショートタイムショッピングをして帰っていただきますが、ちょっと隣の店舗に立ち寄って、サービスも利用していただくイメージで、NSCを作っています。

賃料明確化、損益分岐点が分かりやすいSC運営

<吉岡プロパティマネジメント部長>
吉岡プロパティマネジメント部長

――フォレストモールのSC運営面での特徴を教えてください。

吉岡 当社には、適正利益率という考え方があります。今後の成長戦略や、施設を安全・安心に運営し、お客様のニーズに応えていくものに維持するために設定した数値があります。そこを著しく上下しないようにしています。適正利益率を上回ったものは、地域やテナントに還元しています。当社のテナント契約では、共益費は基本賃料に含んでいます。また、NSCとしての販売促進も基本的にやっていません。

販促については、独特の考え方があります。「餅は餅屋」です。私どもは、それぞれのプロ、テナントをリスペクトしています。無駄にNSCとしての販促をやると、人件費を含めて、コストがかかります。そのコストは、テナントが負担するので、テナントの損益分岐点が上がってします。それでは、メリットがないので、販促はテナントにお任せして、その分、家賃設定を下げるとか、共益費は一切取らない施策につなげています。

当社も、創業時はNSCの販促を少しだけやったことがありました。しかし、全てのテナントに恩恵がある販促は難しい。また、販促のために多大な労力をかけても全てのテナントが満足できる販促の実行は不可能だと思います。だから、テナントとの信頼関係を築いていく上で双方の弊害となる非効率且つ不満要素が少しでも残る可能性のある、販促はやらないことにしました。10年、20年という長い契約です。テナントと同士になるために、余計な要素は一切そぎ落としています。

――NSCのテナントの入れ替えについては、どんな考えを持っていますか。

吉岡 当社は、テナントを入れ替えて、リニューアルして真新しさを出すという考えが一切ありません。理想は、当初入居頂いたテナントが売上をちゃんと保つことです。売上があるのは、地域のニーズに応えていることだと思います。ただ、時代が変わってくると、若干お客さんのニーズが変わるので、テナントが、それに応えてくれるような業態を作ってくれるのがベストだと思っています。

人口が減っていく中で、当社のNSCも含めて、日本国内のいまのSC数がずっと必要かというと、それは難しいと思っています。地域でのシェア率を上げて、なくてはならない施設になっていくには、何が必要かを探していくしかありません。そういう意味では、テナントとのコミュニケーションも大事です。巡回で担当者が各NSCに行きますし、何かたわいのないことでも拾っています。当社は、ディベロッパーという立場で応えられるハード面を充足し、運営面は、日々考えながらやっている状況です。

――ローコストオペレーションの施策を教えてください。

吉岡 当社では、基本、警備員を常駐させずに運営できるような施設づくりをしており、巡回型の運営で、防犯カメラのデータを当社で見えるようにしています。インフラに投資して、人をなるべくかけないようにしています。初期のNSCでは、警備員が常駐していましたが、あまり必要でないことが分かりました。家賃につながるコストは、できるだけ下げる努力をしています。ただ、安心・安全とか最低限の清潔感など、崩せない土台はあります。損益分岐点が低いことで、小回りが利き、大型のリージョナルSCとは異なる攻撃力がでると思います。

<最新店舗のフォレストモール常陸太田>
最新店舗のフォレストモール常陸太田

飲食店テナントは世界観を重視した展開

――飲食店テナントに対するリーシングの方針を教えてください。

吉岡 飲食店は是非、入れたいですね。いまは、デリバリーもありますけど、やっぱり飲食店の満足感は、お店に行かないと味わえない。飲食は、お腹を満たすだけじゃないと思います。目で見て、香りをかいで、お店の雰囲気を感じることも重要です。ECが発展し、デリバリーが発展しても、そういった体感を通した体験を提供できることは、飲食店の強みだと思っています。なので、飲食店は世界観を表現することが重要であると考えます。

飲食店は基本的に、独立棟で展開しています。飲食店は独立店のほうがいいと思っています。チェーン店では、独自の建物デザイン(世界感)があり、営業時間も夜遅くまで運営するなど、SC全体とは違うところもあります。また、ドライブスルーというニーズがかなりあります。そのため、独立棟で、道路に近いところに飲食店を配置するようにしています。当社の経験でいうと、NSCの館の中に、飲食店が入ると良さを出し切れない。

――どんな飲食店を誘致したいですか。

吉岡 地元の人気店を誘致できれば理想ですね。もちろんチェーン店も必要ですが、一定数、地元の繁盛店とか、あまり知られていない飲食店を誘致できたら、ディベロッパーとしては幸せだなと思います。役所の方、商工会、地域の方と、いろいろ話をすると、「こういうのを入れてくれ」「ここがいいお店だ」とか、言われることがあり、情報収集しています。

今西 飲食店については、二パターンあります。チェーン店を地元に初めて持ってくるパターンと、地元の有名店を入れるパターンがあります。全国的なチェーン店を地元に紹介することも、ひとつの役割になっています。

――NSCにフードコートはありませんが、何か理由があるのですか。

吉岡 当社のNSCにもフードコートはないですね。フードコートはコストがかかります。また、客数がリージョナルSCと比べて圧倒的違います。NSCの客数では、フードコートの飲食店が、たぶん成り立たないと思います。フードコートは、検討したこともありますが、やっぱり運営コスト倒れになるので、難しいと思います。

<フォレストモール本社のロゴ>
フォレストモール本社のロゴ

テナント店休日を尊重、病院など多様なサービステナント強化

――サービス系テナントに対する考え方を教えてください。

吉岡 当社は、美容室、歯医者など医療系のテナント、保育所や行政機関を含めて、サービス系の小さいテナントを増やしています。いわゆる大型店を入れれば、管理コストは下がりますが、それだけでは地元のニーズには応えられません。手間暇をかけて、いろんなテナントを増やすことで、SC運営の煩雑さは増しますが、それはニーズに応えるために必要なコストだと思っています。

従来、NSCは、モノとかサービスの提供だけで成り立っていました。でも、そういう時代じゃなくなりました。安全・安心、防災も含めて、NSCが昔の集会所とか寺院みたいな地域の結節点となれるような存在となっていかなくては、存在し続ける施設となることは難しいと思います。ただ、それだけではビジネスにはならないので、その付加価値に対しての対価にどうつなげるのかを、いま考えています。

今西 当社の特徴としては、クリニックモールを併設している点があげられます。クリニックモールは区画を分けて、医療機関に入ってもらっています。歯医者さんや内科さんは、ほとんどのNSCに入っています。場合によっては、テナントリーシングで、医療機関のために、わざわざ空床区画を用意します。開業後でも、医療機関を探すこともあります。

――医療モールのテナントリーシングで苦労する点はありますか。

吉岡 やっぱり商業テナントとは、全く交渉が異なります。医療モールをプロデュースするコンサルタントさんもいますが、交渉相手は、お医者さんになります。お医者さんは、経営もされていますが、商業のプロではない。SCに対する考え方も違うので、運営の仕方も違います。最初は、ルートもなく手探りでした。でも、これからを考えた時に、クリニックがSCにあったほうが便利です。ここ1、2年は、開業時に空床ができても、クリニックを誘致するようにしています。

――NSCは年中無休ですが、医療機関は、土日休みで定休日もありますね。

吉岡 医療機関の休日については、柔軟に対応しています。当社は、オープンモールなので、店舗ごとにアクセスできます。ある程度、営業時間は自由にできます。定休日を設けることもできます。例えば、「水曜日は休みたい」「9時まではできないので、7時や8時に閉店したい」という要望もあります。ただ、館の中で、営業時間中に電気が消えてしまうと、お客様が戸惑うので、そういったテナントを集めるレイアウト上の工夫は必要です。駐車場は、空いているので、それぞれのテナントが考える営業方針を打ち出せる受け皿を作りたいと思っています。

――土日や正月三が日に店休日を設けることもできますか。

吉岡 土日休み、正月三が日の休みもあり得ます。契約上の手続きと、関係するテナントがあれば、その調整をしますが、問題がなければ大丈夫です。働き方改革で、元日を休むSMも増えています。NSC全体で正月休みという発想は、ありませんが、テナントとして休むことは可能です。ただ、核店舗のSMが休むと集客は弱くなるので、ほかのテナントにもその情報は伝えます。その結果、うちも休みますというテナントがあれば、それで対応します。

今西 ちゃんと店休日を告知して、お客様に迷惑をかけなければ大丈夫ですよというスタンスです。

吉岡 テナントから見ると、縛られすぎない良さもあると思います。ほとんどのSCは、形がかっちり決まっていて、そこに全て従わないといけない。営業時間、店休日とか、ある程度、テナントのニーズに応えて、柔軟に対応しています。そこがやりやすいと言われるテナントも結構、いらっしゃいますね。

――最後に、今後の出店計画を教えてください。

今西 当社は、創業時は2年に1店、長い時は3年に1店くらいのペースで出店してきました。いろいろ実験を重ねて試行錯誤しながら、これは要らないよねとか、これはこうしたほうがいいよねとか、いろいろ改良してきたわけです。だいたいこういう形だなというのができて、毎年1店、2店と出店しています。基本的には、年間4店ぐらいを目指しています。いつもフルに4店できたことはないんですけども、契約を4契約してという感じで回していきたいと思っています。いま、17施設なので30施設までは、3年後ぐらいまでに持っていきたいなと思っています。

当面の中長期としては、それぐらいまでは持っていきたい。人口減少の時期であっても、もうちょっと工夫することで、いろいろと作っていける余地は、NSCであればあると感じます。今のところは、出店の速度を落とすのでなく、加速していきたいと思います。

<将来の展望を語る今西社長>

■今西弘康氏の略歴
1960年1月生まれ(和歌山出身)
1982年4月:太陽神戸銀行(現三井住友銀行)入行
2011年2月:フォレストモール入社、取締役就任
2016年6月:フォレストモール常務取締役
2019年4月:フォレストモール代表取締役社長

■吉岡廣記氏の略歴
1980年5月生まれ(東京都出身)
2006年1月:やまきSC開発(現フォレストモール)入社
2021年4月:フォレストモール取締役就任

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