流通ニュースは、流通全般の最新ニュースを発信しています。





流通最前線/荒川 みず恵Amazonフレッシュ事業本部長インタビュー

2023年08月23日 14:00 / 流通最前線トレンド&マーケティング

アマゾンジャパンが2017年開始したネットスーパー事業は、コロナ禍を経て、大きく成長している。自社運営のAmazonフレッシュに加え、ライフコーポレーション、成城石井、バローのAmazon.co.jp上のネットスーパーも展開している。時短・利便性だけでなく、リアル店舗に引けを取らない鮮度、品ぞろえ、コストパフォーマンスでさらなる利用者拡大を目指す同社の戦略について、荒川 みず恵Amazonフレッシュ事業本部長に聞いた。
取材日:7月31日 於:アマゾンジャパン 目黒オフィス

コロナ禍で利用者数増加、便利さ・鮮度が好評

<Amazonフレッシュは日本で2017年開始>
Amazonフレッシュは日本で2017年開始

――Amazonフレッシュ開始の経緯を教えて下さい

荒川 すでにアメリカでAmazonフレッシュを開始していたのですが、日本でも需要を見込み、2017年プライム会員向けにスタートしました。厳選した旬の野菜、果物、魚や肉などの生鮮食品をはじめ、総菜、ミールキット、専門店のこだわりの食材、日用品を最短約 2時間でお届けしています。

<スマホ・PCで注文できる>
スマホ・PCで注文できる

――利用者はどのような人が多いのですか

荒川 プライム会員登録時に登録者のデモグラフィックは取りませんが、ほかの調査などを通じて知る限りは、共働きのファミリー層、50~60代を中心に幅広い世代にご利用いただいていることがわかっています。外出が制限されたコロナ禍で、利用者数が大きく伸びました。また、利便性・生鮮食品の鮮度などが好評で、コロナ後も想定以上の(ユーザーの)定着率となっています。

――Amazonフレッシュの利用可能エリアを教えてください

荒川 2023年8月時点での配送エリアは、東京都19区6市、神奈川県2市 、千葉県6市となっています。そのほか、関東・関西でライフコーポレーション、関東・東海で成城石井、東海でバローと協業し、対象エリアのプライム会員は、追加の登録手続きや会費なしで、各社のAmazon.co.jp上のネットスーパーを利用できます。

他社スーパーの商品も購入できる強み

――他社のネットスーパーを運営することで顧客の奪い合いにならないのでしょうか

荒川 もともと、Amazon.co.jp上で、自社の小売り部門だけではなく、より幅広い品ぞろえ・サービスを展開するために出品ビジネスがあるのと同じ考えです。Amazonフレッシュでもちろん品ぞろえを追求はしていますが、ライフのようにすでにブランドを確立し、オンラインを強化したい企業と、お互いに強みを生かせると考え、協業しています。

Amazonフレッシュでは、できたて総菜・焼きたてパンなどは提供していないので、各社のネットスーパーと品ぞろえが違います。顧客動向を見ていると、2社使い分けている人、あるいは3社使い分けている人というのも相当数いらっしゃいます。各スーパーでしか買えないプライベートブランド(PB)もありますし、Amazonフレッシュでしか買えないミールキットといったオリジナル商品、取引先とAmazonフレッシュ限定で作っている商品もありますので、それぞれ品ぞろえの強みが違い、顧客を取り合うというよりは、プライム会員のお客様が、状況によって使い分けていただければと思っています。

<ライフの総菜も人気>
ライフの総菜も人気

――各社のPBが人気なのでしょうか

荒川 PBだけが人気なわけではありませんが、顧客によっては、提携先の各社の「この商品が買いたい」といったこだわりがあり、特定の商品にファンがいるようです。成城石井の魅力的な商品、ライフのように、少しリーズナブルな価格帯のPBから、ライフプレミアムとかBIO-RALといったちょっとハイエンドなこだわりのものまで幅広くお持ちだったので、やはりそういったものはアマゾンではそう簡単に取りそろえられるものではありません。魅力的な品ぞろえをぜひアマゾン上でも展開していただきたいですし、また、各社ももっとPBなどを幅広い層に知ってほしいというお互いの意向が合致しています。

――今後の提携先について教えてください

荒川 現在、首都圏、関西、東海と提携先を広げています。その他のエリアでも、お客様の需要があるところは考えていきたいと思っています。

<成城石井の商品も注文できる>
成城石井の商品も注文できる

約1万5000品目とリアルな中規模スーパー並みの品ぞろえ

――商品ラインアップも拡大していますね

荒川 Amazonフレッシュ全体で約1万5000品目を取り扱っています。中規模のスーパーマーケットとほぼ変わらない商品数をそろえています。品ぞろえは常にバイヤーが見直しをしながら、顧客ニーズに応えられるようにしています。

通常のスーパーで当たり前のように売っているNBだけではなくて、当社のバイヤーが取引先のメーカー、生産者とコラボレーションして、特別にそろえている商品もあります。

大容量で、よく使う野菜や冷凍食品をストックしておきたい需要も実感しています。コロナ禍をきっかけに、おうちでご飯を作って食べる人というのが増えてきていることも関係していると思います。また、子どものお弁当、あとは夏休みのお昼ご飯など、ストック用の大容量のものが売れています。

また、いくつか商品の軸を分けています。例えば、最近忙しい人が多いので時短を軸に、オリジナルのミールキットを開発したり、健康軸ではアレルギー対応食品があったりします。オーガニックの野菜も、非常によく売れます。食にこだわりを持って、利用しているユーザーが多いという印象を持っています。

――人気の商品について教えてください

荒川 Amazonフレッシュは、特集ページがあります。大容量、時短、糖質オフ・トクホ・オーガニックなど健康、北海道ストアといった物産展のようなページもあります。

バイヤーのこだわりのおいしいものストアも人気です。これはバイヤーが数カ月に1回、自分のこだわりのもの、目利きしたものを持ち寄って、みんなで試食をして、参加メンバーのうちの8割が「これはおいしい」と感じたものだけがこのページに掲載されます。

<おいしいものストアが好評>
おいしいものストア

――スーパーの店頭のような特集ですね

荒川 リアルなスーパーでもマグロは人気ですが、Amazonフレッシュでは、一度も凍結させていないマグロというのがあります。マグロはだいたい遠洋で取って、凍らせて持ってきて解凍するのが一般的ですが、近海の養殖のマグロを加工から1回も凍らせないで販売しています。土用の丑の日のウナギなども人気です。

ネットスーパーだから、米、水といった重いものばかり注文があるという印象を持たれる人も多いのですが、スーパーのリアル店舗と同じような商品が売れています。夏はキュウリ、ナス、トウモロコシなど青果、豆腐などがよく売れます。やっぱりスーパーの店頭で一番メインになって売れているようなものがよく出ます。あとはスイカですよね。冬になるとそれが根菜になったり、白菜になったりと季節の野菜、家庭で使いやすい豚コマ、カレー用に使うような肉もよく売れます。

――特売のページも人気ですね

荒川 最近、食品の値上げのニュースが多いですが、スーパーの皆様が、工夫して、少しでも安く商品を提供しようとしているのと同じで、私どもも月間特売にすごく力を入れています。300円以下の商品だけを集めたコーナーもあります。最後にカートに、送料無料になるために、追加しやすい商品も並べています。その他、季節の催事、プライムデーといったイベントも強化しています。

ネットスーパーも鮮度が命

――生鮮食品の鮮度を保つ工夫を教えてください

荒川 品質と鮮度を保つための工夫というのは、この6年間でずっとやり続けてきていますし、これは終わることなくこれからも続けていきます。日本の食のトレンドは豊かで、さまざまな食べ物が毎年出てくるので、それに合わせて取引先と梱包の工夫などを続けています。

<専任スタッフがチェック>
専任スタッフがチェック

特に野菜、果物というのは、一番鮮度を見る商品なので、野菜も果物もまずは入荷時から出荷まで鮮度チェックをかなりの頻度でやっています。入荷した時にしなびてないか、つぶれてないかとかいうのはチェックします。また、棚に入っている間も、野菜は生きているのでものによっては、小さい傷ができて、悪くなってしまうものもあります。そういった商品は出荷しないで、棚のチェック時に取り出します。

出荷する時も6面チェックと言って、上下左右前後、6面をチェックします。店頭で生活者が商品をチェックするのと同じようなことを、当社のピッカーが行い、注文者の目の代わりになります。イチゴなどデリケートな生鮮は、ちょっと下のほうがつぶれたりしないか、輸送に耐えられる状態かどうかというのを見て、新鮮で一番おいしい状態のものを届ける工夫を、6年前からやり続けていますし、季節によって(保管の)温度帯を変えている野菜もあります。

今年のようにかなり暑いと、野菜やデリケートなチョコレート入りのパンなどは、常温に置いておくと傷んできてしまうので、保管場所の工夫もしています。

――温度管理は、特に暑い夏は難しそうですね

荒川 倉庫の中で状態が良くても、自宅などに届いて手に取った時に、「新鮮」「おいしそう」と思える状態のためには、温度管理を徹底しなければなりません。輸送の仕方、梱包の仕方なども工夫が必要です。この6年間、何十回、何百回となくやり方を変えています。

梱包もスーパーマーケットですとトレーにラップでパックしてありますが、通販なので、搬送中に何かほかのものとぶつけて、破れてしまったりしないように、当社ではもうちょっと硬いパックに入っています。そういったネットスーパーならではの工夫というのもしています。

食品は、アマゾンで扱っているほかの商品よりも、とても扱いが難しい商品です。バイヤー、発注担当、マーケティング、マーチャンダイジング、倉庫の品質管理担当者、配送の担当者といった多くの社員が改善を続けています。流通業界経験者だけではなく、アマゾンの別の部署から異動した社員もいますが、皆が情熱を持って品質管理に取り組んでおり、本当に多くの社員の手によって品質・サービスが支えられています。

アマゾンという会社のカルチャーでもありますが、これでいいと満足しない、もっと何かできるはず、もっと早くお届けできるはずと常に改善を続けています。

配送枠・出荷能力を増強中

――配送の工夫について教えてください

荒川 配送には、1日朝8時から夜12時まで、8時、10時、12時といった、2時間ごとの8枠があります(エリアによっては朝7時から夜11時まで)。2時間の枠で待てないというお客様のために、追加料金をいただきますが、一部エリアでは、1時間枠でのお届けも可能です。例えば通常12時~14時で届くものが、12時~13時または、13時~14時の間で配送枠を選べるため、待ち時間を減らせます。これはAmazonフレッシュのほか、ライフでも取り入れていますが、意外に需要があります。

――そのほかに配送サービス向上策はありますか

荒川 配送枠も、例えば今日の午前中に届けてほしくても、すでにその枠が満杯になってしまうと利用できません。そこで、時間ごとの需要というのを随時チェックし、需要が多い時間帯は、もっと多く配送枠が持てるように人員を補充するなど、配送枠の充実も進めています。

<バローでは店舗受け取り開始>
バローの店舗受け取り

バローでは、名古屋市内で実験的に店内のカウンターもしくは、駐車場でのピックアップも導入しています。車通勤している人は、やはり名古屋のほうが多いです。子どもの送り迎えなどでも車を利用しているので、そのついでに受け取って帰ったり、日曜日の外出ついでに受け取ったり、地域のニーズによって、受け取り方法の多様化にも取り組んでいます。

<駐車場受け取りも可能>
駐車場受け取りも可能

――物流センターも拡充していますね

荒川 2022年11月に専用物流拠点「Amazonフレッシュ 葛西フルフィルメントセンター(FC)」を開設し、Amazonフレッシュ全体の商品保管・出荷能力の拡充を進めています。昨年までは川崎FC1カ所だったのですが、コロナ禍を経て、顧客の需要が大きくなり、手狭になったので昨年葛西FCがオープンしています。

FC内の倉庫レイアウトは、早いと週単位で変えています、店舗のようにカテゴリー別に分けるというより、温度帯で商品を選別しています。常温のところにお米もあれば、お菓子もあり、サイズによって分けています。

利用者は冷蔵、冷凍を満遍なく購入する場合が多いので、ピッキングは温度帯別に行い、最後出荷前のところで、1軒単位で配送できるように、取りまとめています。

ピッキングにも、Amazonのテクノロジーを導入し、効率的に商品をピックアップできるようにしています。注文が届くと、重い物から順に、かつ最短ルートで商品をピッキングするためのピッキングルートがピッカーの端末に送られます。

ピッカーは、その指示に従い、重い物から順に、無駄なく、商品を素早く集めることが可能です。チルドでも同様のピッキングを行っています。

冷凍は冷凍でピッカーが、サッとピッキングしないと倉庫が寒いので、アイスクリーム、冷凍食品などをまとめてピッキングできるよう、サイズごとに取り出しやすい仕様にしています。

<3温度帯商品を最後にまとめて配送>
3温度帯商品を最後にまとめて配送

――ドライバーが使用するトラックは、3温度帯対応ですか

荒川 車は基本、常温の軽バンです。(配送用の)バッグの中に保冷剤が入っています。車の中は通常位の冷房は効いていますが、季節によってバッグに入れる保冷剤の数も工夫しています。暑い時期のアイスクリームは、溶けないように専用の梱包材を使用していますし、特に夏は温度管理に気を使っています。

<ライフの配送車両>
ライフの配送車両

パーソナライゼーションされたカートでクイックな買い物実現

――配送以外のユーザーの利便性向上策について教えてください

荒川 基本の検索のしやすさ、買いやすいカテゴリー分けに加えて、買い物傾向で提案するパーソナライゼーションされたカートを提供しています。例えば、各家庭で購入する牛乳などは決まっていますよね。毎週買う牛乳を変える家庭はあまりないと思います。お客様は過去の注文履歴から、もう一回同じ商品を買うことができます。過去何回買ったかといった、頻度も確認可能です。過去の購入履歴のところに行って、購入頻度別に並んだ商品を選ぶと、買い物が10分ぐらいで終わります。

<パーソナライゼーションされたカート>
パーソナライゼーションされたカート

さらに、過去の注文履歴を一括で、カートに追加する機能もあります。それを利用すると、在庫がある限り同じカートの状態をもう一回作れます。そうすると、定番で買っているものはそのまま、例えば「先週おしょうゆを買ったけどまだおしょうゆはあるし」と外したり、逆に、「あっこれ、安くなっているからこれを追加しよう」と足したり、カートを作りやすく工夫しています。

――ユーザー拡大のためどんな施策を取り入れていますか

荒川 一般的なインターネット検索対応もしていますが、それに加えて、生活者の自宅にダイレクトメールを送っています。そこにクーポンを入れたり、本当に目で見てもらったり、Amazonフレッシュも、ライフ、成城石井、バローでも実施しています。アマゾンのような会社が紙で対応しているのにびっくりされるのですが、ダイレクトメールのクーポン経由で注文する人も多く、有効な施策となっています。

――今後の展開について教えてください

荒川 まずAmazonフレッシュとしては、充実した品ぞろえ、お求めやすい価格、欲しいときに欲しいものをきちんと良い状態で届くというのを突き詰めていきたいです。ライフ、バロー、成城石井と、とてもいいパートナーシップを組ませていただいていますので、アマゾンの得意としているUIのテクノロジー、配送などと、各社がもともと得意とされている品ぞろえ、本当に素晴らしいPBなど、お互いの強みを合わせて、もっと多くの生活者に充実したサービスを提供することを追求していきたいと思っています。

取材・執筆 鹿野島智子

■荒川 みず恵氏略歴
アマゾンジャパン
Amazonフレッシュ事業本部
荒川 みず恵 事業本部長 
アマゾンジャパンのAmazonフレッシュ事業本部長として、Amazonプライム会員向けの生鮮食品のオンライン販売および最短当日配送に関する各事業を統括。米系インターネット広告配信企業での勤務等を経て、2002年よりコンサルティング会社にて企業のオンラインマーケティング戦略立案等に従事。2006年アマゾンジャパンに入社。出店ビジネスやフルフィルメントby Amazonのシニアマネージャーを経て、2015年6月より、Amazonプライム会員向けサービスの「Amazonフレッシュ」の事業立ち上げと推進に従事。2017年9月より事業本部長として、Amazonフレッシュに加えて、ライフやバローといった大手食品スーパーとの協業事業の立ち上げと推進にも従事。

■アマゾンの関連記事
アマゾン/千葉の物流施設にロボット2600台、働きやすさで物流品質向上

関連記事

トレンド&マーケティング 最新記事

一覧

最新ニュース

一覧