サンマルクカフェはコロナ禍を経て、第2の創業期を迎え、ベーカリーカフェへの回帰を図っている。2022年7月に就任した鎌田滋之社長にベーカリーカフェ強化のための商品開発、店舗展開、人材育成などについて聞いた。(取材日:11月28日、於:サンマルクカフェ千駄木研修センター)
強みの「店内製造」ベーカリーに注力
――コロナ禍で落ち込んだ業績は回復していますか
コロナ前の2019年に対して数字はもう戻ってきて、おかげさまでV字回復しています。これは、ベーカリーカフェへの回帰という戦略が軌道に乗りつつあるからだと思います。
――ベーカリーカフェへの回帰について教えてください
鎌田 サンマルクカフェを含め喫茶業態は、在宅勤務の増加などによりビジネス街の人流が変わり、売上・客数が苦戦する苦しい状況が続きました。社長就任以来、あらためてサンマルクカフェを分析すると、ドリンクからパンまで店内製造で、鮮度の高い商品を提供している点が強みだと感じました。
一時期、サンマルクカフェは、メインとして訴求している商品がわからない。従業員も何を売りたいのかがわからない。どんどん本部から新しいカテゴリーの商品が送られてきて、提供商品が増え、何にフォーカスしているのかわからなくなっていた時期がありました。商品が増えると、オペレーション負荷がどんどん高まって、店舗も生産性がダウンしてしまうという悪循環に陥っていたのです。そこで、ベーカリーカフェへの回帰という戦略を打ち出し、改革を進めてきました。
他社ですとセンター、セントラルキッチンでつくったものを店舗に持ってきて、それをお客様にお届けするかたちが主であると思いますが、当社の場合は店内製造にこだわっています。私自身も外部から社長に就任しましたので、驚いたのが、サンドイッチ1つにとっても、見た目はビニールの袋に入って、センターなどで作ったものを納品したように見えますが、実際はサンドイッチまで全て店舗で作っています。
そこで、ベーカリーの店内製造の強みを生かし、主力商品の「チョコクロ」を軸に、ベーカリーカフェに回帰する新たな戦略を推進しています。
季節限定「プレミアムチョコクロ」がヒット
――「チョコクロ」をどのように強化したのですか
鎌田 サンマルクカフェを支持してくださるお客様は10~80代と幅広く、特に40~50代は「チョコクロ」が最初にヒットした時期に10~20代を過ごしており、「チョコクロ」にポジティブなイメージを持っています。また、若い世代にもあらためて「チョコクロ」の魅力に気づいてもらい、客層をより広げるため季節限定の「プレミアムチョコクロ」の開発に力を入れています。
――「プレミアムチョコクロ」はどのような商品ですか
鎌田 積極的に他社とコラボレーションしたり、こだわりの材料を使ったりしています。京都の老舗「辻利」とコラボした「プレミアムチョコクロ 宇治抹茶 -極み-」、ハワイアンホーストとコラボした「プレミアムチョコクロ ハワイアンホースト マカダミアナッツ」がヒット商品になりました。生地にまで抹茶やチョコレートを練りこむという、当社では今までやってこなかったイノベーティブな商品が好評でした。
コロナ禍によって、「いいものを買いたい、でも、節約できるものは節約したい」と両極端に消費が分かれたというトレンドに「プレミアムチョコクロ」がマッチしたと思います。そういった中で、私たちはまさに、よりちょっとでもいいものを食べたい、せっかくだったら、お金を使うならいいものを食べたいというお客様のニーズに対応していると感じます。
また、SNSで発信したくなるようなかわいらしい見た目にも注力しており、ハロウィン限定の「プレミアムチョコクロ いたずらおばけのWスイートポテト」も大変好評でした。この商品は店舗スタッフ出身の若手メンバーがリーダーシップをとって開発したもので、ベーカリーカフェへの回帰や自ら考えて動くという意識が社員に根付いているのを感じます。
スムージー・デニブランも人気商品に
――若年層にはスムージーも人気ですね
鎌田 スムージーも、Z世代を意識し、写真を撮りたくなるかわいらしい見た目にこだわっています。クリスマス限定メニュー第1弾「Holiday ストロベリーショートケーキスムージー」は、早い段階で売り切れるほど人気でした。クリスマス限定メニュー第2弾「真っ赤なお鼻のトナカイメープルスムージー」は、トナカイに見立てたチョコの角がついていて、とてもかわいらしい商品になっています。
パフェやデニブランといったスイーツも若い人中心に好評ですね。見た目がかわいらしいパフェが食べられると人気です。今の生活者のトレンドは、節約しつつも、自分がこだわりたいものにはお金をかける傾向があります。そこに、当社のスムージーやパフェもうまくマッチしたのではないでしょうか。
また、社内に冷たい商品は冬には売れないという思い込みがあったのですが、サンマルクカフェは309店舗のうち200店舗近く商業施設に出店しています。商業施設内は冬でも温かいですし、冷たいドリンク・スイーツの需要があるので、冬にも、高単価なスムージーやスイーツを販売することで、利益率を高めることができています。
――販促にSNSも活用していますね
鎌田 SNSを積極的に活用しています。新商品の紹介、キャンペーン告知、「チョコクロ」を使ったアレンジレシピなどを配信しています。サンマルクカフェは今まであまり情報発信してこなかった歴史がありますので、もっと多くの方にサンマルクカフェの魅力を知っていただけるよう、スイーツも、食事メニューもおいしく楽しめる情報を発信していきたいです。
――食事メニューの改革について教えてください
鎌田 サンマルクホットサンドが好評です。食事需要に対応したメイン商品として、新たに開発し、人気商品となっています。一時期はドリア、かき氷、どら焼きなどさまざまな商品を投入していたのですが、やはり、あらためてパンがおいしい、ベーカリーカフェへの回帰として、パンメニューを強化しています。
――パンに合わせるコーヒーもリニューアルしましたね
鎌田 2023年9月、ドリップコーヒー「サンマルクブレンド」を大幅刷新しました。創業以来初の大幅なリニューアルです。サンマルクカフェのコーヒーは苦味が強いという意見が多くありましたので、苦みを抑え、しっかりしたボディ感がありながらも、アフリカの豆を使い、華やかな香りのコーヒーにリニューアルしました。さらに飲みやすく、より多くのお客様に気軽に楽しんでいただける味わいに進化させました。
もともとコーヒー大手で焙煎士として活躍していたメンバーを中心に、豆の選定、どういったものが一番私たちのお客様にマッチするのか研究し、リニューアルしました。各店舗で、お客さまの最高のひとときを創造できるよう、フードもドリンクもブラッシュアップしています。
不採算店の閉店で1店舗の営業力高める
――出店戦略について教えてください
鎌田 今期、新規出店はせず、不採算店舗を24店舗閉店しています(2023年11月現在)。1店舗当たりの営業力を高め、生産性を高めることに注力しています。
これにより、閉店した店舗の人材を既存店に振り分け、接客や商品のブラッシュアップにつなげています。人を充足させてしっかり営業体制を強化し、来期は出店を再開する計画です。
――出店エリアはどちらを検討していますか
鎌田 ブランドにマッチした候補地があれば、商業施設、路面店など形態にこだわらず、積極的に出店したいですね。今期は理想的な店舗形態の構築に取り組んでおります。
また、サンマルクカフェが現在出店している都道府県は現在43都道府県ですが、山形県、長野県、石川県、福井県にはまだ店舗がありません。この出店していない県で、サンマルクカフェを楽しんでいただけるよう店舗を出したいと思っています。
既存店改装で収益アップ
――既存店の改装について教えてください
鎌田 時代のニーズにあった改装を進めています。子ども連れの女性には動かしにくい重いソファをやめたり、ベビーカーが通りやすいよう通路を広げたりと、顧客利便性を高めています。ファミリー利用が多い商業施設内の店舗では、ゆったり座れる席を配置しています。
椅子の後ろにバッグスペースがあって、そこにバッグを置いて、バッグを下に置かず、汚さずに座れるような、そういった新しい椅子も導入しています。
また、コロナ前は2人席が多かったのですが、おひとりでご利用になる方も増えていますので、1人席を増やし、客席の稼働率を上げています。
ビジネス街に立地する店舗にはコンセントの電源、Wi-Fiなどを拡充しています。
――新業態について検討していますか
鎌田 今はベーカリーカフェへの回帰を重視し、既存店を強化している段階ですので、明確な計画があるわけではありません。しかし、「チョコクロ」やスムージーは人気がありますので、スイーツなどカテゴリーに特化した業態も検討してみたいです。
――DX面の施策もテストしているのですか
鎌田 実験店では、人手不足・DX施策として、セルフレジを導入しました。スタッフのレジ作業を減らしたことにより、パンの製造に注力でき、効率アップしています。レジ待ち時間、レジミス削減につながっており、クレームが減少するといった結果にもなっています。コスト削減だけでなく、セルフレジ導入が売り上げアップにもつながっています。
スタッフがいかにおいしいパンを作ることに注力でき、お客様に喜んでいただけるか。人手不足対策、コスト・業務負担の削減で生産性を上げられるか両面で実験しています。
――人手不足に外国人人材を活用していますか
鎌田 ありがたいことに現在、当社はそこまで人手不足ではありません。しかし、日本社会の5~6年後を考えると、積極的に外国の方にも入社していただく必要があります。現在、外国の方に入社してもらい、リーダーにもなってもらえるよう、外国人採用にも取り組みはじめたところです。
また、現在、サンマルクカフェはシンガポール、フィリピンに海外展開をしていますので、将来的に、日本国内の店長や幹部だけでなく、海外展開をリードする人材になってもらいたいと期待しています。
若手の意見でヒット商品も
――人材教育について教えてください
鎌田 人材教育はさらに強化しようとしているポイントで、2024年から新しい人事・教育制度を導入する予定です。
当社には、アルバイトも含めると約7000人のスタッフが在籍しています。今までも、マニュアルがしっかりあって、それを覚えてもらい、お客様においしい商品を提供し、店の運営を行ってきました。新しい教育システムは、マニュアルがベースとしてありながら、アルバイト、店長、スーパーバイザー、ディストリクトマネージャー、エリアマネージャー、それぞれのステップで一体何をしなければいけないのか、その要件を教育するものになっております。
常にステップアップしていくような教育を実施し、より働いているスタッフが学びを感じ、成長を感じてモチベーションを高く持てるシステムに刷新します。
――自主性をより重視しているのですね
鎌田 当社は以前、亡くなった創業者・片山直之氏を軸に、業態開発や店舗開発、商品開発などを進めてきた会社でした。そのような創業者ドリブンの会社から、社員みんなで考えて構築していく、そういった会社にしていこうとしています。ですので、自主性を大事にしないと、サステナブルな組織になっていきません。
サンマルクカフェは、今、新しいステージ、第2の創業期にあるのだとスタッフに言っています。今まで創業者がつくってきた土台を生かしながら、新しい組織をつくっていきます。天国にいる片山さんに、「大したもんだなと、これだけできるんだ」と思ってもらえる、そんな組織にしたいですね。
先ほどお話した、かわいらしい目玉がついた「プレミアムチョコクロ いたずらおばけのWスイートポテト」をヒットさせたのは、店舗出身の若い女性メンバーです。みんな1人1人が自分のアイデアを提案し、そして新しい商品を生み出していく。そんな企業にだんだん変わりつつあります。そういう組織になれば、人に言われたことをやるだけの会社より楽しいのではないでしょうか。自分のアイデアを具現化して、世の中に出して、お客様に楽しんでいただく。みんなで考え、そして楽しく働ける職場にしていきたいと思っています。
――サンマルクカフェの一番の魅力を教えてください
鎌田 ドリンクからパフェやベーカリー商品まで全て店内製造で、新鮮さとおいしさにこだわった商品が魅力のNo.1ベーカリーカフェブランドになります。「プレミアムチョコクロ」、季節のスムージーやパフェ、デニブランなど味はもちろん、見た目も魅力的になった新しいサンマルクカフェを皆さんに楽しんで頂きたいです。最近サンマルクカフェに行っていない方にも、お店にお越しいただき、新たなおいしさ、楽しさを発見し、最高のひとときを過ごしていただければ嬉しいです。
取材・執筆 鹿野島智子
■鎌田社長 略歴
日系および外資系広告代理店にてフォードモーターやP&G等を担当。その後スターバックス コーヒー ジャパンにてマーケティング本部や経営企画本部に所属し、リテイルマーケティングやサントリー社などとの提携事業であるCPGビジネスに加え新規事業などを担当する。
2022年サンマルクホールディングスに入社し、同年7月にサンマルクカフェ 代表取締役社長に就任。現在に至る。
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