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賃上げ2024/イオングループ労働組合連合会 永島智子会長インタビュー

2024年03月14日 10:52 / 流通最前線トップインタビュー

イオングループ労働組合連合会 永島智子会長

イオングループ労使は2022年秋、労働協約を締結。2023年、2024年春季労使交渉ではグループのパートタイム従業員の時給一律7%アップの統一方針を打ち出し、「攻めの賃上げ」に転じている。イオングループ労働組合連合会の永島智子会長は「働き手を大切にしない企業は存続できない。年収の壁問題もあるが、さらに社会として賃上げ・労働条件改善を考えていかないと、少子高齢化時代を生き残れない」と危機感を募らせている。永島会長に労働協約の狙い、2024年労使交渉の推移、年収の壁問題などについて聞いた。

――2022年締結した労働協約の狙いは

永島 人手不足対策といった、中長期で話し合っていかないといけない労使共通の課題が増え、スピード感を持って、世の中の変化に対応していくため、労働協約を結びました。

賃上げと生産性向上を同時に実現するには、春季の労使交渉に集中するだけなく、通年で課題に取り組む必要があるというのが、労使の共通認識としてありました。

そこで、労働協約を結び、賃上げの目標数値など大方針はグループ統一で決め、各社の目標はそれぞれで実践する、その役割分担を明確にし、グループシナジーを生み出していこうとしています。

――具体的な取り組みを教えてください

永島 グループの人事、労組などから聴取した課題を、働きがい・生きがい分科会、生産性向上分科会、労働条件分科会、未来づくり地域推進、海外労使関係分科会の5つの分科会が通年で話し合い、その結果をグループ労使協議会に答申し、グループ方針を決定する仕組みです。

大きな会合は四半期に一度ですが、それ以外にも経営課題について、労使で頻繁に話し合っています。

――2年連続でパート時給7%アップと大きな目標を掲げました

永島 コロナ前から、最低賃金が上昇しており、中長期的にさらに上がることが予想されていました。インフレ下の賃上げは、後手に回って対策するのではなく、最低賃金を越えていかなければならないという危機感が現場にありました。

2022年段階で最低賃金が4%程度上がっていました。正社員との格差是正と考えあわせても、2023年春闘のパート時給7%アップというのは、根拠のない数字ではありませんでした。

また、現在のイオングループは約55万人の従業員がおり、そのうちパートは約40万人です。また、イオン労連の組合員は約30万人、そのうちパートは約20万人。労連加盟のパート平均時給は約1160.88円、組合を組織していない企業も含めると約1069円です。

――賃上げの効果は

<2024年賃上げは満額妥結が続いている>
2024年賃上げは満額妥結が続いている

永島 2023年の賃上げは、採用に有利に働きました。ずっと賃金が上がっていなかった世代もいます。パート時給のアップだけでなく、正社員のベースアップも実現したので、現場の士気があがりました。従来のコストカット型の改善から、お客様に選ばれる店舗になるための思い切った賃上げ・生産性向上で、労使の意識が攻めに転じたと思います。

当社は地域貢献を重視した経営を推進していますが、能登半島の地震など災害時は、地域のライフラインとして、店舗は重要な役割を果たします。自身も被災者でありながら、一日でも早い営業再開から被災地の復興支援まで、現場のスタッフが地域のためにがんばってくださって、頭が下がります。彼らのためにも、現場に報いる賃上げ・労働条件の改善は欠かせませんでした。

2024年の春季労使交渉でも、グループの統一方針を2023年より早い段階で打ち出しましたので、2月後半からイオンリテールを筆頭に、正社員・パートともに満額妥結が続いています。

――「年収の壁」問題について教えてください

永島 当社の方針としては「年収の壁」を越え、パートの方に、積極的に活躍していただくことを推奨しています。

昨年10月から、キャリアアップ助成金に「社会保険適用時処遇改善コース」が新設され、パート・アルバイトの方が、「年収の壁」を意識せずに働けるよう、「年収の壁・支援強化パッケージ」が始まりました。

年収106万円以上となることで、厚生年金・健康保険に加入するため保険料負担をさけて、就業調整する方に向け、手取り収入を減らさない取り組みをする企業に対し、労働者1人当たり最大50万円が支援されます。

また、年収130万円以上となることで、国民年金・国民健康保険に加入するため、保険料負担をさけ、就業調整する場合、繁忙期などで収入が一時的に上がったとしても、事業主がその旨、証明することで、引き続き被扶養者認定が可能となる仕組みもあります。

パートの方に、こういった制度など積極的に知ってもらうための説明会を行い、制度を活用してもらったり、個々の契約の中で各人のニーズをくみ取ったり、それぞれのライフスタイルにあった働き方を推奨しています。

――イオングループの賃上げ以外の労働条件改善について教えてください

永島 パートの正社員登用制度を進めていますし、イオンリテールでは、同一労働同一賃金に近い、制度も取り入れています。正社員は月給制、パートは時給制という違いがあっても、パートの方でも、上位職に昇進でき、処遇が正社員と同じになるものです。2年ほど前から導入し、時間帯や勤務日数など柔軟な働き方を実現しながら、キャリアアップできると非常に好評です。

仕事基軸の制度で、能力があれば、パートでも正社員をリードする立場にもなれる制度ですから、大変画期的だと思います。

そのほかも、基本的に同一労働同一賃金の考えをベースに、制度を整備しています。女性社員の育休制度利用は、ほぼ100%ですね。転居・転勤なしの地域限定社員制度もあります。

さらに、転勤可能な社員には、その分手当を付けるなどして、年代・ライフスタイルの異なる社員間で、なるべく不公平がないよう制度設計を変えていっています。

<システムも個人の意識も変革必要と永島氏>
システムも個人の意識も変革必要と永島氏

――働きたい会社にならないと生き残れないと

永島 人がいなければ成り立たない、流通業のような労働集約型産業において、業界内の労働力の獲得合戦だけではなく、少子高齢化で、業界を越えた、労働力の奪い合いになっています。人を大切にしない企業に人は集まりません。優秀な人材を獲得できなければ、企業存続の危機です。

現在の賃金や人事制度は、高度成長期にはよかったのかもしれませんが、時代の流れ、働き手のライフスタイルの変化などには対応していなかった。やっと流通業の現場の実情に、人事が追い付いてきた感があります。パートの採用が大変なことや、年末に「年収の壁」を意識し就業調整が行われ、現場が人のやりくりに苦労していることは、何年も前から労組は指摘してきました。

このような制度改革がこの数年目立っていますが、賃上げも、同一労働同一賃金に近い制度も、長年粘り強く取り組んできたことの成果です。コロナ禍などを経て、エッセンシャルワーカーの世の中への貢献が、可視化されてきたことも追い風になったかもしれません。

現場の生産性向上、企業個別の人事制度の改善も重要ですが、将来的には、賃上げの社会システムを変えたい。日本全体で、働く人の目線に立った社会保障制度の整備、社会システム構築が必要です。

働く皆の意思、1人1人が声をあげていくことも重要です。社会のシステムと個人の意識、両方が変わっていかないと。ありとあらゆる手段を使って、世の中を支えるエッセンシャルワーカーの働き、賃上げの重要性の社会的認知度を高め、日本全体の生活を守っていきたいと思います。

■永島智子氏略歴
大阪府出身。1993年(後にイオンの傘下に入る)ニチイ入社。2000年から労働組合専従になり、イオンリテールワーカーズユニオン中央執行委員長などを経て、2018年10月から現職。2020年9月からUAゼンセン副会長・流通部門部門長を兼任。

取材・執筆 鹿野島智子

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